指名挑戦者を待機させて、統一戦が決定
プロボクシングファン待望だった、日本人チャンピオン同士の級統一戦が実現する。
WBC王者の中谷潤人(MT)とIBF王者の西田凌佑(六島)の対戦が、両者の合意で決まったとわかった。今回の統一戦は両王者の激突にとどまらず、その先の展開も見えてきたものだ。
まず、統一戦の実施が判明したのは、西田に対する指名挑戦者、3位・ホセ・サラス・レイジェス(メキシコ)の陣営からだ。本来受けなければならない挑戦に対して、「挑戦の待機」になっていたことを認めた。関係者に取材したところ「西田が中谷と統一戦を行うため、レイジェスは挑戦を待つことになった」という。
プロボクシングでは、タイトル保持のために弱い相手と戦うのを防ぐため、チャンピオンが一定期間内に上位ランカーと対戦する「指名試合」の義務がある。
西田は昨年5月の王座獲得後、12月に初防衛戦に勝っているが、これは下位ランカーとの自主「選択試合」(王者側には挑戦者の選択権があることからこう呼ばれる)だった。本来、西田は次戦で指名挑戦者レイジェスとの対戦が義務付けられていた。しかし、ボクシング界には「特例」が存在し、今回はそれに当てはまる。
その特例というのは、チャンピオンが他団体の王者との統一戦を優先する場合、王者側が挑戦者に「待機」を依頼し、交渉によって認められることがあるのだ。
その際、一定の「待機料」が支払われるケースもある。過去に日本では、井岡一翔がライトフライ級時代にローマン・ゴンサレスとの対戦を回避したことがあった。回避を王座団体が認めた場合、指名戦は期限が延期される。
一方、中谷は昨年10月、ランキング1位選手から挑戦を受け、指名試合を行い勝利しており、指名戦の義務をすでに果たしている。
中谷と西田の戦歴
そんな状況で、中谷と西田は今年2月、中谷が6位・ダビド・クエジャルをKOしたリング上で対面。中谷が「西田選手、やりましょう」と言うと、西田が「自分はずっと中谷選手とやりたいと思ってたんで、ぜひお願いします」と返した。
この場面を作っていた時点で、主催者の帝拳プロモーションは統一戦計画に動き、唯一のネックであった「西田の指名戦」を延期してもらうよう交渉を始めていたと見られる。
これができないと、王座団体(この場合、IBF)から指名戦を行なうよう指示が出てしまうため、先手を打った帝拳は優秀なプロモーターと言える。
また、挑戦が待たされるレイジェスにとっても悪い話ではない。待機料がどれだけあったかは定かではないが、挑戦相手が西田ではなく、「中谷×西田の勝者」になれば、IBFとWBCの2冠王座獲得のチャンスになるからだ。
いずれにせよ、日本人王者が4人揃う激戦の級で、最初の統一戦として中谷と西田の対戦が決まったのは衝撃の大きい話だ。
中谷はこの階級で最強と見なされている世界的スターで、30勝(23KO)、27歳のサウスポーだ。’20年、1位・ジーメル・マグラモとのWBOフライ級決定戦でKO勝ち。2度の防衛後、’23年にWBOスーパーフライ級決定戦で2位・アンドリュー・モロニーをKO。1度防衛した後、昨年にWBC級王者・アレハンドロ・サンティアゴを6回TKOで下し3階級制覇を果たした。
防衛3試合はすべて前半の6回以内にKO。遠近自在のポジショニングから多彩な攻撃を武器とする万能型でポスト井上尚弥と目されている日本人ボクサーだ。
対する西田は10勝(2KO)、28歳のサウスポー。アマ国体優勝経験があり、プロでは3戦目で元日本王者・大森将平、4戦目で元WBC世界フライ級王者・比嘉大吾に勝った。WBOアジア王座3度防衛後の’23年、6位・クリスチャン・メディナとの挑戦者決定戦に勝利。昨年、井上尚弥と戦ったことのあるIBF王者・エマヌエル・ロドリゲスから王座奪取。12月には、14位・アヌチャイ・ドーンスアをKOして初防衛。ディフェンスの高いスタイルでKO率は低いが、相手の有効打を許さない技巧派である。
バンタム級戦国時代の幕開け
この両者の対戦時期は、6月の開催が濃厚というのが水面下で入手した最新情報だが、前座には同じ級のWBA王者・堤聖也(角海老宝石)や、WBC1位の那須川天心(帝拳)が出場するプランもある。正式に決まれば統一戦の後、さらに次の統一戦の火種が生まれる展開が期待できる。
日本人選手4人が各団体の王者に君臨する今、ファンからは早く統一戦をしてほしいという声が大きかった。
中谷と西田の試合後、統一王者が決まったリング上に、堤、もしくは那須川が上がれば、次のビッグマッチがそこで示される可能性があり、さらなる盛り上がりを見せるだろう。
もうひとりWBO王者の武居由樹(大橋)は5月28日に防衛戦を予定しているが、勝利していれば当然、会場に現れるだろうし、リングインすることがあれば、こちらも3団体統一戦が約束される。
いよいよ動き出した級戦国時代の「最強決定トーナメント」。ここに有力な外国人選手や、世界ランカーの井上拓真(大橋)、増田陸(帝拳)、比嘉大吾(志成)も追っており、目の離せない展開が続きそうだ。アクシデントでもない限り、「中谷×西田」の公式発表は近い。