英国でアマゾンランキング1位、日本版も即重版。画期的なダイエット本、それが 『英国の専門医が教える 減量の方程式』 (ダイヤモンド社)だ。
実は英国では、糖尿病がここ20年で470万人に倍増。3人に2人は太り過ぎ、という深刻な状況になっているのだ。もはや、美容のためだけにダイエットをしている場合ではない。
著者は、英国の理工系大学インペリアル・カレッジ・ロンドン(2025年の「QS世界大学ランキング」で2位にランクされている世界屈指の名門校)の減量専門医。英国を代表する減量クリニック「インペリアル・ウェイト・センター」で実践され、<平均16kg減>という驚くべき効果を上げた減量プログラム「フル・ダイエット」が本書の元になっている。
「満足感が得にくい食事制限ダイエットとは異なり、フル・ダイエットでは、身体が空腹と満腹を感じるメカニズムをうまく利用して、空腹感に悩まされることなく 目標とする減量を達成できるようになっています。本書の後半に記載したレシピを見れば、本プログラムではしっかりと食事をしながら痩せられることがよくわかるはずです。プログラムの食事は美味しいだけでなく、満腹感も得られるので、充分に満足したうえで、無理なく食べる量を減らせます。意志の力は必要ありません。これが、科学の力なのです」と著者。
本書から、3回に分けて、このダイエット法のポイントをお伝えする。
第1回は、「空腹感」と「満腹感」の関係について
*以下、本書からの抜粋。
カロリー計算ダイエットがうまくいかない理由
従来の減量法の多くは、摂取カロリーを減らすことを重視しています。これらは、摂取カロリーが消費カロリーより少なければ痩せられる、という考えに基づいた、「カロリー・イン/カロリー・アウト」として知られるタイプの減量法です。
しかし、この考え方には欠陥があります。なぜならそこには、人間の身体は自動車のエンジンや薪ストーブと同じ程度の単純な仕組みで動いているものだという前提があるからです。これは間違いです。車やストーブとは違い、身体は燃料が足りないと、生命を維持するためにホルモンを分泌して、その状況に必死に対処しようとするからです。
人類の何十万年にも及ぶ進化の中で、身体は食料不足など自らの生存を脅かすものへの対処策を生まれつき備えるように発達してきました。身体は、あなたがカロリー制限をしていることを知りません。身体にわかるのは、体内に食べ物が入ってこないことだけです。そして、このエネルギー不足を、自らの生存を脅かす事態と見なします。
周りの環境に食料がなく、飢饉の前兆かもしれないと判断するのです。その結果、身体は「飢餓反応」と呼ばれるホルモン反応の連鎖を引き起こします。これは太古の昔から人体に備わっている、食物が手に入らなくても(少なくともすぐには)死なないように、長い時間、生命を維持するための反応です。
カロリーを制限して半飢餓状態になると、胃は空腹ホルモンのグレリンを分泌して、 脳に「お腹が空いたから、食べ物を探して」というメッセージを送ります。このメッセージは、私たちが何かを食べてお腹を満たすまで繰り返し送信されます。空腹になると、人は物事に集中できなくなります。日中はイライラして、夜は寝つきにくくなります。
低カロリー食を続けていると、胃を締めつけるような強い空腹感や、集中力の低下、苛立ち、睡眠の乱れなどを頻繁に感じるようになり、日常生活が不快になります。食べる量が少ないと、食後に腸から脳に送られる満腹感のメッセージも弱くなるため、満足感が得にくく、さらに不快さが増します。
短期間であれば、何とか我慢を続けられるかもしれません。不快な空腹ホルモンの信 号や食後の物足りなさを、しばらくのあいだ、意志の力でなんとか乗り越えることは可能でしょう。しかし、これらの不快なメッセージをいつまでも無視し続けることはできません。その結果、ダイエットは失敗してしまうのです。これは意志の弱さの問題ではありません。低カロリー食という「生存の脅威」から身体があなたを守ろうとしている、身体の正常な働きによるものなのです。
低カロリー食は代謝を低下させる
強い空腹信号と「満腹感が得られない」というメッセージによって、低カロリー食の長期的な継続は極めて難しくなります。しかし、カロリー制限ダイエットが失敗する運命にある理由は他にもあります。それは摂取カロリーが減ると、ホルモンの変化によって代謝が低下することです。
