SNSを中心に反響を呼んだ『子どもをネットにさらすのは罪ですか?』(KADOKAWA)は、漫画家・まきりえこさんが自身の体験を交えつつ、動画配信によって歪んだ親子の関係性を描くセミフィクションだ。

本作の主人公は、パートで働きつつ、不仲の夫と別れることを夢見る主婦・山田あずさ。窮屈な日常から抜けだすため「デイチューブ」で動画配信を始めるが、娘・ふうかが視聴者からの人気を得たことで、少しずつ歯車が狂っていく。その衝撃的な内容は、ネットを中心に話題を呼んだ。
読者の中にも、軽い気持ちや思い出の記録の気持ちで子供の写真やエピソードをネットに投稿したことがある人も多いだろう。だが、それにまつわるトラブルや注意としてどんなことに気をつけねばならないのだろうか。
作者・まきりえこさんは、かつて子供が小さい頃に、育児にまつわる4コマ漫画をブログ上で発信していた。書籍化を果たすほど好評を得たが、本作をまとめるにあたり「その時のことが、ブーメランのように自身に返ってきて辛かった」と語る。
「その時々では気を付けていたつもりですが、過去の発信はやはり脇が甘い部分がありました。そのことで子供にデジタルタトゥーを背負わせたかもしれず、申し訳ない思いです。
本作で、主人公は『誰も見ていない過疎コンテンツ』と自分の配信を評していますが、意外と世間には見られているものです。身近な人との小競り合いをつぶやく憂さ晴らしの的な発信は、 回り回って本人に届くと思っておいた方がいいです」
さらに、自分で気をつけられることの他に、SNS側のガイドラインの変更などで思わぬハプニングにつながることもあるという。
視聴者の反応が良いという「落とし穴」
「デイチューバー」として活動し始めたあずさだが、娘のふうかを積極的に出すようになってからというものの、チャンネルの登録者数は右肩上がりに。最初はスライド写真から始めた動画投稿だったが、より登録者を増やそうと動画編集にも挑戦するようになる。

「知っている人に見つかるわけない」
ある夜、あずさは順調に伸びていく登録者数を見て、全体の約15%しかたどり着くことができない「登録者数1000人」のラインを達成し、自身のチャンネルを収益化できるのはないかと淡い夢を抱くようになる。だがその一方で、身元がバレる危険性についても思い悩む。


「最近ふうかを出しすぎかもしれない」とは感じていたものの、「何十万再生とかのインフルエンサーじゃない」「たまたま知っている人に見つかるわけない」と、思い直す。だが、そのことが不幸の始まりだった。
作者のまきりえこさんは、近年ネットで散見される、あるリスクについても指摘する。
「またSNSの運営側は勝手にルールを変えるので、『おすすめ』として明日にも隣人のスマホにあなたの発信が届くかも知れません。
実は息子の友だちに私の発信が届いた事件があり、ペットの画像から『ん? これお前の家のペットでは』と私のSNSが読まれそうになりました。スクロールすると古い記事で子どものことも書いていたので、平謝りをするしかありませんでした」
十分注意をしている矢先のハプニングなら、事態に気づいた時の焦りようは想像にかたくない。
また次に気になることとして、お子さんとどんな関係を築いているのか、意識していることなどについては以下のようにコメントしてくれた。
「SNS活動についてはあまり良好でもなく、小競り合いはありつつ当面お許しいただいているという感じですね。子供に本気で嫌と言われたら仕事にどんな影響が出ようとSNSでの発信はやめなければいけないかなと思ってきました。
作品中で、主人公は『子供に嫌と言われたら発信をやめる』と言いつつ『言わせない』方向へ子供をコントロールしてしまっています。そういう『無言のコントロール』が一番子供を傷つけるのではと思います。SNSをやるというのは私達発信者のエゴなので、子供のシグナルをきちんと受け止めなければとは思っています」
「あくまで子供は別の人格」というまきさんの言葉が腑に落ちた。節度や距離感と、絶対の安全性を意識して、迷惑をかけぬやらせてらもらう、くらいの意識を持つべきなのかもしれない。