2男3女と5人の子どもの父親にして芸能界ではまだ異例だった男性育休を二度取得し、その後も保育士の資格取得、今年、4年制大学のこども心理学部を卒業と、つねに新しいチャレンジを続けているつるの剛士さん。
50歳という人生の節目を迎え、初めての子育て本『つるのの恩返し』を出版した。
自身の基盤は家庭と語り、結婚20年を超えても夫婦仲良し、5人の子どもは、海外留学、学業、趣味などそれぞれが好きな道を歩んでいる。本書は自身がそんな家庭を築いた礎となる両親から得たものや夫婦関係、子育てについて率直に綴った一冊だ。サブタイトルにもなっている「心はかけても手をかけない」という言葉は、つるのさんにとっても重要なキーワードとなっている。そこでつるのさんにインタビュー。令和時代の夫婦関係と家庭の築き方、子育ての秘訣を語ってもらい、その言葉に込めた思いも聞いた。
撮影/大橋友樹 取材・文/松井美緒
育休で妻と世のママたちの心のモヤモヤに気づいた
――つるのさんは、2010年、第4子が生まれる際に、育児休業を取得されました。「イクメン」の代表と捉えられるようになりましたが、そのことには違和感を感じていたそうですね?
つるの:イクメンと言っていただいてありがたい反面、かなり戸惑いがありました。イクメンはいるのに、イクママがいないのはおかしいと思いましたし、僕は妻を手伝いたかったのであって、育児第一で育休を取ったわけでもなかったんです。
妻は、僕がイクメンと呼ばれることには、何も言っていなかったですね。内心、「いやいや、そんなに家事も育児もしていないでしょ」と思っていたかもしれませんが(笑)。僕自身は、育休を経て大きく変わったと思います。ママたちの日常がどれほど大変か実感し、妻と世のママたちの心のモヤモヤに初めて気づきました。それによって育休後も家庭では何かに気づいたら能動的にパパッと動けるようになったし、妻にも「おつかれさま」「ありがとう」と心から伝えられるようになりました。妻も、家庭内に僕という理解者ができたことで、安心できたんじゃないでしょうか。
――仕事と育児の両立に悩む、現代の父親たちにアドバイスをいただけますか?
つるの:今は、男性の育児休業の制度が広く浸透していますから、ぜひ取得したほうがいいと思います。その期間中はパパが真剣に家事に取り組んだという実績を、ママに見てもらう。そうすればパパはママの一番の理解者に格上げされて、その信頼関係をもとに、一緒に家庭を作っていけると思います。
夫婦円満の秘訣はお互いに干渉しないこと
――妻の美紀さんとのコミュニケーションで、大事にしていることはありますか?
つるの:僕にとって生きるための基盤は家庭で、家庭の土台となるのは夫婦だと思っています。だからある意味、子どもより何より、妻の美紀ちゃんが大事。でも、ベタベタした関係ではありません。「お互いに干渉しないこと」が、つるの家の夫婦円満の秘訣なんです。僕は妻のやりたいことを絶対に邪魔しないし、妻も僕のやりたいように自由にさせてくれています。
ちなみに僕は、子どもたちの前で妻のお尻を触ったりします(笑)。娘には「キモッ」と言われますが、「パパはママが大好きなんだから、いいじゃん」と。考えてみれば、僕の父も母のお尻を触っていたんですよね。僕は子ども心に、仲良くていいなと思っていました。それで僕も同じことしちゃってるのかな(笑)。
――50歳を迎え、これからの人生、美紀さんとはどのような時間を過ごしていきたいですか?
つるの:本でも触れましたが、僕は子育ては夫婦の土台作りの期間だと思っています。だから仕事ばかりで家庭を顧みないとか、子どもばかり気にかけてパートナーを疎かにするなんて本末転倒です。これまでの結婚生活20年あまり、僕たち夫婦は家庭という基盤を築いてきました。今後の人生後半戦は、その上の新しいステージに二人で昇っていくのかなと思います。まだ末っ子の次男が小学3年なので、しばらく先ではありますが、子育てを終えて夫婦二人の時間を過ごすのが、僕は楽しみでなりません。妻は子育てに時間を割いてくれてきましたから、やりたいことがいっぱいあると思います。僕は妻の夢を全力で応援していきたいです。
両親から受け継いだ、「子どもを信頼する」子育て
――『つるのの恩返し』のサブタイトルにもある、つるの家の子育て哲学「心はかけても手はかけず」について教えてください。
つるの:最近、子どもの数が少ないこともあってか、お子さんを心配して、過保護になってしまう親御さんも多いように感じます。その気持ち、僕もよくわかります。でも、子どもは自然に育つものです。夫婦関係と同じように、妻と僕は5人の子どもたちの世界には干渉しません。彼らがやりたいとを自由にやらせています。5人とも個性も得意なことも苦手なこともバラバラですが、みんなすくすく育っています。だから、みなさんもそんなに心配しなくても大丈夫。子育ては、子どもを信頼することが大切なんじゃないかなと思います。
――「心はかけても手はかけず」は、つるのさんのご両親から受け継いだものだそうですね。
つるの:両親は僕の子育てのお手本です。僕の実家の靍野家も大家族で、僕は4人兄妹の長男として育ちました。父も母も、僕が小さいころから家計を支えるために忙しく働いていて、昼間は僕ら兄妹だけでお留守番していました。僕らは子どもだけで買い物に行ったり、おやつを工夫して作ったりしていました。両親はそういう僕らを、何も言わず見守ってくれていたと思います。そして、好きな仕事に邁進する背中を見せてくれていました。
でも、当時は僕にとってそれが当たり前で、両親の「心はかけても手はかけず」という思いには気づいていませんでした。自分に子どもができて、ようやく理解できるようになったんです。子どもを見守って、あえて何も言わないことの難しさも痛感しました。つい、いろいろ口出ししたくなっちゃう。心配より信頼、という子育てのためには、親にも勇気が必要なんですね。
親自身が夢を持って一生懸命生きることが大切
――子どもが「好きなこと」や「夢」を追いかけられるように、親は何ができるでしょうか?
つるの:まずは子どものやりたいことを何でもやらせる。その中で子どもをよく観察して、「魂のうずうず」を見逃さない。子どもが目をキラキラさせている、何かに没頭している瞬間です。この「魂のうずうず」が、子どもの夢につながるのではないかと思います。
そして、親自身が夢を持ってチャレンジを続け、一生懸命生きることが何より大事です。僕が両親の背中に教えられたように、子どもは一生懸命な親の姿を見て、「夢を持つっていいな。夢に向かって頑張るって素敵だな」と思えるんじゃないでしょうか。
つるの剛士(つるの・たけし)
1975年生まれ。福岡県出身。神奈川県藤沢市在住。1997年「ウルトラマンダイナ」のアスカ隊員役を好演。2008年にはバラエティ番組「クイズヘキサゴン」でユニット“羞恥心”を結成しブレイク。私生活では2男3女の父親で、芸能界初の男性育休を取得し、ベストファーザー賞を受賞。2022年には短期大学を卒業し、幼稚園教諭二種免許、保育士資格を取得。2025年に大学のこども心理学部を卒業し、認定心理士資格のための単位をすべて取得。非常勤の幼稚園教諭としても働いている。