首都高速道路(以下、首都高)は、首都圏の都市部を通る都市高速道路だ。NEXCOグループが運営する高速自動車国道などの都市間高速道路とも接続し、首都圏を動かす動脈として、人や物の流れを支えている。
このたび筆者は、首都高速道路株式会社(以下、首都高会社)の協力を得て、同社の交通管制室を取材した。本稿は2回シリーズで、今回は前回紹介できなかった詳細を紹介する。
前回記事『事故が起きたのは上り線なのに、下り線でも渋滞が発生する意外な理由…人や物の流れを支える首都高会社「交通管制室」の24時間』はこちら
交通情報の把握と異常への対処
前回ふれたように、交通管制室は慌ただしい職場だ。首都高では、1年間で事故・車両故障・落下物が38,136件発生する。平均すると、約13.6分に1回という頻度だ。
そこにいる7人の交通管制員は、基本的に机に向かって静かに座っている。ただし、それはつかの間。ときには異常が立て続けに起こり、交通管制員たちが機器の操作に追われる、もしくは立ち上がって対応することもある。
交通管制員よりも床が高い位置には、交通管制のリーダー(交通管理司令)と、そのサポート役(交通管理司令補)がいる。彼らは交通管制員や警察と連携し、異常事態に対処する。必要に応じて首都高のパトロール隊に連絡し、現場への出動を要請する。
こうした判断の鍵になるのが、「大型表示装置」と呼ばれる巨大画面が表示する情報だ。その中央には路線図があり、各区間の交通情報が表示される。
同様の路線図は、ウェブサイトやアプリで見ることができる。たとえば首都高技術株式会社が運営する道路交通情報サイト「mew-ti(ミューティ―)」や日本道路交通情報センター(JARTIC)のウェブサイトを見ると、カラーの路線図が表示され、「混雑」している区間が橙、「渋滞」している区間が赤で表示される。
どのようにして「渋滞」を検知しているのか
「混雑」や「渋滞」は、どのようにして検知しているのか。首都高会社の社員に聞くと、道路に設置された車両感知器で検知しているという。首都高では、超音波で通行する車両の速度を感知する車両感知器を、本線上に300〜600m間隔で設置している。つまり、各区間の車両の平均速度から、道路の混雑状況を把握しているのだ。
車両感知器で得られた情報は、交通管制システムに送信され、1分半後に反映される。このため、ウェブサイトやアプリで表示される首都高の交通情報は、ほぼリアルタイムのものだ。
首都高では、平均速度が20〜40km/hであれば「混雑」、20km/h以下であれば「渋滞」と定義している。ウェブサイトやアプリで見かける交通情報は、この定義で判定した結果だ。
いっぽう交通管制室の「大型表示装置」では、各区間の平均速度を5段階で色分けして表示している。40km/h以上は白、30〜40km/hは黄、20〜30km/hは橙、10〜20km/hは赤、10km/h以下は紫だ。このため、ウェブサイトやアプリで見かける3段階(白・橙・赤)の路線図よりも、車両の流れ方が細かく把握できる。
なお、「渋滞」の定義は、NEXCOグループでは40km/h以下、首都高では20km/h以下であるため、同じ渋滞距離表示がされていても、首都高のほうが渋滞通過に時間がかかる場合がある。
山手トンネルを監視する
「大型表示装置」の路線図の左側には、山手トンネル専用の画面がある。ここを見ると、山手トンネルの内部の映像や、車両の流れ、異常の有無だけでなく、道路上に設置した文字情報版の表示内容まで細かく把握できる。
なぜ山手トンネル専用の画面があるのか。首都高会社の社員に聴くと、トンネル内で万が一事故が発生すると大惨事につながるおそれがあるため、トンネル内の火災などをいち早く検知、対応することにより被害を最小限に抑えるためだと言う。
山手トンネルは、中央環状線の西側にある日本最長の道路トンネルだ。その延長は18km以上あり、日本で2番目に長い道路トンネル(関越道の関越トンネル・延長約11km)を大きく超えている。関越トンネルとの大きなちがいは、山岳地帯ではなく、空間的な制約が多い大都市の地下を通っている点にある。
このトンネルは交通量が多い。都心を周回する都心環状線のう回路として機能するだけでなく、すぐ近くに東京の3つの副都心(池袋・新宿・渋谷)があるからだ。
それゆえ、山手トンネルでは「最悪の事態」である車両火災を想定した対策が施されている。トンネル内で車両火災が発生すると、発生する煙や滞留する車両により、消火活動や避難誘導がむずかしくなることがある。
おもな対策には、消火設備や避難設備の充実だけでなく、トンネル内監視の強化が挙げられる。交通管制室の「大型表示装置」には、山手トンネル内の消火設備や避難設備の稼働状況を詳細に表示するエリアや山手トンネル内部に設けられた500台以上のカメラで撮影した映像を表示する部分があり、その全区間の様子を死角なく監視できるようになっている。
意外と多い「立入」
交通管制員が向かうモニター画面のなかには、「立入検知・警報システム」と書かれたものがある。その名の通り、人や自転車、原付などが首都高に入ってしまう「立入」を防ぐためのシステムだ。
首都高では、「立入」が、1年間に400件以上発生している。もちろん、それらは事故の原因になり得る。
これは、首都高の独特な構造とも関係がある。NEXCOグループが運営する都市間高速道路には、入口と出口に料金所があり、人や自転車が進入しにくい構造になっている。いっぽう首都高では、料金所が入口のみにあり、出口にない。しかも、出口は、交通量が多い街路(市街地の一般道路)に面している。このため、「立入」が起こりやすい。首都高会社の社員によると、繁華街近辺では、泥酔した歩行者による「立入」がよく起こるそうだ。
このため、首都高では、出口に注意喚起看板等を設け、これらを防いでいる。ところが、注意喚起を無視した「立入」が起きている。
そこで首都高では、2017年から「立入」が発生した一部の出入口に「立入検知・警報システム」を導入した。これは、出入口に設けたテレビカメラによる画像処理認識、もしくはレーザーセンサーで通行の異常を検知するものだ。もし「立入」を検知すると、警告表示板が自動で発光する、もしくはスピーカーで引き返すように促す音声が流れる。それでも従わない場合は、交通管制員がマイクに向かって話し、その声を現地のスピーカーから流す。
首都高会社の社員によると、近年は日本を訪れる外国人観光客が増加したこともあり、歩行者や、電動キックボードに乗った人が首都高に入ってしまうことがよく起きているそうだ。
たしかに、大都市の中心部に自動車専用道路が通っている例は世界的にめずらしいので、外国人観光客がそれに気づかず、誤って入ってしまう可能性がある。
首都圏を動かす動脈を支える
首都高では、以上紹介したような事故や災害の原因になる事象が起こり得る。安全で円滑な車両通行を実現するには、こうした事象に即座に対応し、影響を最小限に抑えなければならない。
また、首都高は、基本的に1日24時間営業だ。前回紹介した車線規制を除けば、昼夜問わず車両が流れ続ける。施設のメンテナンスは、車両が通行する車線を確保しながら、通行台数が少ない深夜に実施している。これが、基本的に毎日深夜に営業を休止する首都圏の鉄道との大きなちがいだ。
このため、交通管制室は今日も絶えず首都高の状況を見守っている。現場に出動するパトロール隊や警察、メンテナンスの作業員などと連携しながら、首都圏を動かす動脈を支えているのだ。