二世俳優が主演を務めた「朝ドラ」たち
5月下旬、2026年度後期の連続テレビ小説『ブラッサム』(NHK、以下同)に、俳優・石橋静河さんが主演することが発表されました。
石橋静河さんは父が石橋凌さん、母が原田美枝子さんと両親ともに引っ張りだこの人気俳優で、いわゆる二世俳優です。
とはいえ、石橋静河さんが親の七光りの話題性やコネで、ヒロインに抜擢されたなんてことはないでしょう。演技力が高く評価されており、役者としての実力でその座を掴んだというのは言うまでもありません。
さて、そんな二世俳優が朝ドラヒロインを務めるのは、実は何度もあったケース。しかも大ヒット作となったり内容が高評価されたりと、「二世俳優×朝ドラヒロイン」という組み合わせは、“成功の方程式”のようになっているのです。
そこで本記事では、2010年以降に二世俳優が主演した朝ドラを振り返っていきます。
2013年度後期『ごちそうさん』/主演・杏
ハリウッド映画でも活躍し、日本が世界に誇る名優と言える渡辺謙さんを父に持つ杏さん。
『ごちそうさん』は「食べ、食べさせ、生きる」をテーマに、大正時代の末期から昭和時代の戦後までを描いた作品。杏さんが演じた主人公・卯野め以子は、東京の洋食店で生まれ育った明るく健やかな食いしん坊キャラで、偏屈な男性に恋をして彼の大阪の家に嫁いでいくというストーリーでした。
朝ドラで「食」にフィーチャーした作品は多いですが、『ごちそうさん』は最高視聴率(世帯平均・関東地区、以下同)27.3%を記録し、「食」ジャンルの朝ドラのなかで屈指の人気作となっているのです。
ちなみに現在放送中の大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』は、『ごちそうさん』を執筆した脚本家・森下佳子氏の作品。『べらぼう』には渡辺謙さんが出演しているのですが、オファーを快諾した理由を、「娘が『ごちそうさん』でお世話になったので恩返しをしたいなと」と語っていました。
2018年度後期『まんぷく』/主演・安藤サクラ
父が俳優・奥田瑛二さん、母がエッセイスト・安藤和津さんという安藤サクラさんが主演したのが、『まんぷく』でした。日清食品創業者の安藤百福・仁子夫妻をモデルとしたドラマで、インスタントラーメンの生みの親である夫婦の山あり谷ありのサクセスストーリーを描きました。
安藤サクラさんが演じた今井福子は活力みなぎる青年実業家と結婚するも、夫の事業は何度も失敗してしまいます。けれどそんな夫をどん底でも支え、インスタントラーメンを創り出すまで背中を押し続けたというヒロインでした。
そんな『まんぷく』、全話平均視聴率で21.4%を記録し、物語の評判も上々の大ヒットとなったのです。
そして忘れてはいけないのが安藤サクラさんと奥田瑛二さんの父娘共演。劇中では父と娘という設定ではなかったため、安藤サクラさんは視聴者に親子だと見られてしまわないように、細心の注意を払って演技をしたと語っていました。
ただその一方で父の出演について、「家族はとても喜んでいました。お正月明けてすぐの撮影だったのですが、父はお正月のあいだ、たぶん『まんぷく』のことで頭がいっぱいだったと思います。『俺はちょっと散歩に出て、まんぷくのセリフを……』と言っていましたから」と、ほっこりする家族内での裏話も披露していたのです。
2020年度後期『おちょやん』/主演・杉咲花
『おちょやん』で主演した杉咲花さんの母親は歌手のチエ・カジウラさん。幼少期に両親が離婚して生き別れていた父親は、元レベッカのギタリスト・木暮武彦さんです。
杉咲花さん演じるヒロインは、明治時代末に貧しい大阪の家に生まれた竹井千代。9歳で芝居茶屋に女中奉公に出されたことをきっかけに、芝居の世界に飛び込んでいきます。喜劇界のプリンスと称された天海天海と結婚し、理想の喜劇を目指して喜劇女優として成長していくも、戦争が始まってしまい……というストーリーです。
