不要になったものを出品して必要な人が購入できるという、至ってシンプルな仕組みがフリマアプリのいいところ。でも不正出品や転売など、フリマアプリではユーザーが困惑するようなことが起きてしまっています。その内容がSNSなどに投稿され、多くの人が目にするようになりました。中には大きな話題となるようなトラブルもあり、特にユーザーが多いメルカリの場合は注目度が高くなってしまいます。
2024年11月にも大炎上というべき事態になり、メルカリが安全安心に関する体制強化を発表しています。そして2025年5月には安心安全に関する新たな2つの約束と3つの取り組みを公開しました。特に不正利用者やそれに伴うユーザーの被害に対するメルカリの強い意志を感じるような内容になっていますが、この指針を公開するまでに実際にどんな不正取引があったのでしょうか。株式会社メルカリ 不正対策部門 責任者である田中啓介さんにお聞きしました。
メルカリで起きている不正取引。手口は多様で巧妙
メルカリで不正取引が起きているという現実がある中、その形は大きく2つあります。1つはフィッシングによる不正ログインです。メルカリを装った偽のメールが送られてきてIDやパスワードを入力してしまうと、勝手にログインされてしまうというものです。いわゆる「乗っ取り」です。こうして乗っ取ったアカウントを悪用し、不正な商品、例えば盗品やブランドの模倣品の出品が行われることもあります。
逆に不正に商品を買われてしまうケースもあります。この場合、複数のアカウントが乗っ取られることも。例えばAとBのアカウントが犯人に乗っ取られてしまい、犯人がAのアカウントで架空の出品をしてBのアカウントでその商品を買う。支払いをBのクレジットカードで行うと、Aに売上金が入ることになり、その売上金を指定の口座に振込申請をして現金化してしまうという不正です。メルカリの場合、商品の取引をするメルカリの他に、メルペイなどの金融サービスもあるために、不正の範囲が広がってしまいます。
フィッシングに関しては、メルカリなどのフリマアプリだけのものではありません。証券会社でも行われてしまい、大きな損害が出た人もいます。ガス会社や航空会社、そして運送会社をかたるフィッシングメールが送られてくることもあるので、これに関しては大きな社会的問題になっているのは事実でしょう。
参考:フィッシング対策協議会
https://www.antiphishing.jp/
フィッシングによる不正。ユーザーができること
フィッシングの被害の入り口は、自分が知っている会社を装ったメールやお知らせです。メルカリの場合は、メルカリと勘違いするようなお知らせが届いて、タイトルに「重要」や「大切なお知らせ」などと書かれています。そう書かれていたらユーザーも慌ててしまいますから、冷静な判断をする前にIDやパスワードを入力してしまいます。
そのような被害にあわないためには、メールやお知らせを開かないことが最善ですが、色々な情報を受け取るようになり、開いていいお知らせとそうでないものを区別するのも難しいかもしれません。そして、もしお知らせを開いたとしても、フィッシングサイトなのかどうかを見破るのも困難になっています。それだけ本物にそっくりに作られているからです。
ただメールを確認すると、フィッシングとわかることもあります。メルカリの場合、送り先のアドレスに必ず「mercari」と入っていますが、偽メールの場合には「merrcari」など、アルファベットが1つ多くなっているケースもあるのです。よく見ないと気づかないかもしれませんが、「あれ?」と思ったらアドレスをちゃんと確認すると、被害を防げることも少なくありません。
生体認証を使うことで不正ログインを防ぐことができる
アカウントの乗っ取りを防ぐ方法のひとつは、生体認証です。登録をすると自分の顔や指紋でログインすることになります。つまり、登録をした本人でないとログインができないので、もしフィッシング詐欺にあったとしても、ログインされることはありません。
フィッシング詐欺がいろいろな業種で起きていますが、その問題点は補償されないことです。過去にさかのぼると、オレオレ詐欺が発覚した当時は、被害にあっても補償はありませんでした。お金が戻ってくることはほとんどないので、被害にあった人は諦めるしかなかったのです。
でも、証券会社の不正取引が社会的な問題として認識されるようになった今、一定の被害補償を行う方針が示されました。これまでそのような補償がなかった中での大きな一歩となりました。
参考:今般のインターネット取引サービスにおけるフィッシング詐欺等による証券口座への不正アクセス等による対応について(10社申し合わせ)
https://www.jsda.or.jp/about/hatten/inv_alerts/alearts04/higai/index.html
フィッシングによる不正取引に関しては、メルカリは従来から補償の対象としています。2025年7月からは全額補償サポートプログラムがスタートする予定ですから、もし不正取引で被害にあったとしても、基本的には購入代金や販売利益を全額補償してもらえます(本人確認が済んでいることや過去の取引で問題がないかなどメルカリによる調査はあります)。
もうひとつの不正取引の形「すり替え」
メルカリで起きている不正取引の形、もう1つは「すり替え」です。ケースは2パターンありまる。ひとつは、購入者が返品する際に違うものを送る場合。もうひとつは、出品者が出品した商品とは違うものを購入者に送る場合です。
前者は2024年11月に話題となった不正です。出品者が購入者に送ったプラモデルとは全く違うものが返品商品として送られてきました。
後者に関しては、デニムを購入したのに送られてきたのはグミだった、というトラブルがSNSでも話題となったのは記憶に新しい人も多いことでしょう。これらは完全に違うものが手元に届く「すり替え」という不正です。
すり替えによるトラブルに関しては、2024年11月、メルカリが商品回収センターを開設すると発表し現在稼働しています。商品回収センターにはすり替えられた商品だけではなく模倣品も送られてきて、商品画像や説明などと商品の照合や調査が行われています。
