日本企業の2024年度決算が出揃った。企業が株主還元を意識する流れが続いていることがうかがえるこの状況に、億り人投資家で投資作家の桶井道(おけいどん)氏はいう。
「『トランプ劇場』に右往左往せずに、業績良好でかつ株主還元の手厚い企業を選べば、短期的には株価は支えられて、長期的にも増配と含み益の両取りができると思います」
著書『 資産1.8億円+年間配当金(手取り)240万円を実現! おけいどん式「高配当株・増配株」ぐうたら投資大全 』(PHP研究所)が好評な桶井氏に、解説と銘柄紹介をしてもらう。桶井氏は高配当株や増配株を好み、資産を伸ばし、また関連書籍を出版した実績がある。
いま株主還元が意識される理由
日本企業の2024年度の決算発表が出揃いました。引き続き、自社株買いや増配が見られるなど、企業が株主還元を意識する姿勢が見られます。たとえば、三菱商事は最大で発行済み株式総数に対する割合が約17%にあたる1兆円の自社株買いを、信越化学工業は最大で発行済み株式総数に対する割合が約10%にあたる5000億円の自社株買いを発表しています。昨年度に30~50%台の大幅増配をしたメガバンクグループ3社は、今期も増配を継続する予想を出しています。
株主還元を意識した経営が継続される背景には、東京証券取引所が2023年3月31日に、プライム市場及びスタンダード市場の全上場会社を対象として、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請したことがあるといえるでしょう。
株価を上げるには、持続的に業績を伸ばすことが一丁目一番地です。株価は長期的には企業価値に連動するものだからです。新規事業への投資や研究開発、M&Aなどを行って、業績を拡大することが本筋です。しかし、それだけではなく、自社株買いも株価を上げる効果があります。自社株買いをすると、株価が上がる理由は後述します。
また、資本コストを意識して、政策保有株式を売却する企業も増えています。そして、その資金を自社株買いに振り向けるケースが見られます。政策保有株式とは、企業が取引先との関係維持や買収防衛といった投資以外の目的で保有する株式を指します。東証による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請を意識して、この先も政策保有株式は売却され、その資金は自社株買いにも充てられるでしょう。
つまり、自社株買いの潮流は続くと思われます。
自社株買いをすると株価が上がる理由
次に、自社株買いをすると株価が上がる理由に触れます。
自社株買いをすると、市場に流通する株式数が減りますので、1株当たり利益が上昇します。株価は、長期では1株当たり利益に連動します。したがいまして、自社株買いで株価は上がります。
また、「株式を発行している企業が自分で株を買うくらい株価は安いですよ」という投資家へのメッセージになり、株価上昇のきっかけになることが期待できます。
増配でも株価は上がる
そして、増配することも、株価を上げる効果があります。
その理由は明快で、増配を発表すると配当株投資をする投資家から注目を集め、人気が上がり、株が買われて、株価が上がります。また、増配できるのは、業績が好調である証であることが多く、業績が良ければ株価は上がります。
つまり、増配株は、配当金が増えて、株価も上がり、2度美味しいといえるでしょう。
「株主還元」6銘柄を紹介
お待たせしました。株主還元銘柄を6つご紹介します。
※推奨ではなく紹介です。( )内は銘柄コードです。
(1)KDDI(9433)
大手通信企業です。傘下に、沖縄セルラー電話、ケーブルテレビのJCOM、「価格.com」「食べログ」「求人ボックス」他を運営するカカクコムなどを有し、ローソンを三菱商事と共同経営しています。常に18%ほどある高い営業利益率は評価ポイントといえるでしょう。今期は最大で発行済み株式総数に対する割合が約4.5%にあたる4000億円の自社株買いを発表しています。連続増配株として人気で、24期連続増配予定です。予想配当利回り(6月13日現在、以下同)は3.30%です。
(2)オリックス(8591)
国内最大手のリース会社です。祖業のリース事業は「金融」と「モノ(物件)」の2つの専門性を必要とします。金融の専門性は、現在では融資、事業投資、生命保険、銀行、資産運用事業へと拡大しています。モノの専門性は、産業/ICT機器、自動車、不動産、環境エネルギー事業へと広がりました。事業は多角的で、金融の枠を超えて、空港運営や統合型リゾートにも関わっており、「総合商社的」といえます。今期は最大で発行済み株式総数に対する割合が約3.5%にあたる1000億円の自社株買いを発表しています。近年は増配への意識が確かにあることが窺えます。予想配当利回りは3.87%です。
(3)信越化学工業(4063)
化学メーカーで、世界で戦える企業のひとつです。建築や土木で使われる塩化ビニル、家電・IT機器・自動車などで使われる半導体の基板材料であるシリコンウエハー、液晶用フォトマスク基板、合成性フェロモンなどで世界シェアトップです。「第4次産業革命」に欠かせない素材を製造しています。営業利益率が30%ほどもあり高く評価できるでしょう。また自己資本比率が約83%もあり、財務安全性にも優れています。今期は最大で発行済み株式総数に対する割合が約10%にあたる5000億円の自社株買いを発表しています。配当金は増配傾向にあります。配当利回り(2025年3月期の配当実績)は2.39%です。※配当予想が未発表のため実績値にて算出
(4)栗田工業(6370)
水処理製品・技術・サービスの国内最大手です。水は、人の生活に欠かせませんし、モノ作りにも欠かせません。たとえば、飲料工業では、製品の仕込みや冷却、容器の洗浄などに多量のろ過水や純水が必要です。半導体製造ではシリコンウエハーや電子部品の洗浄で、純水や非常に純度の高い超純水、超純水にガスを溶解させた機能性水が使われます。栗田工業はこれらを提供します。今期は最大で発行済み株式総数に対する割合が約3.1%にあたる150億円の自社株買いを発表しています。22期連続増配を予定しています。予想配当利回りは2.11%です。
(5)エイチ・ツー・オー リテイリング(8242)
傘下に、阪急百貨店と阪神百貨店、スーパーのイズミヤ、阪急オアシス、関西スーパーを持ちます。百貨店は、関西に11店舗、関東に3店舗、九州に1店舗、合計15店舗体制です。スーパー3社は、関西エリアに230店舗ほどを有します。関西をドミナント化しており、特に「阪急」の看板や紙袋・包装紙には強いブランド力があります。今期は最大で発行済み株式総数に対する割合が約8.2%にあたる150億円の自社株買いを発表しています。予想配当利回りは2.28%です。
(6)三菱UFJFG (8306)
国内メガバンク最大手の三菱UFJ銀行を傘下に持つ、国内最大の総合金融グループです。銀行、信託、証券、クレジットカード、消費者金融が連携し、グループ・グローバル一体でサービスを提供しています。海外業務に相対的な強みを有しています。たとえば、成長するASEANを面で捉えた戦略・施策展開を目指し、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピンの商業銀行に出資しています。今期は最大で発行済み株式総数に対する割合が約1.5%にあたる2500億円の自社株買いを発しています。昨年度に約56%の増配を実施しましたが、今期も約9%の増配予想を発表しています。予想配当利回りは3.62%です。
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