あらゆる医者のなかで、歯科医の技量がもっともピンキリと言っていい。悪徳歯科医院のカモにされないために、その特徴を覚えておこう。
「稼ぎにくさ」が悪徳歯医者を増やす
〈多店舗展開歯科はそれ程遠くないうちに必ず行き詰まる〉
〈自分に甘く、同業者に厳しいヤツ多いよね。特に歯医者はみんな自分が1番だから〉
〈29年前は開業費3300万円。みんなそんな感じで開業してましたが。それが今やテナント開業でも1億円は見積もった方が良い時代です。(中略)気軽な開業は命取り〉
自身の顔が大きく印刷された看板広告を全国に約340ヵ所も掲出し、各メディアに数多く出演している歯科医といえば、「きぬた歯科」院長のきぬた泰和氏だ。
このきぬた氏がSNS上で、歯科業界の「裏話」を次々と暴露していることが話題となっている。特定の医院を名指しで批判する投稿も珍しくない。なぜこのような投稿を続けるのか。きぬた氏本人が「我田引水で患者を呼びこむつもりは毛頭ない」と前置きをした上で、本誌の取材に応じた。
「情報弱者をターゲットにして荒稼ぎしている歯医者が年々増えています。こういう悪質歯科は、何も知らない人の弱みにつけこんで、十分な治療もしない。『経営のためなら患者は二の次』のクリニックが急増していると感じます」
悪徳歯医者が増えている背景には、「歯医者は稼ぎにくい」という事情がある。有名な話だが、全国に存在する歯科医院の数は約6万6000軒で、コンビニの数(約5万5000軒)よりも多い。日本歯科医師会は、人口10万人に対する歯科医数は50人台が適正だとしているが、現在は80人を超える。供給が需要を上回る状態が続いているのだ。
また、’24年の診療報酬改定は実質的なマイナス改定となっている。こうした苦境が重なってか、’24年の歯科医院の倒産件数は過去最多だ。
虫歯リスクを高める「審美歯科」
岩田有弘歯科医院・院長の岩田有弘氏はこう語る。
「正直言って、患者さん目線で取り組んでいると、歯医者は儲かりません。診療報酬も切り下げられているので、保険診療だけで稼ぐことは困難。保険外診療に頼らざるを得ない一面もあります。そうした事情から、極端に保険外診療を多くしてカネ儲けに走る歯科医もいる。脳外科や心臓外科のように命と直結することが少ないので、治療の良し悪しの判断がつきにくい。質の悪い処置をして、また来院させるようなケースもあります」
きぬた氏が警告する通り、あの手この手で患者を確保しようとする「危ない歯医者」は、実際に増えているのだ。
具体的に紹介していこう。いまの歯科業界には「審美歯科」を標榜する医師が増えてきている。だが、こうした看板や広告を見かけたら、身構えたほうがいい。治療をめぐるトラブルが、社会問題になりつつあるからだ。
審美歯科とは、単に歯の健康を保つだけでなく、歯や口元の美しさ、見た目も重視した歯科治療をする医院だ。SNSの普及に伴い、モデルなどのインフルエンサーが影響力をもったことで、若年層を中心に美容意識が高まり、審美歯科を利用する若者が増えてきているのだ。
ただし、カネ儲けしか考えていない審美歯科が少なくないという。前出の岩田氏が、こう警告する。
「たとえば、一日で終わる『ワンデー矯正』をうたうようなクリニックには注意が必要です。口を開けたら見える歯12本くらいを一気に削って、セラミックなどを被せる。外見上はきれいになりますが、歯を削るので、メンテナンスを怠れば虫歯になるリスクが一気に高まります。それで虫歯になったら、同じように削って被せものをするんです」
後編記事『「待合室のポスターに気をつけろ」「5人待っていたら要注意」…実名で歯科医が警告する「悪い歯医者の判別法」』へ続く。
「週刊現代」2025年6月23日号より