首をかしげる業界関係者
高いレバレッジや追証のない仕組みで、日本人から人気を集めていた海外FX取引所「GEMFOREX(ゲムフォレックス)」。
彼らは、ボクシング史上初の8階級制覇王者として名を馳せたマニーパッキャオ氏や元サッカー選手でイングランド代表のデビッド・ベッカム氏をブランドアンバサダーに起用し、安全性をしきりにアピールしていた。
しかし、2022年末、ユーザーから預かっていた証拠金の出金遅延が発生。2023年5月末にサービスを突然停止すると、出金対応が進んでいないにもかかわらず、同年8月にGalaxy DAO(ギャラクシーダオ)という“正体不明の組織”に事業を譲渡した。
被害者のひとりである北山信久さん(仮名・54)がうなだれる。
「いまだに出金できない元ユーザーは全国で1000人以上いて、被害者コミュニティまでできている状況です。未出金の証拠金は50億円以上とも言われています。返す気配をいっこうに見せない不誠実な態度に、多くの被害者が憤っている。
警察に被害届を出す元ユーザーもいるのですが、この手の事件は扱いたくないのか、なかなか受理してもらえないようです」
前編記事〈「私が儲けた2億円、早く返してください…!」《悪質FX業者の50億円トラブル》全国の被害者たちが過ごす「絶望の日々」〉では、元ユーザーの被害状況や問題が起こった経緯を詳報している。
2022年12月から発生している出金遅延について、GEMFOREXがようやくアナウンスしたのは2023年1月31日のこと。ユーザーには、「第三者名義貸しや当社口座転売、利用規約違反が急増している状況をリクイディティプロバイダーから指摘されて出金が遅れている」と当初説明していたという。
しかし、さる金融関係者は首をかしげる。
「リクイディティプロバイダーというのはFX事業者が必ず契約する金融機関で、FXサービス内で表示される為替レートの配信元です。配信先のユーザーがどのようなトレードをしているかについて関与することはまずありません。そのため出金遅延の原因にはなり得ない」
「最後まで不可解だった」
その後、GEMFOREXは5月15日に最終的な遅延理由を公表する。
前述のリクイディティプロバイダーからの指摘に加えて、決済代行会社Aによる3587万9651ドル(約50億円)が盗難に遭ったこと、決済代行会社Bによる約10億円の未払いが発生したことが騒動の引き金になったというのだ。
「そのような盗難や未払いが発生したかどうかもそもそも怪しい。ただ、決済代行会社の利用にリスクがあるのは間違いありません。無登録の海外FX事業者は日本に銀行口座を開けないため、ユーザーとの間に入ってお金のやり取りを行う決済代行会社を必ず利用します。
彼らはほぼ同じ機能を持つ資金移動業者とは異なり、金融庁の厳格なルールが適応されない。ユーザーのお金に万が一の事態が起きた際の保証金を用意していないので、信用力は格段に劣ります」(前出の金融関係者)
1570万円がいまだ出金できずにいる柿澤久さん(仮名・47)は、「GEMFOREXの言動は最後まで不可解だった」と憤る。
「GEMFOREXは、2023年5月31日に突然サービスの停止を発表しました。ただ、その直前、入金した証拠金が2倍に増えるボーナスキャンペーンを新規ユーザー向けに実施しています。
普通だったら出金遅延が発生している状況でそんなことやらないじゃないですか。直前までお金を集め続け、最後にはトンヅラする。私たち被害者からしたら詐欺まがいの行為にしか見えません」
ただ、GEMFOREXの驚きの対応はまだ続く。2023年8月1日、Galaxy DAO(ギャラクシーダオ)という組織にGEMFOREXの事業を譲渡したのだ。
ユーザーたちの資金がゴミ通貨に…
同組織が作成した英文の資料には、「Galaxy DAOは、繁栄、経済的な豊かさ、物質的な豊かさ、精神的な幸福という原則に基づいて設立された新しい組織です」と書かれている。