代謝とは、「身体が燃料を消費する程度」を表しています。これは、暖房の温度調節機のようなものです。私たちは、燃費が上がってもいいから温かくしたいときは、暖房の温度を上げます。逆に燃料が不足しているときや燃料を節約したいときは温度を下げます。
低カロリーの食事をしていると、入ってくる燃料が少なくなります。そのため、身体は貴重な燃料(少量の食事)を効率的に使うために、暖房の温度(代謝)を下げようとします。代謝が落ちると消費カロリーが減るため、痩せにくくなります。その結果、体重を減らすには、食べる量をさらに減らし続けていかなければならなくなります。
代謝が低下すると、様々なデメリットが生じます。代謝はその過程で熱を産生するので、低カロリーの食事をして代謝が落ちると寒さを感じやすくなります。また、代謝が落ちると疲れやすくなり、エネルギー不足に悩まされるようになります。
野生動物は、半飢餓状態に陥ると、エネルギーを節約するために動かずにじっとする ようになります。楽しみのために平原を走り回ったり、健康維持のために木のてっぺんを飛び越えたりはしません。そんなことをすれば、貴重なエネルギーが無駄になるからです。
同じく、カロリー制限中の身体は、貴重な燃料を無駄にしないように、私たちをじっとさせようとします。そのためジムに行ったり、散歩したりする意欲がなくなります。
これで、低カロリー食がどのように私たちの身体に飢餓反応を引き起こし、代謝を低下させるかを理解できたのではないでしょうか。もう、過去にカロリー制限ダイエットに失敗したことで自分を責める必要はありません。
低カロリーダイエットは、身体の生理的な反応との絶え間ない戦いです。そして意志力は、何十万年もかけて人類が進化させてきた身体の仕組みには、決して勝てないのです。
空腹感と満腹感の伝達システムの仕組みを科学的に理解したところで、これらのホルモンの力を活用して満腹感を味わい、体重を減らす方法を見ていきましょう。
満腹感を覚えるまで、20分間待つ
満腹ホルモンのメッセージを、腸から脳へのテキストメッセージにたと えてきました。しかし、この2つには重要な違いがあります。メールなどのテキストメッセージは、 送信したら瞬時に受信者に届きます。しかし食後に腸が出した満腹ホルモンのメッセージを、脳が「もう充分食べたから、これ以上食べなくてもいいよ」という情報として受け取るまでには、約20分間かかるのです。
賢いレストランはこの仕組みを知っていて、客がメインコースを食べ終わったらすぐに、デザートメニューをすすめてきます。客は思わず、プリンを注文してしまうという わけです。一方、サービスが遅いレストランでは、客がメインを食べ終わって20分以上経ってから、ようやく「他に何か召し上がりますか?」と尋ねてきたりします。満腹感を味わっている客は、「結構です」と断るのではないでしょうか。こうして、店はチャンスを逃してしまうというわけです。
食べ過ぎないためには、食べ終えてから20分間、ひとまず時間を空けてみてもいいでしょう。このあいだに、満腹信号が腸から脳へと伝わるからです。スマートフォンのタイマーで時間を計り、20分経ってもまだ満腹感が強くなければ、そのまま食べ続けます。満腹信号が「もう充分だ」と言っているなら、そこで食事を終わりにしましょう。
「まだ満腹感はあるかな?」と自問する
「自分が満腹かどうかは、どうやって判断すればいいの?」と感じる人もいるかもしれません。充分に食べたかどうかは、気持ちが悪くなるまで胃袋に食べ物を詰め込まなくても判断できます。
そんなときに役立つのが、フランス人と同じ満腹チェックの方法を使うことです。フランス料理はその美味しさで世界的に有名ですが、フランス人は英国人と同じような体重の問題は抱えていません。フランス語では、お腹が空いているときに、文字通りに直訳すると「私は空腹を持っています」という意味の「J’ai faim」(ジェファン)と言います。食べるのをやめるときは、「私は空腹を持っていません」という意味の、「Je’n ai pas faim」(ジュネパファン)と言います。
これは、充分に食べたかどうかを判断するためのとても良いアプローチです。食事中に頻繁に手を止め、「食べ始めにあった空腹感は、今でもあるだろうか?」と自問してみましょう。空腹感がなくなっていたら、その時点で食べるのをやめるのです。この方法に従うことで、お腹が空いているときに食べ、空腹感がなくなったら食べるのをやめることを習慣にしやすくなります。
第2回「睡眠不足が引き起こす、食欲増進の無限ループ。英国の減量専門医が指摘する科学的根拠」は、4月17日公開予定です。