ファンの間では「クソデカネックレス」の愛称で親しまれ、発売しては即完売が続いている埼玉西武ライオンズの応援グッズ「ビッグチェーンネックレス」。巨大な金色の鎖に、これまた大きなライオンズの公式マスコットであるレオのチャームがついており、存在感は抜群。試合を重ねるごとにネックレスを身につける獅子党が増えており、レフトスタンドはもはやまばゆいほどだ。
いったいなぜ、ビッグチェーンネックレスは空前の大ヒットとなっているのか。誕生の理由、そして新作の予定まで、グッズの生みの親である事業部リーダー・中村作氏が明かしてくれた。
アイデアのきっかけはドジャース戦の中継
そもそも「ビッグチェーンネックレス」のアイデアが生まれたきっかけは、大谷翔平選手(ロサンゼルス・ドジャース)の試合中継だったという。
「ポストシーズン真っ只中の昨年10月、休日に大谷選手の試合を見ていたんです。選手がホームランを打った時、盛り上がるスタンド席の様子がチラッと映ったのですが、ファンの首にやたら大きな光るネックレスが見えました。なんだいまの? と引っかかりを覚えて、すぐにSNSで調べたら、メジャーリーグではスタンダードなグッズだということを知ったんです。その時、ライオンズのファンの方がこのネックレスを身につけているイメージが頭の中に浮かんできて……これはもしかしたらいけるかもしれない、と直感めいたものがありました」(中村氏、以下同)
ライオンズの定番応援アイテムといえば、フラッグとタオル。もちろんこの2つが中心であることに変わりはないが、新たな柱となる商品をこの手で生み出したい。新グッズ開発に常に頭を悩ませてきた中村氏の勘が働いた瞬間だった。
「すぐさまアイデアをまとめ社内でプレゼンしました。これまでにない類のアイテムだったので、ダメ元の提案でしたがまさかのGOサイン。ライオンズのグッズ担当チームは、チャレンジにとても寛容で、試してみてダメだったら、そのダメなところも次に活かそうという精神が根付いているんです」
上長にも最初は心配されたが…
そんな前向きな企業風土とともに、運命ともいえる“出会い”がビッグチェーンネックレス誕生を後押しした。中村氏と同じく大谷選手の試合を現地で観戦していた取引業者の社長が、ビッグチェーンネックレスを見て「これはいける」と確信。制作を球団に提案したのだ。
「お話をいただいたのは、ちょうど1社目の会社と折り合いがつかず、困っていたタイミング。まさに運命でしたね。そこからはトントン拍子。10月くらいにスタートして、2月には納品までいっていますから、かなりのスピードで進んだことになります」
制作期間は短いが、デザインや素材、コスト面、すべてにおいて妥協した点は一切ない。サンプルを取り寄せ研究し、納得がいくまで何度も試作。海外で実地研修を経験したスタッフにも意見を求め、サイズや重みに至るまでこだわり抜いた。
「安っぽい感じにはしたくありませんでした。だからといって高すぎると、手にとっていただけない。3000円台に抑えるのは絶対条件でした。タッグを組んだ取引会社の社長にも相談して、いろいろと調整いただいた結果、なんとか税込3900円という値段にすることができました。とはいえ、決して安いわけではないし、大きくて持ちづらいし、正直かなり不安はありましたね」
発売日の3月11日には、売れ行きを心配するあまり、部の上長も売り場を訪れ、裏からこっそり様子を見守っていたという。だが、そんな懸念を吹き飛ばすようにビッグチェーンネックレスは売れに売れ、用意した個数はあっという間になくなった。
しかも、見た目の絶大なインパクトと、いい意味でのバカバカしさがSNSで受け、大きな話題に。納入するたび完売御礼で、生産が追いつかないほどの人気となった。
ヒットの裏側に緻密なPR戦略
この一大ムーブメントの裏には、グッズチームの緻密な戦略もあったという。
「事前のプロモーションもなしに、急に商品を並べても売れるわけがないということはわかっていました。以前、発売前の仕込みをせずに販売して、思うように売れなかった商品があり、その反省、失敗の教訓をビッグチェーンネックレスで活かしたのです。
選手につけてもらって、その動画などをSNSに投稿するのがいいだろうということになり、誰が適任かとあれこれ検討しました。メジャーリーグを見ていると、やっぱりこういうアイテムはセレブレーションの時に身につけていることが多く、特にホームランバッターがつけるイメージがありました。そこで白羽の矢を立てたのが、今年入団したレアンドロ・セデーニョ内野手。春季キャンプ最終日、協力をお願いしに宮崎へ飛びました」
早速セデーニョ選手にグッズを見せると「これいいね!」とにこやかに快諾。2月25日に投稿された動画には「でかすぎ(笑)」「無駄感がいい」と多くの反応が寄せられた。
「球団スタッフにも『なんだあれは?』と思わせたく、セデーニョ選手の撮影は、あえてスタッフたちもいる近くで、目立つように行いました(笑)。セデーニョ選手はかなりノリノリで撮影に協力してくれました。ヒーローインタビューやホームランセレブレーションの時に選手につけてもらえないかな、という希望もあったので、『ホームランを打った時にはこれをつけるよ』と言ってくれて本当に嬉しかったですね。
それからセデーニョ選手が気に入ってくれたという話を踏まえていろいろなチーム関係者に試合の演出での使用について確認を取るなどして、今の形に繋げることができました。一番の難関かもしれないと思っていた西口文也監督からもOKをいただけたと聞いたときはホッとしました。セデーニョ選手のファーストリアクションのおかげですね」
選手たちもすっかり気に入り、今では一部の投手から「自分たちもつけたい!」と嫉妬されるほど愛されているビッグチェーンネックレス。チャームのモチーフとなっているレオも大喜びだという。
「SNSを通じて、ファンの皆さまからの嬉しい声も拝見しています。こういう形で盛り上がっていただくのが何よりありがたい。あの愛称はもちろん(笑)、皆さまの投稿や口コミがなければここまで売れていませんから。
先日は、別チームの社員から『試合がない日に、商店街でネックレスをつけて歩いている小学生を見かけた』と報告がありました。そこまで愛されているのは嬉しいですね」
(取材・文/井上華織)
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【つづきを読む】『デカすぎる鎖ネックレス、ロン毛なりきりキャップ…埼玉西武ライオンズ「神グッズ」開発者が語る「ヒットの裏側」』