バブル崩壊から立ち直れない中国
2024年秋以降、中国政府は立て続けに大型の経済対策を実施してきた。それにもかかわらず、不動産バブル崩壊から抜け出す兆しが見えてこない。今年4月の主要な経済指標を見ると、不動産分野の投資や販売実績など、前月の実績を下回った数字が多い。
現在の中国経済は、約30年前の日本経済に似ている。1990年代の初頭、わが国では資産バブル(株式と不動産の価格が高騰した経済環境)が崩壊した。1992年には住宅金融専門会社の債権が焦げ付く住専問題が表面化。当時、わが国の政府は不良債権処理を先送りし、結果的に経済状況は一段と深刻化した。
中国は、わが国が経験した以上に厳しい状況に直面するかもしれない。その懸念材料は多い。
中でも、雇用・所得環境の悪化で不動産の取得を諦め始めた若者の悩みは深刻だ。土地が公有の中国では、自分の人生の安定した基盤のためマイホーム保有を重視する人が多い。その人たちが、自分の家を持つことを断念するのはつらいに違いない。
中国において、不動産市場の動向は人々の生活に重要な影響を与える可能性は高い。若年層は高失業率問題がのしかかる。また、少子高齢化、さらには社会保障に影響を与える地方政府の財政悪化も不安の種だ。
半導体、人工知能(AI)、過剰生産能力をめぐる米中対立も中国経済の下振れ懸念を高める。中国がどのようにして不動産不況から脱するか、当面、先行きの不透明感を払しょくすることは難しいだろう。
さらに冷え込む不動産市場
2020年8月、中国政府は不動産融資規制を実施した。2021年以降、新築住宅価格の下落は鮮明化した。
その後、ゼロコロナ政策が長引いたことも重なり、足許まで中国経済の成長率は鈍化傾向が続いている。中国政府は、金融・財政政策をうって目先の景気を支えようとしたが、当局の思ったように景気は安定していない。
そうした状況は、今年4月の主要な経済指標から確認できる。
消費者物価指数は前年同月比で0.1%下落した。デフレ圧力は上昇傾向とみられる。新規の人民元建て融資も伸び悩んだ。小売売上高は、前年同月比5.1%増と前月の結果(5.9%)及び事前予想(5.5%)を下回った。コロナショック発生以前の水準と比べても、中国の個人消費にかつてのような勢いは感じづらい。
不動産分野では、4月の70都市の新築住宅価格指数は、45都市で前月から下落した。下落した都市の数は4つ増えた。中古住宅では8都市増の64都市で価格は下落した。1~4月の不動産投資は前年同期比10.3%減、1~3月の同9.9%減を上回った。不動産デベロッパーの資金調達は同4.1%減で、こちらも1~3月の3.7%減から深刻になっている。
不動産分野の環境悪化に加え、米国の対中関税引き上げも景況感の悪化につながった。固定資産投資、鉱工業生産も伸び悩み気味だ。
景況感の悪化を食い止めるため、中国人民銀行(中央銀行)は主な政策金利であるリバースレポ金利に加え、1年と5年のローンプライムレートを引き下げ、金融緩和を拡充した。
1860兆円分の売れ残りが…
不動産不況が長引いている背景の一つに、マンションなどの過剰在庫の解消が難しいことがある。
これまでデフォルトに陥った、恒大集団(エバーグランデ)や碧桂園(カントリー・ガーデン)に加え、足許では、万科企業(チャイナ・バンカ)の業績悪化も鮮明だ。かつて、同社は中国の優良不動産企業と目されたこともあった。
不動産企業は、資金繰りを確保するため在庫を値引きして売却しなければならない。その一方、個人の雇用・所得環境が悪化する中、予約販売に基づくローンを負担することが難しい。不動産デベロッパーが追加で値引きをしても、買い手は容易に見つからず、業者の資金繰りがひっ迫する負の連鎖が続いている。
その結果、中国の不動産在庫は(未完成のものも含めて)増加傾向にある。中国の不動産在庫がどの程度かを示す試算は多い。その一つによると、販売面積と在庫面積の比較から、在庫の圧縮には5年かかるようだ。5年という見方は、まだ楽観的との指摘もある。
米大手金融機関の試算によると、2024年、中国の不動産販売額は9兆元(180兆円)程度だった。それに対して、売れ残りの不動産は93兆元(1860兆円)あるという。単純に計算すると、不動産在庫が解消するには10年以上を要することになる。
しかも、今後の価格下落を予想する個人や企業は多い。中国政府は、金融機関などへの公的資金注入が遅れ、対応が後手に回っているとの指摘は多い。
つづく記事〈中国の若者はマンション購入を諦め始めた…日本のタワマンを買い漁る中国富裕層との「残酷な格差」〉では、不動産バブル崩壊の後遺症に頭を悩ませる中国国内の現状をさらに解説する。