ミドル~シニア層の日本人にとって、真に有効な健康習慣とは? あなたの「老化時計」の進み方を大きく変える、「食事」「運動」「ライフスタイル」について、最新研究の成果から解説。「健康の常識」をアップデートする新連載!
本記事は、『健康寿命と身体の科学 老化を防ぐ、50歳からの「運動・食事・習慣」』(樋口 満・著)を一部抜粋・再編集したものです。
飲酒習慣と疾病発症リスク
ご存知のとおり、アルコール飲料は世界中の多くの国々で嗜好されており、ビールやワイン、日本酒、焼酎、そしてウイスキーなどさまざまな種類があります。
アルコールは適量であれば、ストレス解消、食欲の増進、人間関係の円滑化などのメリットがある反面、適量を超えると、健康に対するデメリットもあることもまた、よく知られています。
WHOは、アルコールの有害な摂取を減らすための世界戦略を示していますし、循環器疾患やがんなどの疾患の予防コントロールのため、飲酒量の目標なども含めた行動計画を発表しています。
疾病別の発症リスクが上がる飲酒量(純アルコール量)については、表5-1に示したものが参考となります。ぜひこの表を折に触れて思い出して、自らの飲酒習慣をチェックしてみてください。ちなみに、度数5%のビール500mlに含まれるアルコール量が、約20gです。
飲んだアルコールの大半は小腸で吸収され、血液を通じて全身を巡り、肝臓で分解されます。肝臓のアルコール分解能力には個人差があり、年齢、性別、体質、さらには飲酒時の体調などによって受ける影響が異なっています。
健康に配慮した飲酒の仕方を、飲酒に関するガイドラインにしたがって、以下に箇条書きにして示しますので、ぜひ参考にしてください。
・飲酒によって生じるリスクを減らすために、自らの飲酒状況を把握する
・過度な飲酒を避けるために、あらかじめ量を決めて飲酒をする
・血中のアルコール濃度を上がりにくくするために、飲酒前、または飲酒中に食事をとる
・アルコールをゆっくり吸収・分解できるように、飲酒の合間に水を飲む
・1週間のうち飲酒をしない日を設ける
飲酒はからだにどんな影響を与えるか
「運動が習慣化されており、有酸素能力が高く、たまにしか飲酒をしない人」は、糖尿病の相対危険度が非常に低いことが、澤田博士らの東京ガス男性従業員を対象としたコホート研究によって明らかになっています。
さらに、この研究からは、「有酸素能力が高くても、多量飲酒の習慣がある人」では、その相対危険度が高いことも示されています。運動をしているから多量飲酒をしても構わないと思っている人は、気をつけてください。
また、私たちが実施した研究では、心肺体力が高い人でも、アルコール摂取量が多いと、メタボリスクが高くなる傾向があることが示されています(図5-5)。
これらの研究から明らかなように、たとえ日常の身体活動レベルが高く、心肺体力に優れているからといっても、多量の飲酒はやはり控えるべきであるといえるでしょう。
運動・スポーツで汗を流した後のビールの味は特別おいしく感じるものです。しかし、運動・スポーツをする人にとって、飲酒は以下に示すいくつかの理由で注意が必要です。
栄養バランスが悪くなる
食事時の飲酒は、食欲を増進するメリットもありますが、多量にアルコールを摂取すると、運動・スポーツをする人には欠かせないビタミン、ミネラルの吸収を妨げることにつながります。とくに、ビタミンB1はアルコールの代謝に必要とされるので、アルコールによる吸収阻害と、アルコールの分解で消費されてしまい、二重の意味で不足しがちになります。
筋トレの効果が減少する
運動後のアルコール摂取によって、たんぱく質の合成を促進し、筋肉の増加に欠かせないテストステロンが減少し、筋肉を分解するコルチゾールが増加してしまいますので、筋トレ後の飲酒は筋肉の再合成を阻害し、筋トレ効果を低減させてしまう可能性があります。
水分不足になる(脱水状態になる)
運動後には発汗によって体水分が不足状態になっています。しかし、運動後にそのままの状態で飲酒をすると、アルコールによる利尿作用により、脱水状態がさらに進行してしまいます。
十分な睡眠がとれない
アルコールの多量摂取には、急性的な催眠効果もありますが、夜になると分泌される抗利尿ホルモンの作用が抑制され、尿の量が多くなり、夜中に何度もトイレに起きることを強いられ、それが十分な睡眠を妨げる結果となります。
以下では、お酒と楽しく付き合うために、飲酒のデメリットを減らす食生活について、最新の研究成果からいくつかご紹介します。
晩酌では「豚肉」を食べよう
WASEDA’S Health Studyでは、とくに男性に顕著にみられる「アルコール食事パターン」について調べました。
夕食時の晩酌や、仕事帰りに居酒屋に寄って、つまみの肴(魚介類)とともにお酒をたくさん飲むような食事をイメージしてもらえばいいでしょう。
この調査では、対象となった人々のアルコールの1日の平均摂取量は、男性で12g、女性で8gでした。そして、アルコール食事パターンスコアの高得点群では、1日当たりの平均アルコール摂取量がおよそ40g(日本酒:2合、ビール:500mL2缶に相当する)に達していました。
主食では、ご飯の摂取量が多く、パンの摂取量は少ない傾向があり、主菜としては、魚介類の摂取が多く、焼き魚、煮魚、そして刺身としてよく食されており、いわゆる和食中心の食生活でした。
アルコール食事パターンスコアが高い人々は、総エネルギー摂取量に占める脂肪の摂取比率が低い傾向でした。
さらに、微量栄養素であるビタミンDの摂取量は十分でしたが、豚肉に多く含まれているビタミンB1の摂取量は低い傾向が認められました。ビタミンB1はエネルギー代謝、とくに糖質をエネルギー源として利用する際に必須のビタミンです。
そのため、ビタミンB1を多く含む食品の代表である豚肉、および豚肉製品であるハム、ソーセージなどを飲酒中にも適切な量、日常的にとることが奨められます。
アルコール食事パターンと脂質異常の関係は?
食事パターン研究によって、「ヘルシー日本食パターン」のスコアが高いと、血中中性脂肪(トリグリセリド:TG)濃度が高い高中性脂肪血症と判定される確率が低くなる傾向があることが明らかになりました(図5-6)。
主成分分析によって、副菜重視型のヘルシー日本食パターンの次に抽出された食事パターンが、飲酒習慣を反映した「アルコール食事パターン」です。
アルコール食事パターン
この調査研究によって、アルコール食事パターンスコアが高い人は、血中中性脂肪濃度が高い高TG血症と判定される確率(有病率)が高くなりますが、逆に高LDL─コレステロール血症の有病率は低い傾向が示されました(図5-7)。
血中LDL─コレステロール値が高いと、動脈硬化が促進されることが知られていますので、この結果は飲酒習慣のある、とくに男性にとっては、一見すると朗報のように思えます。
しかし、過度な飲酒が高血圧や高血糖などの代謝異常リスクを高めることも、私たちの調査研究のデータから明らかになっていますので、やはり過度な飲酒習慣は改善すべきです。
翌日に残さないアルコール摂取の適量の目安
表5-2に、翌日に残さないアルコール摂取の目安を示しますので、あわせて参考にしてください。
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本連載では、スポーツ科学の第一人者が、「健康長寿の秘訣」をエビデンスに基づいてお伝えしていく。