トランプが進める世界革命
「トランプ氏の関税政策で、米国メーカーが国内生産で使う輸入部品にも広く関税が課せられることになれば、米国民にとっても打撃になります。ただ、米国メーカーが国内生産で使う輸入部品については、今後、関税を免除するなどの特例措置を追加で講じるのではないかと思います。
そうなると、もはや自由貿易ではなく、完全な保護貿易ですから、従来のグローバルな自由経済モデルが大きく転換することになる。すでに経済への悪影響を懸念した試算も各方面から出されていますが、今後の世界経済に与える影響は甚大だと思います」
こう話すのはソニーの元幹部で、グーグル日本法人社長も務めた辻野晃一郎氏だ。
トランプ大統領が発動させようとしている相互関税が世界経済を大混乱に陥らせている。同盟国である日本にも、9日から24%の関税を課すと発表したが、突如90日間の停止を発表。追加関税をめぐって両国は協議を続けている。
仮にトランプ大統領の考えどおりに今後、相互関税が発動されたら、代わりに日本政府は米国の巨大IT企業GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック=メタ、アップル、マイクロソフト)への課税強化を検討すべきだと、辻野氏は指摘する。
「今回、2期目のトランプ氏が進めようとしているのは、まさに世界革命です。従来の米国政治とはまったく異なる内政や外交を行って、世界秩序を塗り替えるような壮大な話であり、従来のグローバリズムの否定でもあります。
米国が貿易赤字を理由に、追加関税や相互関税を課すというのなら、日本が海外のIT大手のサービスに支払っている『デジタル赤字』は昨年で6.7兆円にまで膨らんでいて、その大半は対米赤字です。この機会に、日本国内でも租税回避を続けているGAFAMなどへの課税強化を進めるような措置くらいは検討すべきではないでしょうか」
いくら納税しているのかがわからない
私たちの身近な暮らしを侵食してきたGAFAMのサービスの数々。グーグルで検索し、アマゾンで買い物し、フェイスブックで知人の近況を知り、アイフォンを使用し、ウィンドウズ搭載のパソコンを使う。GAFAMのサービスがなければ、日々の生活は立ち行かない。問題は、彼らが日本にいったいいくら税金を納めているのかが、ほとんどわからないことだ。
元国税庁国際課税分析官で、東京財団主任研究員の岡直樹氏が解説する。
「トランプ関税とは別次元の話として、デジタル企業への課税問題は以前から議論されてきました。たとえば、トヨタは物理的な工場や販売店のある米国で課税されますが、国境を越えてオンラインで事業展開するデジタル企業は市場国での課税が困難になります。GAFAMの日本法人の財務情報は非公開なので、彼らがどれだけ納税しているかのデータは直接取れません。
もちろん、日本で儲けた分の税金は支払っているはずです。しかし、移転価格の問題があります。GAFAMの子会社が日本にありますが、無形資産の部分は米国やそのグループ企業で開発したと主張して、利益を海外に飛ばすことができてしまう。結果として現地での課税を小さくできてしまうのです」
「週刊現代」2025年4月28日号より