ランチの後に眠くなるなら要注意。それは糖質の摂りすぎによって起こる、疲労感や眠気、集中力の低下などといった不快な症状を総称する「糖質疲労」に陥っているかもしれないからです。手を打たないと時間をおいて糖尿病からの病気連鎖を招きかねない状態です。
有効なのは食生活において糖質を控える一方で、脂質をたっぷりと摂る「脂質起動」。これにはいくつかの健康効果が期待されますが、その一つが「がんになりにくくする」。世界の最新医学を根拠に「油は健康に悪い」「油は太る」という常識を覆す健康のヒントが詰まった、医師で北里大学北里研究所病院院長補佐 糖尿病センター長の山田悟さんの新著『脂質起動』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。
糖尿病はがん発症リスクが20%以上上がる
がんになった方の食事法としてどんな食事を思い浮かべられますでしょうか?
玄米菜食・フルーツたっぷり(多量ビタミン摂取)・お肉などの脂質の制限……こうした食事法をお聞きになったことはありませんか?
しかし、医学的見地から、これらの食事法をがんの方にお勧めすることは私にはできません。それは、これらの食べ方がかえってがん細胞に効率的に栄養を届けることになりかねないからです。
そもそも、「日本人の2人に1人は生涯に一度はがんになる」と言われます。そして、日本人の死因の第1位はがんです。
国内でも海外でも、糖尿病になると、そうでない人と比べてがんの発症リスクが20%以上上がると報告されています[*Diabetol Int 2013; 4: 81-9630]。日本人ではとくに肝臓がん、すい臓がん、子宮体がんのリスクが上がります。
糖尿病でがんが増える理由は完全には解明されていませんが、
①血糖変動による酸化ストレス(酸化ストレスで遺伝子が傷つくことが発がんにつながると考えられています)
②高血糖そのもの(がん細胞の餌はブドウ糖だけと言われています)
③高血糖を抑制するために生じた高インスリン血症(インスリンはブドウ糖を細胞に放り込むという作用に加えて、がん細胞を含めた細胞の増殖因子としての作用があることが知られています)
といったメカニズムが想定されています。
実は、脂質をたくさん摂取し、糖質を控えて、高血糖や高インスリン血症を是正することは、これら3つのメカニズムのいずれに対しても予防的です。脂質を起動させることは、がんの予防に役立つと期待できるのです。
「がんになったら油を控えて玄米菜食」は勘違い
がんに罹患したときの3大標準治療は、①外科手術(がん化した部分を取り去る)、②化学療法(抗がん剤投与)、③放射線療法(患部への放射線照射)です。
そうした治療と並行して行われることがある食事療法ですが、がんに特化した標準的な食事療法はいまだ確立されていないのが現状です。
そのため、エビデンスが確立されていない民間療法的な食事療法に頼るがん患者さんが少なくありません。
「マクロビオティック」もそのひとつで、玄米菜食という別名のとおり、玄米や雑穀などを主食としながら、野菜、海藻、豆類を摂り、精製された白砂糖、小魚以外の魚や肉や卵や乳製品といった動物性食品を控える食事法です。
がん患者さんにマクロビオティックを勧めない理由が3つあります。
第一に、糖質過多に陥りやすくなります。玄米でも雑穀でも食べすぎたら血糖値は上がり、がん細胞を活性化しかねないのです。
第二に、肉、卵、乳製品を避けると、脂質やたんぱく質が少なくカロリーが不足しやすくなります。
がんに限らず、病気から回復するプロセスでは十分なカロリーを摂ることが求められます。マクロビオティックを実直に実行するとカロリーが足りなくなり、がんに立ち向かうだけの体力や回復力が得られにくくなることが懸念されます。
第三に、たんぱく質が不足します。仮にカロリー不足がなかったとしても、たんぱく質が足りなくなるかもしれません。たんぱく質はからだをつくり、修復するために欠かせない栄養素。たんぱく質は免疫を担う物質にも関わります。たんぱく質不足は抵抗力や免疫力の低下につながりかねないのです。
100年経過して有効性を証明できていない食事法
ほかにも、野菜や果物(ビタミン)ジュース療法などもあります。有機栽培の果物と野菜でつくったジュースを1時間置きに1日13杯飲み、全粒穀類を主食に菜食を行い、栄養補助食品を摂り、定期的な浣腸を行うというゲルソン療法という治療法も100年ほど前に提唱されています。
この食事法を厳密に実行すると、全粒穀物にも果物にも糖質が多いため血糖値が上がりやすく、脂質、たんぱく質、カロリーがトリプルで不足する懸念があります。
また果物と野菜でつくったジュースには、果糖が多く含まれています。
果糖はがん細胞を活性化してしまうという懸念があります。
そして、何より、マクロビオティックもゲルソン療法も、100年ほどの歴史を持つ食事法でありながら、がんやほかの疾病に対する治療法として有効だというエビデンスはありません。100年経過して有効性を証明できない食事法に期待を寄せるべきではありません。
一方、同様に実績はないものの、理論的に有効性が期待でき、まさにいま、科学的な検証が行われているのが、糖質制限食あるいは超脂質食です。
【つづきを読む】『血糖値の乱高下が「がん」を招く…糖質の代わりに摂るべき意外なエネルギー源』で詳しく解説する。