いつもぼっちの愛犬を他の犬と遊ばせてあげたい
コロナ禍から愛犬と旅行することが増えたという、愛犬家で旅行好きのライター長谷川あやさん。ペットフレンドリーなホテルも頻繁に利用している。
そんな長谷川さんから、愛犬で困っていることがあると聞いた。実は、今年11歳になるミニチュアダックスのケリーが、他のわんことの距離がうまく取れない。ドッグランに連れて行くと、他の犬たちが仲良く走り回っている中、他の犬の姿を見るだけで吠えまくるのだ。
散歩中も、他の犬に遭遇すると、やっぱり吠える。当然相手の犬は逃げてしまうのだが、ケリーは吠えながらもしっぽをぶんぶん振っているという。
本当は遊びたいのでは? 長谷川さんはドッグランでも散歩に行く公園でも、いつもぼっちのケリーを、なんとかほかの犬と遊ばせてあげたいと思っていた。
東京大学、および大学院で獣医学を学び、在学中にカリフォルニア大学デービス校付属動物病院にて行動治療学の研究をされた高倉はるか先生がペットのお悩み相談に答える連載。他犬だけでなく、宅配便やガス点検の職員が来ても毎回吠えまくるというケリーの鳴きぐせは、果たして治るものなのか。
はるか先生にまずは吠える理由から聞いた。
吠える理由は威嚇だけじゃない
――ずばり、ケリーはなぜ鳴くのでしょうか。
「なぜ鳴くのか。その理由は、いつ、どんな状況かによります。家の中なのか、外にいる時なのか。飼い主さんがそばにいる時か、不在でも吠えるのか。吠える=威嚇、と思うかもしれませんが、吠えは犬のコミュニケーション手段のひとつです。
吠える前に唸ったかどうか、吠え声のトーン、吠えるきっかけやタイミングで、原因は違います。
ケリーが他の犬に対して鳴くのは、2つ原因が考えられます。ひとつは怖いから。ほかの犬が怖くて、近づいてほしくない。もうひとつは興奮している。興奮している時は、嬉しくても吠える。いつもと違う状況を感じて吠える。ケリーの場合は、後者かもしれませんね」
先住犬に血尿を出すほど疲弊させ…
――そもそも長谷川家に来たのは、あるファミリーがペットショップで当時生後6か月のケリーを購入したところ、先住犬(トイプードル)を追いまわし、それが原因で先住犬は体調を崩し、血尿を出すほど疲弊したそうです。とても一緒に暮らせず、長谷川さんに譲渡されたそうです。また、長谷川さんの家では、宅配便やガス点検の方にも吠えるそうです。
「他犬だけでなく、人に対しても吠える。子犬の時から吠えて先住犬を追い回していた、ということですから、吠えることで自分の要求を満たしているのだと思います。
たとえば、人に対して吠えるのは、縄張りの中に知らない人が入ってきたため、大好きな飼い主さんに警告していると考えられます。ケリーを落ち着かせようと、長谷川さんが急いで用事を済ませたり、あるいはドアの外でやりとりされると、ケリーは自分が吠えたことで『敵を追い払ってやった』と満足している可能性があります。
怖くて吠えていたとしても、たとえば散歩中に他の犬に対して吠えれば、互いの飼い主さんが急いで引き離してくれる。これも、ケリーにとっては、『吠えたら危険を回避できた』という成功体験になります。
吠えることで自分の要求を通す体験を繰り返し学習したケリーは、きっとこれまでの間、吠えることが問題を解決するいい方法だと学んだのでしょう。
恐怖ではなく、好奇心で吠えている場合もあります。遊びに誘いたいと思っているのに、コミュニケーションが下手でうまく誘えない時など、気が急いて、つい吠えてしまう。でも相手の犬からは『近づくな』『向こう行け』と言っているように見えてしまう。それで相手が逃げてしまうと、「行かないで」「遊びたい」という気持ちが高まって、ますます吠えてしまう。ドッグランで、決して攻撃的には見えなかった、しっぽを振っていたというのなら、ケリーはこのケースかもしれません」。
同じ相手なのに、場所で態度が変わる犬
実は、犬の警戒心はその居場所によって変わることもあるという。たとえばSNS上にこんな動画があった。2頭の犬の間に境界線となる仕切りを入れると犬たちは、狂ったように吠え合う。だが、境界線を取り払うと、噓のように鳴きやみ、互いに目をそらしあって、敵対行動がおさまる。これはどういうわけなのかとはるか先生に聞くと、縄張りの外にいる相手は敵とみなし、威嚇する。ところが、仕切りが取り払われて縄張りの境界線が見えなくなると「仲間」や「家族」に思えてしまうらしい。
「動物支援団体ワタシニデキルコトから預かっていたビスコにもそれに近い行動が見られました。散歩の途中で会う犬には、敵意を見せて吠えるのですが、家の中に入ってくると、いっきにトーンダウンするのです。
先日、ワタデキ出身の保護犬ふうちゃんがうちに来た時のことです。ふうちゃんが玄関の外にいるのを見たビスコは、警戒心むき出しにして、ワンワン吠えました。喧嘩にならないかと心配しましたが、ふうちゃんは動じることなく、飼い主についてとことこと家の中に入りました。すると、ビスコは急に静かになり、ふうちゃんを受け入れました。2匹は体のにおいをかぎ合い、しっぽすら振り始めました。
家の外にいる時は、誰かれ構わず喧嘩をふっかけても、家の中に入ってきてしまうとファミリーに変わってしまう。こうしたビスコのような仔は、他の犬を受け入れられないわけではないので、外でも、家の中と同じように、友好的に振る舞えるよう、教えられれば、吠えはおさまります」
◇縄張りの外と中では、同じ相手に対してでも、見え方が変わる。こうしたビスコのような犬なら、家の外でも中と同じように振る舞えばいい、ということを学べれば、吠えはおさまるという。
後編「『いつもぼっち』11歳のミニチュアダックスの吠え癖を治せるか治せないかを見極める方法」では、具体的な解決策、学ばせ方をお伝えする。