『おちょやん』の全話平均視聴率は17.4%と当時としては低調で、一度も20%の大台に乗ることもなかったため、データ的にはいまいち振るわず。しかし、特に終盤の盛り上がりが素晴らしかったこともあり、最終話まで観た視聴者からの評判は上々で、ネットニュースでは絶賛するコラムが溢れるなど、内容が高く評価された作品となったのです。
ちなみに杉咲花さんが、母であるチエ・カジウラさんに朝ドラヒロインに抜擢されたことを報告したところ、「良かったね」と心から喜んでくれたそうで、杉咲花さん自身は「それが一番うれしかったです」と笑顔で明かしていました。
2023年度後期『ブギウギ』/主演・趣里
俳優の水谷豊さんと元キャンディーズの伊藤蘭さんを両親に持つ趣里さん。芸能界屈指のサラブレットと言える彼女ですが、芸名に苗字を使っていないのは、両親の人気や知名度に頼らずに、自分の力で役者として自立していきたいという意思の表れでしょう。
そんな趣里さんがヒロインを演じたのが『ブギウギ』。1947年に発表された大ヒット曲「東京ブギウギ」の歌手・笠置シヅ子がモデルのドラマで、昭和初期から戦後を舞台にしています。主人公・花田鈴子が得意の歌と踊りを武器に「ブギの女王」と称えられるスターになっていく姿を描きました。
『ブギウギ』は物語序盤のスタートダッシュに成功し、傑作になる予感がすると多くの視聴者を魅了。途中から「失速」「中だるみ」と評されてしまう時期もありましたが、趣里さんの演技やステージパフォーマンスは圧巻だと好評だったのです。
母・伊藤蘭さんは2024年2月のインタビューにて、父・水谷豊さんと『ブギウギ』を観るタイミングはバラバラながら、夫婦で観たかどうかを確認し合っているという仲睦まじいエピソードを語っていたこともありました。
2026年度後期『ブラッサム』/主演・石橋静河
石橋凌さんと原田美枝子さんを両親に持つ石橋静河さんがヒロインを務める『ブラッサム』は来秋スタート予定。
小説「おはん」を代表作に持つ作家・宇野千代をモデルにしており、明治時代から昭和時代に自由を求め続けて生きた小説家の人生を描いていきます。結婚、離婚、震災、戦争、倒産、借金という波乱万丈な人生が待ち受けているようですが、パワフルかつチャーミングなヒロインが苦難のなかでも幸せを見つけ出し、一流作家になっていくというストーリーになるようです。
役者の大先輩でもある両親には、公式発表前に報告していたそう。石橋静河さんは「両親にだけはこっそり伝えたら喜んでくれました」と語りつつ、朝ドラに臨むうえでの心構えなどのアドバイスがあったかどうかについては、「仕事の話はしないので。わりと人ごとの感じで喜んでくれました」と笑顔で明かしていました。
石橋凌さんも原田美枝子さんもさまざまなドラマで活躍していますし、特に原田美枝子さんは2022年度前期の『ちむどんどん』にも出演していましたので、『ブラッサム』で親子共演があるかもしれません。
――このように朝ドラには、『ごちそうさん』の杏さん、『まんぷく』の安藤サクラさん、『おちょやん』の杉咲花さん、『ブギウギ』の趣里さんと、二世俳優がヒロインを務め、ヒット作に導いてきたという歴史があります。
やはり彼女たちの共通点は、親の七光りではなく実力で主演の座を勝ち取り、きちんと演技で結果を残しているということでしょう。そして朝ドラ主演を機にさらなる人気と知名度を獲得し、国民的女優への道を歩んでいるのです。
まだ放送まで1年以上ありますが、石橋静河さんの演技力で国民を魅了し、『ブラッサム』が称賛される傑作となることを、期待しています。