地味化する女子アナたち
最近、若手の女子アナに勢いがない。かつての高島彩のような、入社数年で人気ランキングのトップに登りつめるような存在も見当たらない状況だ。
6月上旬に配信された『読者1000人にガチンコ大アンケート「いま一番好きな女子アナ」は誰?』(FRIDAY)という記事でも、1位はもはや不動の水卜麻美。彼女をはじめ、上位10人には、江藤愛や大下容子、西山喜久枝といった中堅やベテランが健在ぶりを示している。
30歳の井上清華が2位につけているものの、過去の『めざましテレビ』(フジテレビ系)MCと比べると、小粒な印象は否めない。なお、20代は日本テレビの岩田絵里奈(29歳)とテレビ東京の田中瞳(28歳)のふたりだけ。
それこそ「女子アナ30歳定年説」というものまでささやかれた時代を思えば、活躍できる年代が広がったともいえるが、ちょっとさびしくもある。シーンを活性化させるのはやはり若手の台頭だし、この状況は女子アナという存在が地味化しつつあることを感じさせるからだ。
ちなみに、女子アナブームが始まったのは平成の初期。火をつけたのはフジテレビで、中井美穂や河野景子・有賀さつき・八木亜希子の三人娘がアイドル的人気を得た。
続いて、日本テレビが永井美奈子や関谷亜矢子、米森麻美、大神いずみらを輩出して対抗。NHKを含めた他局もこれに倣い、女子アナを前面に出した番組作りを行って、百花繚乱というべき華やぎが生まれた。
会社員でありながら芸能人のようでもある
その華やぎは、私生活でも振りまかれることになる。プロ野球界や相撲界などの大物との結婚が相次ぎ、その披露宴が生中継されて高視聴率を記録したりした。いわば、女子アナは会社員でありながら芸能人のようでもあるという不思議な存在になったわけだ。
そんな状況に、当人たちは戸惑っていた。1995年に八木亜希子を取材した際、こんなことを言っていたものだ。
「お給料も、じつは一般職と変わらないんです。働けば働くほど安くなるシステム(笑)。仕事のうえでは、OLなんです。でも、プライベートになったとき、OLでは済まされない。ハンパな場所にいるんですよね」
ただ、その「ハンパ」なところがブームにつながったともいえる。彼女たちはある意味、アイドルの代わりだったからだ。80年代の序盤から中盤にかけてブームを起こした歌謡界のアイドルは、終盤になると失速。それはアイドルとしての決まりごとをちゃんとやらなくなったからだ。
たとえば、中森明菜の『少女A』などで知られる作詞家の売野雅勇は当時、こんな発言をしていた。
「アイドルとはいかに媚びをシステム化するか、だ」
その、システム化された媚びをやりたがらないアイドルが増えたのである。かわいくない言動をわざとしたり、自分で詞を書いたり、水着になるのを拒否したり。
そんななか、女子アナは会社員なので、テレビにおける決まりごとをちゃんとこなそうとする。かわいく振る舞うし、独りよがりな意見は慎むし、バラエティー番組の熱湯CMで水着にもなった。歌謡界のアイドル以上にアイドルらしい存在として、男性ファンのニーズに応えるかたちになっていたわけだ。
しかも、女性に対しては、憧れと妬みをかきたてた。それこそ、松田聖子のようなアイドルが、憧れと妬みを両方引き受けることで巨大化していったように、女子アナも憧れと妬みを買うことで多大な注目を浴びることになる。
当時、フジテレビが女子アナたちに歌わせたオムニバスCDを二度制作しているが、そのタイトルは『才色兼備』。まさに、才色兼備を活かして大企業に入り、玉の輿にまで乗ってしまう女子アナは、アイドル以上に憧れと妬みを向けられて当然だった。
媚びを歓ぶ男性と、憧れと妬みで注目してしまう女性、女子アナブームが長続きした理由はそこだろう。
量産型「シンデレラ」に食傷
