東ゲートは2時間待ち、西ゲートはガラガラ
150ヵ国以上の国が参加し、2820万人の来場者が見込まれる大阪・関西万博が、2025年4月13日から184日間にわたって開催されている。
大阪湾の人工島・舞洲にある会場へのアクセス手段として、鉄道(大阪メトロ中央線・東ゲート)、バス・船・自家用車・ライドシェア(西ゲート)などが準備された。
しかし実際には鉄道での来場者が集中し、開催初日の東ゲートは入場までに1時間、2時間待ち。「並ばない万博」とうたわれた万博には、あるまじき光景だ。
一方でバス・船などでの来場者が少ないこともあり、西ゲートはだいたい空いていて、待たずに入場できる。混雑状況のあまりの偏り方に「中央線でなにかトラブルがあったら、『人工島の夢洲からどう帰るんだ?』」との懸念の声も…。
はたして開幕10日後の4月22日夜には、中央線で車両故障が発生。21時の閉場ギリギリまでイルミネーションを堪能した来場者が中央線・夢洲駅に殺到、駅への入場すらできず、野外で待たされる状態が続いたという。
万博の入場者数は当初見込みの「会期中2820万人、1日15万人」より少ないので、本来ならスムーズに来場者をさばけるはずだ。それなのに、なぜ来場者が地下鉄だけに集中し、混乱が生じているのか。
現地を巡って、その原因を探ってみた。
万博輸送、想定は「鉄道が何割、バスが何割?」
まず、今回の万博で、鉄道・バスなどの役割分担を示す「機関分担率」の当初予想を見てみよう。大まかに「鉄道6割、バス1割、クルマ3割」といったところだろうか。
1日の入場者が22.7万人の場合
・鉄道:13.3万人(58.6%)
・駅シャトルバス9ヵ所(JR桜島駅系統含む):2.6万人(11.4%)
・自家用車・団体バスなどクルマ系:6.8万人(30%)
これが2005年開催の「愛・地球博」だと、1日平均は「鉄道4.9万人(41.2%)、駅シャトルバス0.9万人(7.6%)、クルマ系4.1万人(35.1%)」(ほか「徒歩・二輪・タクシー」)だった(愛・地球博「EXPOデータ集」より)。鉄道輸送の貧弱さもあって、目標とする「鉄道系6割、道路系4割」には届かなかった(この場合、バスは「道路系」に入っている)。
「愛・地球博」の場合、メインとなる長久手会場と名古屋市内(地下鉄東山線と接続)を結ぶ最短ルートとして、磁気浮上式のリニアモーターカー「リニモ」が建設された。しかし、1編成244人というリニモは積み残し・乗車待ちの多発や、高架上での立ち往生など不安定な運用が続き、JR中央本線→愛知環状鉄道と遠回りが必要な「エキスポシャトル」も、ルートとして推奨されるようになっていた。
一方で大阪・関西万博は、大阪メトロ・中央線が1時間24本(2分30秒に1本)という、地下鉄としてはほぼ限界に近い体制で来場者を迎え入れている。事前に検討されたJR、京阪の夢洲延伸は叶わなかったものの、今の万博のアクセスの方が格段にマシだ。ただし、あまり利用者が集中しない状態で、何もトラブルが起きなければ…の話だ。
課題(1)中央線の「定員少ない問題」
1961(昭和36)年に開業した大阪メトロ・中央線は、8路線の中で3番目に長い歴史を持つ、大阪を代表する地下鉄路線のひとつだ。しかし、万博輸送で立ちはだかるのは「中央線・やや輸送力足りない問題」だ。
中央線は、もともと6両編成で、乗車率100%の場合は1編成で800人程度。おなじ大阪メトロでも、1編成8両で一挙に1000人以上を運ぶ御堂筋線・堺筋線よりも、輸送力としては劣る。
大阪圏の主要路線の平均である「混雑率120%」を大幅に上回る150%まで詰め込むことはできるが、ふだんから中央線を利用している、港区の利用者がしわ寄せを食らうことになり、極度の混雑は避けたいところだ。
なお、首都圏で比較すると、「都営大江戸線(1編成約780人)より、ちょっといい程度の車両が万博輸送を担っている」といえば分かりやすいだろうか
強化策として「6両→8両」に増結しようにも、ホームの長さが足りなかったり、拡張スペースがあっても階段に転用している駅もある。そうなると、万博開催前よりも倍増となる「6両編成で1時間24本」運転を行う以外の手段がない。
これでも、大阪メトロは新車両を30編成以上も導入(一部は万博終了後に谷町線に転用)、90人いた運転士を倍増させるなど、万博サイドの期待には十二分に応えている。
すでにこれ以上の余裕がない鉄道(中央線)を、路線バスが補完できれば良いのだが、現実にはそうもいかない。
課題(2)「バス本数少ない&要予約問題」
万博行きのバス路線は、総じてあまり利用されているとは言えない。ほとんどの路線が1時間に1.2本しか運転しておらず、JR桜島駅発着以外のほとんどの路線は乗車便予約が必要となるため、「地下鉄がトラブッたら、バスに切り替えよう!」といった使い方もできないのだ。
かつ、その予約が「30分前で締切」「10分前で締切」など各社ともバラバラで、万博側のホームページでは「Kannsai MaaS(アプリ)をご確認下さい」と丸投げ状態だ。
さらに、その「KansaiMaaS」も曲者で、なぜかトップページに「万博シャトルバス予約ページ」がなく(あるのは「万博シャトルバス予約ページへの進み方」解説ページ)、どの便が何分前まで予約可能か、といった重要事項は、最後までページを読み進めないと分からない。
要するに、「万博ホームページは丸投げ、Kansai MaaSアプリは操作性が魔境」なのだ。
アプリの煩雑さの原因は、「万博への来客を引き込むための観光地案内が多すぎて、肝心のシャトルバス購入ページが奥の階層に入っている」ことだろう。そもそも、バスの予約なら独自アプリではなく、すでに多くのユーザーが使っている「NAVITIME」「QUICK RIDE」に作ってもらったほうが、アプリとしてサッと操作できたのでは?
