「『具体↔抽象思考』というのは、具体と抽象を行き来する思考法のことです。解決したい状況や伝える相手に応じて何が大切なのかを見極めて、具体と抽象を行き来しながらピントを合わせるのです。『具体↔抽象』には4つの思考があります。この4つが習得できると、あらゆる人とのコミュニケーションが円滑になります……」
元デロイトでトップ1%の人にしか与えられない「S評価」を受けた経営コンサルタントの権藤悠氏は言います。同氏の新刊『頭のいい人になる 具体↔抽象ドリル』から一部抜粋、編集してお届けします。
「具体と抽象」を行き来しながら考える
「具体↔抽象思考」というのは、具体と抽象を行き来する思考法のことです。解決したい状況や伝える相手に応じて何が大切なのかを見極めて、具体と抽象を行き来しながらピントを合わせるのです。
たとえば、部屋を散らかしっぱなしの子どもがいたとして、親が「部屋を片づけなさい」と怒ったとします。でも、何度言っても子どもは「もう片づけたよ」と片づけようとしない。
そこで今度は「人形は上から2段目の引き出しに入れて、ブロックは3段目の引き出しに入れてごらん」と言ったとします。すると子どもはちゃんと片づけることができた……。
この事例から何を言いたいのかというと、この親は、まさに具体↔抽象思考を使っているということです。
「部屋を片づけなさい」という言葉は抽象的です。子どもは「部屋は片づいている」という認識ですが、まだ床に人形やブロックが置いてある。具体的に言わないと伝わらないことが多いのです。
つまり、このとき親が見ている世界(抽象)と、子どもが見ている世界(具体)は異なっていたということ。そこで、子どもが見ている世界にピントを合わせるために、親は具体の世界に下りてきて、具体的にやり方を伝えたのです。
そのうえで一緒に部屋を見ながら親から「今の床にも机にも何もない状態を『部屋が片づいた状態』と言うんだよ」と伝え、子どもが具体的に理解することで初めて「部屋が片づいた状態」という抽象的な言葉への解像度が二者間で揃うのです。
実際に筆者の娘とのやりとりでも解像度を揃えながらコミュニケーションを取ることを大事にしています。
このように、具体↔抽象力があると、解像度を揃えることができるため、状況に応じて適切な対策が取れ、コミュニケーションが円滑になるというメリットがあります。また、実務面でもターゲットが求めていることにピントを合わせて商品開発を行えるようになるなど、広い範囲でメリットがあると言えるでしょう。
この「4つの思考」を身につけよう
ここでは具体↔抽象思考を以下の4つに分けています。
・メタ認知思考
・説明思考
・比喩思考
・具体→抽象→具体思考
一つずつ説明していきます。
・自分を客観視する「メタ認知思考」
「メタ認知思考」というのは、自分が見ている世界を客観的に見る思考法です。自分自身も、そのときどきに応じて、具体の視点で見ていたり、抽象の視点で見ていたり、ピラミッドツリーのどのレベルにいるかは異なります。それを客観視するのです。
たとえば仕事でうまくいかないときに自分を客観視してみる。すると、「具体的なことにとらわれすぎていたから、もう少し抽象の視点で見てみよう」とか、「抽象的にしか理解していなかったから、具体の世界へ下りていって行動に落とし込もう」など、自分の行動を振り返りやすくなります。
また、自分を客観的にとらえることで「他者から見ている自分」も見えてくるので、たとえば自分では良かれと思っていた行動が、他者からするとありがた迷惑だったと気づくなど、他者との認識のズレを解消することにも役立ちます。
メタ認知思考ができないと、気付きを得られずにぐるぐる同じところを回ってしまうことになります。そのため、仕事の成果や、自分自身の成長になかなかつながらないと言えるでしょう。
また、自分を客観的に見られないがゆえに、空気が読めない言動をしてしまう恐れもあります。
「相手の目線」に立って説明する
・相手が見ている世界を見る「説明思考」
「説明思考」というのは、相手が見ている世界にピントを合わせて、自分が伝えたいことを伝える思考法です。
たとえば、営業部がシステム開発部に、顧客のニーズに合わせたシステムを開発してほしいとお願いするとします。このとき、営業部の人間が、「今月中に◯◯と△△な機能があるシステムを作ってほしい」と伝えるだけでは、相手はYESと言いにくいでしょう。
なぜなら、営業部の人間は「◯◯と△△な機能」という抽象の世界を見ていますが、システム開発部の人間は専門家です。それゆえ、具体の世界が鮮明に見えています。
その結果、「◯◯の機能を開発するためには□□と××を作る必要がある。□□には10日かかって、××には7日かかる。だからスケジュール的にきつい。無理」という判断に至るかもしれません。
そこで大切になってくるのが「説明思考」です。先の例で言うと、システム開発部の人間が見ている具体の世界にピントを合わせて、相手に寄り添う形でお願いし、自分たちがシステム開発部ほど要望の具体が見えていないことを前提として相談をするのです。
簡単に言うと、相手の目線に立って説明、力を借りる、ということです。「説明思考」が身につくとコミュニケーションを工夫できるので、仕事や物事を円滑に進められるようになります。段々と相手の具体の世界をとらえ、同じ目線の解像度で議論ができるようになります。
・ものや経験に喩えて表現する「比喩思考」
「比喩思考」というのは、抽象的な概念や複雑な感情を、具体的なものや経験に喩えて表現する思考法のことです。
たとえば、サッカー好きな外国人の友達に「武士道」を説明する場合。武士道で重んじられている「正直であること、弱い人を助けること、自分の行動に責任を持つこと」をもとに、「武士道は『サッカーのフェアプレー精神』のようなもの」と喩えるような感じです。
このように、相手にも自分にも共通のわかりやすい事柄に置き換えることで、「ああ、そういうことか」と相手に鮮明にイメージをしてもらうことができます。
目標を達成したいときにも効果的
「比喩思考」は、1対1の対話はもちろん、スピーチや講演などの多数の聴衆に向けた場において、大いに役立つ思考法です。
先ほどの「説明思考」は、相手が見ている世界に寄り添う必要がありました。そのため、10人いて、それぞれ違う階層のレベルを見ている場合はピントを合わせるのが難しくなります。
それに対して「比喩思考」は、共通する事柄を用いるので、誰もが鮮明にイメージすることができます。説明が上手な人は「たとえば」をよく使います。それによって、納得感と共感を得やすくなるからです。
「比喩思考」ができないと、伝わりにくいために共感を得られず、相手からすると他人事になりがちです。そのため、何かをお願いする場面においても、なかなか行動に移してもらえません。
・課題解決・目標達成に使う「具体→抽象→具体思考」
「具体→抽象→具体思考」というのは、エレベーターのように具体と抽象を行き来したり、具体A→抽象→具体Bへ下りてくるというように、ピラミッドツリーを循環する思考法のことです。
たとえば、前者のエレベーターのような使い方としては、資格試験に合格したいときを例にするとわかりやすいかもしれません。
資格試験に合格するためには、自分の状況を分析して(具体化)、洞察して(抽象化)、日々の行動に落とし込む(具体化)必要があります。自分を出発点として、最終的に自分のところに下りてくるわけです。
後者の循環型は、出発点と着地点が異なるのが特徴です。出発点は異分野(自分以外)で、着地点は自分の分野(自分)です。一見、自分とは関係がない世界の成功法則を自分ゴトとして転換し、活用するのです。
エレベーター型も循環型も、これまでの思考法を土台として使うので、具体↔抽象思考の総仕上げとなる思考法だと言えるでしょう。