ではなぜ、最近の女子アナは地味化しているのか。さまざまな要因が考えられるが、ひとつには「戸惑い」が薄れ「ハンパ」な面白さが消えたからだろう。
アイドル化が進めば進むほど、女子アナになる人もそういうものだと思って目指すし、見る側もそういうものとして見るようになる。つまり、双方に「慣れ」が生じて、新鮮な意外性がなくなった。
大学時代にアナウンススクールなどに通いながらミスコンで活躍、入社後も仕事をしっかりこなしつつ、有名人と結婚、そんなパターンが相次ぐと、シンデレラストーリーとしては食傷気味となる。シンデレラはそんなにいっぱい要らないのだ。
それでも、水卜麻美は大食いキャラで、田中みな実や弘中綾香はあざとキャラで、新鮮な意外性を示したが、それ以降の女子アナはやはり勢いがない。そんな状況を象徴しているのが、ブーム中期から現れ始めたアイドル出身の女子アナたちの軌跡である。
即戦力としての「坂道出身」女子アナ
「おはガール」出身の平井理央(フジテレビ)や「モーニング娘。」出身の紺野あさ美(テレビ東京)「乃木坂46」出身の市來玲奈(日本テレビ)や斎藤ちはる(テレビ朝日)に「櫻坂46」出身の原田葵(フジテレビ)などなど。平井や紺野が女子アナになったときは、異色の存在としてかなり話題になったが、市來以降はそうした印象はない。
おそらく「坂道系」アイドルと女子アナのイメージに大きなズレがないからだろう。ルックスも言動も洗練されていて、勉強もできそうで、高学歴の人も珍しくない。学業優先を理由に卒業する人も目立つし、かと思えば、乃木坂に今年加入した6期生11人のうち、矢田萌華と長嶋凛桜は地元トップの進学校に通っていたとされる。
また、日向坂46時代に東大を目指した影山優佳のような人もいるし、大学に行かなくても、朝の情報番組で女子アナ的な役割をソツなくこなしてみせる一ノ瀬美空(乃木坂46)や松田里奈(櫻坂46)みたいな人もいる。
大人数グループの時代が続き、また、芸能界が昔ほど怖い世界でなくなった(?)からか、才色兼備の優等生タイプもアイドルを目指すようになり、その象徴が坂道系なのだ。
一方、女子アナがアイドル化していく流れのなかで、ならばいっそアイドルを女子アナにしてしまおう、という感覚が生まれ、特に即戦力として白羽の矢が立ちやすいのが坂道系だったともいえる。
なかでも、斎藤ちはるは入社と同時に『羽鳥慎一モーニングショー』の二代目アシスタントを任された。その後もエースアナへの道を順調に進み、前出のランキングでも17位につけている。なお、今年の初めに『週刊現代』で実施されたアンケート(あなたの好きな「女子アナ」ランキング!)では、7位となり、井上清華の9位を上回った。
ただ、彼女の場合、女子アナシーンの起爆剤とまではいかない。今のポジションにも自然に馴染んでいて、アイドルだったことを忘れさせるほどだ。思うに、女子アナとアイドルの曖昧化を示す存在である。
再び「花形職業」となるために
そういう意味で、今後期待したいのは、女子アナのイメージを変えてしまうほどの、大きなインパクトをもたらす存在。そもそも、アイドルと女子アナの両方になれること自体、貪欲なメンタルと多彩な才能を持っている証だ。アイドル時代のキラキラ感を維持したまま、女子アナになり、いきなり報道からバラエティーまでマルチに活躍するような人が出てくる可能性もある。
たとえば、芦田愛菜がスーパー子役から大女優への階段を昇りつつ、大学進学もして、バラエティーやCMをこなしているように、そんな女子アナが出現すれば、シーンもまた活性化するのではないか。
そのとき、女子アナは再び「花形職業」としての勢いを取り戻すはずだ。
・・・・・・
【もっと読む】『和久田アナ&桑子アナの「後継者」としてNHK上層部が大注目…!タモリも絶賛するNHK地方局アナの意外な名前』