35歳という年齢以外は、性格も職業もまったくタイプの違う大人の女性同士の少しビターな恋のゆくえ。2019年から2023年まで漫画雑誌「Kiss」(講談社)にて連載され、“大人百合”というテーマを軸にした人間模様が話題を呼んだ志村貴子さんの原作コミック『おとなになっても』の実写ドラマ化作品が、4月26日(土)よりHuluにて独占配信される。
物語の主人公のひとりを演じるのは、幅広いジャンルの作品で活躍し、昨年、芸能生活35周年を迎えた栗山千明さん。現在、放送中の主演ドラマ「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(読売テレビ・日本テレビ系)では、自由奔放なポリアモリー(複数愛者)のシングルマザーを演じている彼女は、性別や年齢を超えて、人を惹きつける役柄が似合う俳優だ。
「実は恋愛ものの出演作の数はあまり多くない」という彼女が、Huluオリジナル「おとなになっても」で描かれる恋愛の関係、自身の考える“大人像”について語ってくれた。
“理屈じゃない恋”を表現することの難しさ
原作者・志村貴子さんは、女子高生同士の百合や、義兄弟のボーイズラブ、自分の性別に関して思い悩む少年少女の物語など、さまざまな恋愛の形を繊細な心理描写で描くことに定評のある漫画家。栗山さんは、原作コミックを読んだときの最初の感想を「私がそれまで抱いていた恋愛マンガのイメージとはちょっと違う、恋愛の世界観がすごく広い作品だなと思いました。読者として、純粋にすごくおもしろかったですね」と振り返る。
栗山さんが本作で演じる朱里は、美容師の資格を持ちながら、現在はダイニングバーで働いている独身の女性。彼女はある日、客として来店した小学校教師・綾乃と出会い、お互いに強く惹かれ合う。新しい恋の始まりにときめく朱里だったが、数日後、綾乃が既婚者であることが判明。あきらめようと思いつつ、綾乃の言動にふりまわされてしまう朱里と、朱里への気持ちにとまどう綾乃の関係は、周囲の人たちをも巻き込んで、思いがけない展開を見せていく。
「たとえば学校や職場が同じ2人が、日々の生活の中で、徐々に相手を好きになっていくというケースではなくて、本当にたまたま会って、本能的に『好き!』って思う。そこにどう説得力をもたせられるか。描かれることの少なかった女性同士の恋愛ですが、相手の性別云々よりも、“理屈じゃない恋”を表現することに難しさを感じました。恋愛って、誰が正しいとか、悪いとかじゃないんですよね。だからこそ、観ている方が感情移入できたり、『朱里、がんばれ!』って、思ってくださったりするキャラを作ることが一番の課題でした」
人は自分にないものを持つ誰かに惹かれてしまう
明るい性格で、コミュニケーション能力が高い朱里は、気づかいができるぶん、自分の想いは心の中にとどめようとするところもある、いじらしい女性。一方、まじめで正直な綾乃は、気持ちを隠すことなく、夫や姑にまで、あっさり告白してしまう大胆さを持っている。
「朱里はサバサバしているように見えるんですけど、好きな人のちょっとした言動に一喜一憂したり、いろいろ迷ったりして、内面はすごく可愛らしいんですよね。そんな朱里からすれば、教師でもある綾乃は一見、考えていることが分かりにくいけれど、堂々としていて、とても芯が強い人に見える。そこが不思議な魅力につながるのかなって。やっぱり人は、自分にないものを持つ人に惹かれたり、自分もこうあれたらいいなという憧れを抱いたりするので。朱里と綾乃は、その凹凸がうまく合った2人なんだろうなと思います」
綾乃役の山本美月さんとは今回が初共演。「山本さんは綾乃のキャラクターに本当にぴったり。ふつうに話していても、芯がしっかりしていて、頼もしさを感じました。どうすれば、こんなに美しい人が生まれてくるんだろうなぁと思いながら、演じているとき以外でも目で追ってしまいました(笑)」と栗山さんは話す。
「現場では、山本さんや監督と一緒に『綾乃だったらこうだよね』、『朱里ならこうするよね』って、自然に会話をしながら作り上げていく感じでした。あとは、台本と一緒にいつも原作のマンガを持ち歩いていて。撮影するシーンごとに、マンガだとこういうカット割りで、こういうふうに見えているということを確認していました。もちろん静止画であるマンガと動画では違いがあるので、そこをちゃんと埋めながら、できるだけ、原作者の志村先生の描いた世界観を実写でも引き継げたら……ということを心がけていましたね」
自分を丸ごと受け入れることで得られる心の平穏
作品タイトルにもあるように、“大人になっても”、仕事、恋愛、家庭など、人生は本当に、ままならないものだと感じる人は多いはず。5歳から芸能活動を始め、多くの大人たちに囲まれて育ってきた栗山さんも「それはもう毎年思います!」と同意する。
「子どもの頃は、大人って、しっかりしていて、何でも知っていて、頼れて、優しくて、完璧な人みたいなイメージを漠然と持っていたんですよ。でも、自分が実際にどんどん年齢を重ねるうちに、ただ年齢が上がれば、自然にそうなれるものでもないと分かってくる。昔、自分がお世話になった大人の方々も、もしかしたら見えないところで間違えたり、いろんな大変なことを経験したりしていたんじゃないかなぁと思うようになりました」