一事が万事この状態では、万博会場へのバス利用が伸びず、鉄道のバッファ(輸送の余裕)になっていないのは当然のこと。なお各便とも増便できれば良いのだが、万博に限らず「バスの運転手不足」が問題になっているご時世では、難しい話だ。
では、なぜ中央線が止まっただけで、ここまでの混乱が起きたのか? 愛・地球博との最大の違い「会場が離島である」「アクセスが橋1本、トンネル1本しかなく、徒歩やタクシーでの脱出ができない」という根本的な問題は、ここでは触れないでおこう。
バスの運行体制、予約を受ける体制もご覧の有様で、東ゲートから西ゲートへの移動が必要とあっては、多くの人々が不満をこぼしながら、地下鉄の再開を待つ人々が多かった。しかし、意外と運転再開が遅くなり、夢洲駅に人がたまってしまった。こういった混乱は、また起きるだろう。
ひっそり行われていた「バスの分担率縮小」
なお、万博開催前から輸送体制は問題視されていた。2022年に万博輸送の本格的な検討を始めた時点で「バスは全体の22%」を担うはずが、最終的には11.7%に。3年間でバスの負担を半減させざるを得なかったのだ。
万博会期中の輸送の在り方を検討した資料(アクションプラン)で見ると、2023年5月の時点で「1日に鉄道12.6万人・バス3.5万人」とされていたのが、2024年7月には「鉄道12.9万人・バス3.0万人」、同年12月の最終案では「鉄道13.3万人・バス2.6万人」に。バスは9000人分を担えなくなり、この「輸送のスキマ」を鉄道(中央線)が引き受けたために、東ゲートへの混雑に拍車がかかることになったのだ。
それにしても、バスでは輸送を担えない来客の安易な振り替え方は、検討資料を見るに「シンプルな帳尻合わせ」に見えなくもない。
課題(3)駐車料金激高・ガラガラの理由
クルマ利用の少なさ、駐車場の閑散ぶりに関しては、「5000~7000円」という、USJ・東京ディズニーリゾートの倍程度の料金設定にも問題があるだろう。ただこればかりは、料金を下げてクルマ利用を促進する訳にもいかない。
なにぶん、自家用車は渋滞を引き起こし、クルマ1台ごとにきっちりCO2を排出する。万博サイドは開幕前に策定された「持続可能な大阪・関西万博開催にむけた方針」でも、「省CO2 ・省エネルギー技術の導入や再生可能エネルギー等の活用により、温室効果ガス排出量の抑制に徹底的に取り組む」とうたい、公共交通での来場を推奨している。
こういった経緯から、「CO2出してでも、クルマで来てね!」とは、なかなか言えないだろう。
閉幕までどこまで改善できるか
こうして見ると、鉄道・バスなどでの万博輸送にはまだまだ問題が多い。特に今回は、「地下鉄が不通になると、振替の移動手段がほぼない」ことに、多くの人々が気付かされた。
せめて、中央線の運休時にはバスへの誘導と、現地での乗車受付ができるような体制…の構築は、今からでは難しいだろう。せめて、直前でも予約できるよう、各社に協力を仰ぎたい。
それでも、「バスの予約が面倒臭い」「アプリやキャッシュレスが使いづらい」という不満は残るだろう。しかし、長らく公共交通・自動車交通の分野で情勢を追ってきた筆者の立場から見ると、こればかりは仕方ない。
バス業界は運転手不足・採算の問題から、予約が必要な「デマンド化」、車内・営業所の現金扱を省力化する「キャッシュレス化」が進んでおり、望まずとも到来するであろう「バスの乗車に予約が必要な世の中」を一足早く体験、と考えるしかない。
大阪・関西万博の輸送体制を好意的に見れば、鉄道が目の前に発着することで「愛・地球博」よりは利便性が良く、世間を騒がせた「帰りのシャトルバス・リニモ1時間待ち(注:事故がなくても発生していた)」などの事態も起きていない。この輸送体制は、よくできたほうなのだ。あくまで、何もなければ…。
今後とも、万博アクセスへの試行錯誤は続くだろう。閉幕まであと5ヵ月、どこまで改善できるか注目したい。
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