「Galaxy DAOってなんだよって話ですよ。そもそも説明は全て英語ですし、翻訳してみてもそれっぽい抽象的な言葉が大量に並んでいるだけ。仮想通貨とFXの取引ができる『Trade Planets』という取引所をまず作ると言っていますが、現時点で一切形になっていません。なにをやろうとしている組織なのかまるでわからないんです。
彼らへの問い合わせはDiscordというチャットツールを使うしかありません。やり取りはすべて英語で、問い合わせをしてもほとんど返ってこない。しかも、電話番号やメール、組織の所在地を尋ねただけでアカウントをBANされ、2度と問い合わせができなくなります」(柿澤さん)
では、肝心の証拠金の出金問題はどうなっているのか。
Galaxy DAOはGEMFOREXユーザーの債務を引き継いでおり、補償の仕組み自体はあるという。ただ、ここでも不満は爆発している。
「私たちはすぐにでも現金で返してほしい。それなのに、未出金の分は『Gボンド』という独自発行のトークンで返済すると言っているんです。このGボンドを現金化するには、まず自分の債権を放棄した上で、別の仮想通貨と交換しなければなりません。
でもこの仮想通貨にはほとんど価値がない。要するに、ゴミです。私たちの証拠金を返す気なんてさらさらないんでしょう」(柿澤さん)
GEMFOREXの元ユーザーが補償対応に不満を抱いていることについてGalaxy DAOに問い合わせたが、期日までに回答はなかった。
しかし、このGEMFOREXの問題はこれで終わらない。
関係者が口にする「A氏」
そもそもGEMFOREXは海外法人が運営するFX取引所ということになっていた。代表者として登録されていたのも外国籍の人物だ。しかし、ある業界関係者は首をかしげる。
「確かに、登記上は海外法人がGEMFOREXを運営していましたが、実質的な経営者は日本人のA氏という認識でした。おそらく出金遅延トラブル発生時も裏で指揮を取っていたのはA氏ではないでしょうか」
GEMFOREXとA氏の関係をつぶさに調査してきた被害者のひとり、三上隆宏さん(仮名・52)が補足する。
「私もA氏と面識のある業界関係者に話を聞いていますが、やはりGEMFOREXの運営会社トップはA氏という認識だったそうです。実際、GEMFOREXの運営会社の代表だった外国人B氏は、かつてA氏が代表を務める別会社で部下として働いていました。そうした関係性を示す当時の写真も確認しています。
そもそもGEMFOREXを立ち上げたのは、2010年にFX自動売買ソフトの無料提供サービスを始めたPという会社。このP社のサイトには酷似した社名が記載された資料が掲載されており、A氏の名前が代表取締役として明記されていました」
P社が設立されてまもなくの頃、A氏と一緒に仕事をしたことがある別の業界関係者も認識は同様だ。
「当時A氏はP社の代表を名乗っていた。『会社を始めたばかりで名刺はない』とのことでしたが、その後A氏が送ってきたセミナーの案内資料には名前と共に『代表』の文字が記載されていました」
資金はいつ戻ってくるのか
さらに三上さんの調査によれば、A氏は2020年1月、GEMFOREXの運営元とほぼ同じ名前の法人を香港で設立。しかし、2023年11月下旬に登録抹消の届出を提出している(会社は2024年4月に解散)。
「A氏はGEMFOREXの出金遅延が明るみになった後にSNSのアカウントも削除しています。それにGalaxy DAOへの問い合わせメッセージにA氏の名前が含まれていると送れない仕様になっている。被害者の大半は、A氏がGEMFOREXと深い関わりがあったのではないかと考えています」(三上さん)
業界関係者や被害者のあいだでGEMFOREXの中心人物として名前が挙がっていることについて、A氏の代理人に質問状を送ったが、期限までに回答はなかった。
GEMFOREXのユーザーだった被害者たちは、現在も多額の資金を出金できずに苦しんでいる。泣き寝入りするまいと彼らは各地の警察署で被害届を出しているというが、いまなお事件化には至っていない。
果たして被害者にお金が戻る日は訪れるのか。