118の元素一つ一つに物語があるーー。
この世界を形作る構成要素「元素」。現在までに、なんと118種類の元素の存在が判明しています。
もちろん、私たちヒトの身体もまた、さまざまな元素からできています。そして、からだの中のちょっとした元素のバランスの乱れが、健康状態までをも大きく左右するのです。
そんな元素と人間の深遠な関係を主軸に、118の元素が織りなす物語を、『元素118の新知識〈第2版〉 』の編著者で、『生命にとって金属とはなにか』の著者でもある桜井弘氏に紹介してもらいます。
今回は、6月5日に誕生したフィンランドの化学者ヨハン・ガドリンが発見した、元素番号39番のイットリウム元素を取り上げます。

*本記事は、科学に関する歴史的な出来事を紹介する「科学、今日は何の日」シリーズとして、『 元素118の新知識〈第2版〉 』を再編集・再構成してお送りましす*
史上はじめてのレアアースを発見したガドリン
イットリウムは、1794年にヨハン・ガドリン(1760〜1852)が、スウェーデンの小さな町イッテルビー(Ytterby)で発掘された新奇な鉱石(のちに「ガドリン石」とよばれるようになる)を分析し、新元素を含む酸化物(イットリア)を発見したことに由来する。
1843年にスウェーデンのカール・グスタフ・モサンデルは、ガドリンが見出した酸化物を分別して、純度の高いイットリウムを得た。
イットリウムは希土類元素(レアアース。3族に属するスカンジウムとイットリウムの2元素に、ランタノイド15元素を加えた合計17元素をいう。下に示す「元素周期表」参照)の一つであるが、希土類元素の発見のための長い研究の歴史は、このイットリウムの発見からスタートしている。
イットリウムは、希土類元素では唯一、一文字の元素記号をもつ。鉱物中に多く存在し、ガドリン石、モナズ石、ゼノタイムなど、イットリウム鉱物とよばれる花崗岩に含まれる。
今や見ない日はない…白色LEDに使用
イットリウムは、酸化数が+3のハロゲン化物、酸化物、水酸化物、酸素化物、硫化物として知られている。
イットリウム金属は展性や延性のない灰色の金属で、空気中では容易に表面が酸化される。熱水で分解され、アルカリでは溶けないが、酸には溶ける。
イットリウム金属は合金としてよく使われ、イットリウムを含む鉄酸化物は磁石として利用されている。アルミニウムとの酸化物(Y₃Al₅O₁₂)の単結晶はYAG(イットリウム-アルミニウム-ガーネット)とよばれ、強力な固体レーザー光を与える。
白色の発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)ランプは、青色LED(半導体)とこのYAGとを組み合わせてつくられる。LEDランプは水銀を含まないため、蛍光灯に代わり普及している。
イットリウムは、3波長蛍光ランプやデジタルカメラの光学レンズ、セラミック、ニッケル水素電池極板、携帯電話のコンデンサーに使われている。二酸化ジルコニウム(ZrO₂)にイットリウムを加えたものはダイヤモンドに似た輝きと硬度を示す。
生体調査の際のマーカーのほか、がん治療にも用いられる
イットリウム化合物をマウスに静脈注射したときの毒性は、ランタン(La)やネオジム(Nd)などの希土類化合物に比べて低い。腸でほとんど吸収されないので、家畜や人間の消化器による食物吸収速度を測定するためのマーカーとして使われる。
半減期約64時間のβ線を放出する⁹⁰Yは、がんに特有のタンパク質に対する抗体に結合させることで、悪性リンパ腫などの治療に用いられる。
ガドリン石が秘めていた9つものレアアース
さて、スウェーデンのイッテルビーで見つかった重くて黒い石「ガドリン石」に、イットリウムをはじめとする9種類もの元素が隠されていた事実は、人々に驚きと感動を与える逸話となった。
北欧の人々を中心とした100年を超える努力と情熱が、現代社会に欠かすことのできない希土類元素(レアアース)の存在を明らかにしたのである。
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「ガドリン石」からイットリウムを発見したヨハン・ガドリンですが、まさにガドリンに名称の由来を持つ希土類元素(レアアース)が、この鉱石から発見されています。
続いては、このレアアース「ガドリニウム」を見てみましょう。
元素118の新知識〈第2版〉 引いて重宝、読んでおもしろい

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