米中交渉、中国の「レアアース戦術」が奏功
膠着状態にあった米中貿易協議が再開した。
米中両政府は6月9日、ロンドンで2回目の閣僚協議を実施した。5月中旬の合意以降、交渉の障害となっている中国によるレアアースの輸出規制などが主な議題だ。電気自動車(EV)などの生産に欠かせないレアアースの生産で、中国は世界のシェアの7割を占めることが背景にある。
6日のトランプ大統領と習近平国家主席との電話会談後、中国当局はゼネラルモーターズなど米自動車大手3社に部品を供給する企業に対し、暫定的な輸出許可を与えた。中国が9日の協議で米国に「見返り」を強く求めることは確実だろう。
レアアースは中国の米国との交渉での強力な切り札となった感があるが、その独占体制には綻びが生じつつある。
豪州のレアアース採掘企業「ライナス」は5月中旬から自国でレアアースの商業生産を本格的に開始した(6月5日付朝鮮日報)。レアアースの埋蔵量は中国が世界で最も多いと言われているが、豪州や米国などでも埋蔵が確認されている。にもかかわらず、中国が圧倒的な生産シェアを誇っているのは、レアアースの精製過程で毒性の強い化学物質を使うため、水や土壌の汚染が生ずるからだ。
だが、中国が規制を強化するとなれば、話は違ってくる。
ライナスは米テキサス州でもレアアース工場の建設を予定しており、中国の米国に対するレアアース戦術が効力を失うのは時間の問題なのかもしれない。
「中国製EV」に新たな懸念
米国との関係で一時的に有利になったとはいえ、中国経済は不調のままだ。
中国不動産調査企業によれば、大手不動産企業上位100社の5月の新築住宅販売額は前年比8.6%減の2946億元(約5兆8500億円)だった。米国が課す関税が大幅に下がったものの、不動産不況が中国経済の回復の妨げとなっている構図に変わりはない。
今年の端午節の連休(5月31日から6月2日)の旅行者数は延べ6億5370万人超と前年比2.5%増となったが、1人当たりの消費額は前年比2.1%減の359元(約7000円)だった。
中国の消費関連業界の景況は悪化する一方だ。
大手国際会計事務所KPMGによれば、昨年のコンビニエンスストアの1店舗当たりの売上高(1日当たり平均)は前年から1%以上減少し、5年連続のマイナスとなった。
フードデリバリー業界も競争が激化し、美団など大手企業の株価が軒並み下落している。
「頼みの綱」の製造業も冷え込みの兆しが見えている。
財新が発表した5月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI)は48.3となり、好不況の境目である50を昨年9月以来初めて下回った。新規輸出受注が2ヵ月連続で減少するなど、米関税が中国製品の輸出に打撃を与え始めていることが明らかになっている。
そうしたなか、中国の自動車輸出にも急ブレーキがかかる恐れが出ているが、さらに深刻なのは中国EVに新たな欠陥が疑われるようになっていることだ。ひいては、安全性を軽視する中国特有の製造・研究の方針が、世界に災禍をもたらしかねないという不安にもつながっている。
その深刻な内容については後編記事『「中国製EV」、本当に大丈夫なのか…?「安全性軽視」で相次ぐ貨物船火災と中国から世界に拡散される「新たな脅威」』でじっくりとお伝えしていこう。