栗山さん自身が今でも「ままならない」と感じているのは、「仕事、芝居」について。
「お芝居を長くやらせていただいているのに……、この仕事を何年もやっているのに……って、思っちゃうことが増えています。もういい年なんだから、これくらいできなきゃダメだ! って、自分で決めつけて、ハードルを上げてしまうんですよね。でも、そんなふうに焦る一方で、私、今、幸せだし、思いどおりにならなくても仕方ないかなぁって思う自分もいるんです。いい意味であきらめるというか、寛容になる。現実を見て、自分を丸ごと受け入れるようになると、悔しさやイラ立ちは落ち着くなぁと感じていますね。そう思える精神的なものが育っていることが、大人になってきたということなのかな(笑)」
「たぶん私は、そんなに理想が高い人ではないのかも」と謙遜する栗山さんだが、コンスタントに数多くの作品に出演し続けてきた彼女の才能とエネルギーは、35年という長いキャリアが証明している。
「最初はやっぱり、いろんな役をやりたい、この作品に出たい、という思いから始まって。でも、だんだん、やらせていただけることのありがたみが分かってきて。求めてもらう、喜んでくださる方がいるということの嬉しさが一番になってくるんですよね。撮影が大変とか、この役が難しいとか、くじけそうになったときもあるんですけど、応えたい! という思いで乗り越えられることが多かった。自分の欲だけでは難しかったと思います」
感情が揺れ動くことで人間的に豊かになれる
“大人”の定義は人によってさまざま。かつて何でもできる“理想の大人像”を描いていた栗山さんは今では、「やることはやる。ちゃんとはしたいけれど、無理に“大人らしい大人”になる必要はないかなと思っています」と笑う。
『おとなになっても』の物語の中には、朱里や綾乃のほかにも、親きょうだい、夫、義母、同僚、小学生まで、2人を取り巻く、多くの大人と子どもが登場する。せつないラブストーリーであると同時に、リアルな人間群像劇になっているところが本作の魅力だ。
「私が特に印象的だったキャラクターは、綾乃の義妹・恵利ですね。大人になってからも、ずっと実家に引きこもっていた彼女が、恋をすることで、外に目を向けるようになる。誰かを好きになって、感情が大きく揺れ動くことって、エネルギーを使うし、やっぱり疲れるじゃないですか。でも、その経験を通して成長できる、人間的に豊かになれる、ということを改めて感じました。このドラマを観てくださる方たちも、感情が振り回されることを面倒くさがらず、前向きにとらえていただけたらなと思っています」
栗山千明(くりやま・ちあき)
1984年生まれ。茨城県出身。ティーン誌のモデルを経て、1999年に映画『死国』にて俳優デビュー。『バトル・ロワイヤル』(2000)に出演後、『キル・ビル Vol.1』(2003)でハリウッドデビューを果たす。2010年には「機動戦士ガンダムUC」主題歌である『流星のナミダ』で歌手デビュー。2011年10月、「秘密諜報員 エリカ」(読売テレビ)でテレビドラマ単独初主演、主題歌も担当。同年、「塚原卜伝」(NHK BSプレミアム・BS時代劇)、NHK朝の連続テレビ小説「カーネーション」、その後も「大奥」(2024)や映画『八犬伝』(2024)など数々の話題作にて活躍。本作「おとなになっても」では、ダイニングバーで働き、女の人が好きな平山朱里を演じる。
Huluオリジナル「おとなになっても」
2025年4⽉26日(土)よりHuluにて独占配信開始。
毎週土曜 最新エピソード配信(全12話)
【ストーリー】
⼩学校の先⽣をしている綾乃(⼭本美⽉)は、久しぶりに⽴ち寄った⾏きつけのダイニングバーで、朱⾥(栗⼭千明)に声をかけられる。2⼈は初対⾯ながら意気投合し、そのまま朱⾥の部屋へ!? しかし綾乃には秘密があって……。
恋も、結婚も、仕事も、家族も、人間関係も“おとな”になったらすべてがうまくいくと思っていた。思い描いていたおとなになれているのか。ほろ苦い思いや葛藤が交錯する十人十色のおとなたちが織りなすヒューマンドラマ。
「迷ったり、立ち止まったりしながら生きる、すべてのままならないおとなたちへ」。
【出演】
山本美月
濱正悟
桐山漣 河北麻友子
錫木うり 樋口日奈 織田梨沙
野口かおる 田中直樹
麻生祐未
栗山千明
※桐山漣さんの「漣」は、しんにょう点ひとつです。
【原作】志村貴⼦『おとなになっても』(講談社「Kiss」所載)
【監督】兼重淳、定⾕美海
【脚本】灯敦⽣、丹保あずさ、合⽥純奈
ヘアメイク:奥原清一 (suzukioffice) スタイリスト:ume
<衣装クレジット>
ジャンプスーツ 55,000円 ジャケット 45,000円/ブランド名:MURRAL(Tel:03-6421-0963)
シューズ 33,000円 /ブランド名:TONY BIANCO/LE PHIL NEWoMan 新宿店(Tel:03-6380-1960)
パームカフ 46,200円 スモールボールネックレス 26,400円/ブランド名:Rieuk/リューク(in**@***uk.com)
ピアス 34,100円/ブランド名:PLUIE Tokyo/プリュイ トウキョウ(Tel:03-6450-5777)