参考:メルカリの安心安全に関する体制強化と新たな補償方針による対応の開始について
https://about.mercari.com/press/news/articles/20241125_mercari/
商品回収センターは、不正な取引を行おうと考えているユーザーへの牽制にもなります。「不正をしたら商品回収センターに送られて調査され、結局不正はバレてしまう。しかも警察と連携するとしているので、自分にとって不利益になるに決まっている」と考えれば、最初から不正をしない方がいいのは誰でもわかることでしょう。メルカリでは、このような不正行為に対しては厳しく対処し、悪質なユーザーに対してはアカウント制限などの措置を講じることで、不正利用者の排除を行っていくようです。
商品回収センターに届くものの多くは、不正取引の商品ではない事実
現在稼働している商品回収センターには、一体どんなものが届くのでしょう。筆者はブランドの模倣品が多いのではないか? と思っていましたが、実際には違うそうです。商品回収センターには、「出品者と購入者で期待値が合わないもの」が届くことが多いそうです。期待値が合わないというのは、購入者に届いた商品に商品説明や写真にないダメージがあったり、新品未使用と書かれていたのに使った跡があったりするなどで、出品者と購入者の間で商品に対する受け止め方の違いがあるということです。
他にも届いた商品の色味が違う、変な匂いがするなどもあります。これはそれぞれのユーザーの価値観や感覚の相違で起こること。お互いの許容範囲が違うので、出品者と購入者で折り合いがつけづらいことでもあります。
このような商品の場合、メルカリとしてはどちらの立場に立つのか? とユーザーは思いますが、判断は非常に難しいのが正直なところです。出品時に明確にされていないダメージがある、どう見ても新品未使用ではないといった、明らかに出品者のミスとわかるようなケースはあるものの、多くはユーザーの感覚次第になってしまうからです。
例えば匂いに関しては、出品者にとっては特に気にならなくても、購入者にとっては不快な匂いになってしまうこともあります。そのためプラットフォームとしては中立な立場を貫かなければなりません。メルカリとしては、どちらの意見も同じように聞いて、その上で判断をすることになります。
ただ、このような期待値の相違によるトラブルは、商品回収センターに送られてくる前に、出品者と購入者の話し合いによって折り合いがつくことが多いのだそう。購入者が商品を出品者に送り返すとなれば送料の負担の話し合いが行われますし、もし返品しないとなれば購入者がそのまま処分することになるでしょう。
もし折り合いがつかない場合にはメルカリが介入をして、取引や商品を確認した上で補償することになります。そして2025年7月(予定)からは、全額補償サポートプログラムが始動するので、メルカリを正しく使っているユーザーに不利益があってはいけないという姿勢をメルカリが示したことになります。その裏には、トラブルが起きることを不安に感じるユーザーを減らしたいというメルカリの思いがあるのは言うまでもありません。
参考:メルカリ、安心安全に関する新たな2つの約束と3つの取り組みを公開
https://about.mercari.com/press/news/articles/20250521_anshinanzen/
ユーザー同士の期待値の相違を起こさないために
出品者と購入者の間に起きる期待値ギャップを埋めるために出品者ができることは、出品する際に商品の状態を正直に伝えることです。高く売りたいと思ってダメージを隠すのはもってのほか。ダメージをしっかりと伝えて、出品時に選ぶ「商品の状態」も慎重に選びましょう。特に出品者が「新品未使用」と思っていても、保管状態や保管期間の長さによっては「未使用に近い」のほうが適正な場合も。「商品の状態」の選び方には注意をしてもしすぎることはないと思います。
購入者は、商品の状態を確認して、わからないことがあったら購入前に出品者に質問をしましょう。中古品を買う場合には、なんらかのダメージがあると考えていた方がよいと思います。出品者も全てのダメージを説明できていないかもしれない。そう考えておくと、許容範囲が広がります。
商品回収センターで回収したもの、その後はどうなる?
商品回収センターに届いた商品の中には、メルカリが適正に判断した結果、補償に値するとなったものもあります。その場合、商品はどうなるのかが気になるところ。もし補償をするとなった場合、その商品の所有権はメルカリに移り、メルカリが管理することになります。購入者には支払った分のお金が補償されていて、出品者は購入者からの支払いがあり利益を得ているからです。
回収した商品は状態が非常に悪いものは少なく、まだまだ使えるものの方が多いため、メルカリがリユースをすることもあるそう。例えばリユース会社との話し合いで、売買が成立することもあるのでしょう。所有権はメルカリにあるので、問題はありません。
一方模倣品はどうなるのかというと、もちろんリユースなどで市場に出すことはせずに、基本的には処分することになります。ただし、商品回収センターには鑑定の機能がないために、いわゆる偽物かどうかを判断することはできません。
そもそもブランド品が偽物かどうかは、そのブランドが判断すること。一般的なリユース会社であっても、偽物かどうかを決めているのではなく、自社での買取ができるかどうかで判断をしています。買取ができるのであれば、買取基準内、買取ができないならば買取基準外とすることが多いようです。とはいえ、リユース会社には膨大なデータがあり、そして鑑定士には知識と経験がありますから、その判定は適正と思って良いのでしょう。
商品回収センターに届く商品の多くは、出品者と購入者の感覚の違いによるミスマッチのものです。これはユーザーが多様化して、いろいろな人がメルカリを使うようになったことが原因のひとつでしょう。でも多様化されたといっても、メルカリが定めるルールに従うことは大前提です。全てのユーザーが安心安全な取引ができるように、ユーザーも気持ちを引き締める必要があるのかもしれません。