現代社会で実感した「がんの情報」の入手の難しさ
がんとの出会いは足の付け根のしこりでした。ある日、急にしこりが卵のSSサイズくらいに腫れ、近所の総合病院で抗生剤を処方されたら治まったのですが、しこりを病理に出したら「転移がん」が見つかったのです。
症状も自覚もなし、抗生剤で晴れが引いたので、あとはしこりの切除だと思っていたのに、まさかの展開。形成外科の診察室の隣の処置室でほんのちょっと取った肉片にがんがあるとは思わず、形成外科でがんの宣告というのも想定外。そこから原発で疑わしいのが婦人科ということで婦人科を受診し、さらに大学病院を紹介してもらい、がん患者としての旅が始まりました。
普段は何でもネット検索で済むはずが、こと「がん」に関してはネガティブ情報か、民間療法か、有名人のヘアレス(脱毛)写真ばかりで、記者の私でも自分が必要な情報に辿りつかない。ネットでいくらでも情報が集められる時代なのに、がんについての情報入手がこれほど難しいとは思いもよりませんでした。
そして、抗がん剤から髪を守る方法があるなんて知る術もなく、知ったのは投与の前日。それまでは脱毛も副作用も甘んじて受けようと覚悟していました。
がんの疑いの診断から、CT、MRIと外部専門クリニックでの検査と、2、3週間の間にドクターと病院を決めたのは自分でもかなりスピーディだったと思います。もちろん仕事も休まずです。
その後、さらなる検査と腹腔鏡による検査手術で卵管がんと確定、2回目の手術で心配な部分は全て摘出。ひとり身の私は感傷に浸る間もなく、ただただがん治療のタスクをこなすのみでした。
次のステップは3週間に1度、計6回の抗がん剤投与。抗がん剤に関する冊子をもらい、脱毛することも医師から説明を受け、
「今まで自分勝手に生きてきたのが悪かったのか、前世の行いが悪かったのか、バチがあたったか。まぁ生きてるだけマシ」
と自分をなぐさめるしかありませんでした。
抗がん剤でも「髪の抜けない方法」がある⁉
検索ワードに「抗がん剤」「脱毛」と入れれば、脱毛後のウィッグを買わせるサイトか、医療機関の「髪はほぼ抜けます、でも生えます。だから“あきらめましょう”」的な文章ばかり。
抗がん剤で脱毛した女性有名人の写真のインパクトは大きくて、有名人にとってはSNSの閲覧数は爆発的にのびるし、応援の声も届くのかもしれませんが、これから脱毛する身にとっては恐怖と不安を煽られるばかり。
それでも、先の2回の手術で入院した際に仲良くなった先輩がん患者のみなさんが勇気づけてくれていたのが幸いしました。
初めての抗がん剤投与で、前日入院し、前回お友達になった先輩のベッドにあいさつに行きました。すると彼女が、
「抗がん剤で髪が抜けない方法もあるのよ。髪が抜けるのを防ぐ『頭皮冷却装置』っていうのがあってね……50%くらいの髪が残るって言われているの。J医大、T病院では導入されてて、10万円くらいかかるんだけどね。残念ながらこの病院にはないのよ」
えー! 知らんかったーーー!!!
髪が抜けない可能性もあるなんて。10万円でも、病院内で見たウィッグよりは安いし、脱毛しないならそっちを選ぶのに(涙)
「じゃ、頭冷やせばいいんですか? とりあえずコンビニで買えるものでやってみようと思います」
「病気は情報よ」後で分かったママの言葉の意味
「そうね。やってみて損はないわ!」
翌朝、朝食前にコンビニを回り、抗がん剤の点滴の間、ロックアイスと保冷剤を三角巾で頭に巻き、やっつけで頭を冷やしました。
先輩の情報のおかげで、私の髪は「薄毛のオラウータン」にはなったけど、なんとか残りました(写真) おかげで帽子さえかぶればなんとかなり、爆速で薄毛を卒業するという幸運に恵まれました。
がんという病気は、がん自体に痛みはありません。手術、抗がん剤の副作用も、ウィッグも、みな初めての体験で、こんなにメジャーな病気なのに思った以上に情報が少ないから精神的な動揺も大きい。体験記も元気になった話より、ネガティブな体験が多すぎる……。銀座のママが「病気は情報よ」と言っていた意味がよくわかりました。
その後も、ン十万円もするウィッグなんてなくても大丈夫だということ、髪が抜けることは人間の尊厳に関わるくらいつらいことだと気づき、がんにそこまでファイティングポーズをとって真っ向から対峙しなくてもいいんじゃないかという思いに至ったのです。