伊勢丹新宿店本館・メンズ館では、国内外のメーカーやブランドから提供された残反やリサイクル素材をアップサイクルしたプロダクトを展開する「ピースdeミライ」を実施(4月22日まで)。「新しいファッションを発信したい、ファッションの高揚感を届けたい」という想いを未来へ紡ぐため、ファッション業界が抱える社会課題を業界全体で取り組み、推進を目指す。
今年で3度目を迎えるプロジェクト始動に先立ち、文化服装学院では、2年ぶりの来日となった「STELLA McCARTNEY(ステラ・マッカートニー)」クリエイティブ ディレクターのステラ・マッカートニー⽒、環境⼤⾂の浅尾慶⼀郎⽒、伊勢丹新宿本店⻑の近藤詔太⽒らをゲストに迎え、トークショー「三越伊勢丹ミライアワード 〜ファッションの未来を彩る〜」を開催。「ピースdeミライ」アワードにノミネートされた服飾学校に通う学⽣たちを中心に、一般客を含む約 400 名が集まり、ゲストの一言一句に熱心に耳を傾けた。
このまま消費し続けると、資源が底をついてしまう
「若い頃はファッションが好きでよく服を買っていた」と語る浅尾環境大臣は、司会のハリー杉山氏から最初の質問、「ファッションとサステナビリティ」について考えを問われると、「今ある地球は、未来からの借りものだと仮定すれば、次から次へと洋服を消費するだけだと、将来使える資源がなくなってしまう。いま手もとにある資源をなにか違うカタチに変え未来へ残していくことが大事ではないか」と、コメント。
また、「ファッションの次世代育成」については、「ワクワクしながら作ったものを買った人がまたワクワクする。その“ワクワク”の連鎖こそがファッションの原点。例えば、古着を組み合わせて新しいものをつくるなど、今ある資材で世界にたった1つしかないオンリーワンの製品を生み出すことができれば、つくり手、つかい手、どちらも楽しむことができる。その循環を知ることが次世代の育成に必要では」と、続けた。
会場に飾られた、「ピースdeミライ」にノミネートされた服飾学生らが手がけた作品を眺めながら、「やはりファッションは見ているだけでも心が躍りますね」と語るハリー氏の言葉に対し、近藤伊勢丹新宿本店⻑は、「来店くださったお客さまはもちろん、社内でも、楽しい、素敵、きれい、うれしいなどといったポジティブな言葉が飛び交う環境をつくっていきたい。そもそも日本は伝統的なものづくりを大切にする背景があることから、サステナブルな精神が根づいている。改めてそこに焦点をあてることで、今後さらにいい方向へと向かっていけるのではないか。日本のユニークさは世界に通用するもの、海外の方々にももっと日本のものづくりの魅力を知ってもらいたい」と、語った。
課題をポジティブに転換する先駆者
浅尾環境大臣と近藤伊勢丹新宿本店⻑のクロストークにより会場が温まったところで、待望のステラ・マッカートニー氏が登場。ステラ・マッカートニー氏は、自身のブランド「ステラ・マッカートニー」を立ち上げた2001年から今も変わらず、動物由来の素材を用いることなく、サステナブルなファッションがクールかつセクシーであること証明し、その在り方を貫いてきた。
「私たちは、地球に住む一人の人間として、この母なる大地を守っていかなければいけない。私は2001年にブランドを立ち上げたその日から、地球に対して愛を持ち、敬意を表し、そして自然に対しハーモニーを築いていくことを考えながら、ブランドを育んできました。今日身につけているものすべて動物由来の材料を使っていません。もちろん靴をつくるときに使う接着剤にもです。
材質を作る上でイノベーションはとても重要。例えばグレープやリンゴの皮など、技術のイノベーションを活用しながら、動物の命を奪わずに、セクシーかつスタイリッシュなクリエイションを行っています」
2025 SSコレクションでは、作家で野鳥観察家のジョナサン・フランゼンの著書「地球の果ての果て(The End of the End of the Earth)」にインスパイアされたというステラ・マッカートニー氏。「ピースdeミライ」にノミネートされた、デニムの端材を用いた作品をみて、こう語った。
「花や鳥、海などのモチーフが多くみられたので、てっきり自然をテーマにされたのだと思ったら、デニムだったのですね。けれど作り手のみなさんの頭に自然のモチーフが浮かんだのは、おそらく東京という都会に自然が少ないからかもしれません。私はいつも、空を飛ぶ鳥が地球を見おろしているように、日々の暮らしの中でほんの少し視点を変え、そのうえで自分が愛するものをつくっています」
そんなステラ・マッカートニー氏のクリエイションについて、近藤伊勢丹新宿本店⻑は、「課題を解決するには、なにか他のものでカバーしなくてはいけないと考えがちだが、ステラ・マッカートニー氏のポジティブで心躍るクリエイションをみていると、決してそういうことではないと思わされる。まさに課題をポジティブに転換する先駆者」と語り、浅尾環境大臣は、「ステラ・マッカートニーさんのように、海洋プラスチックゴミをアップサイクルするという感性を、未来のデザイナーであるみなさんにも身につけていただけたら。そうすれば、つくり手も、それを買うつかい手も、肩ひじ張らずにサステナブルなファッションを楽しめるのでは」と、続けた。
ファッション業界のみならず、社会へポジティブなインパクトを与え続けるなか、もっとも課題に感じているのは、インセンティブのこと。「ステラ・マッカートニー」のレザー製品(動物由来ではない)を国外へ輸出する際には、30%のタックスがかかるという。ステラ・マッカートニー氏は、「社会に対し正しいアクションを起こしている企業にはインセンティブを、そうでない企業には、何かしらのペナルティを与えるべき」と、訴えた。
ものをつくれる特権には、責任が伴う
来場者から登壇者へ向けた質疑応答の時間では、服飾デザイナーを志す3人の学生たちの問いに、それぞれが親身にアドバイスを送った。
「テクノロジーの活躍により、ポジティブな進化を遂げるアパレル産業だが、環境破壊などの問題も解決していないまま。『つくる責任と夢』の間で日々思考する私たち学生に向けて一言いただきたい」という声に対し、近藤伊勢丹新宿本店⻑は、「課題は山積みだが、自分らしい選択をしていくこと。その選択という行為そのものがみなさんのクリエイションとなり、自分らしさを発揮していくことが個性につながっていくのでは」と、答えた。
続いて浅尾環境大臣は、「日本では、燃料消費が少ない自動車は税制上の優遇などがあるが、ファッション業界にはそのような規制がない。そのぶん自由ではあるが、環境に配慮したものの価格を魅力あるものにしていく政策的な誘導が必要ではないか」と、コメント。
「次世代の服飾デザイナーが、今後サステナブルなブランドを立ち上げる際にもっとも重要だと思うポイントは?」という質問に対し、ステラ・マッカートニー氏は、「まずできることは、地球に住む一人の人間として動物由来は使わないこと。その方がハッピーな気持ちになりますよね。私たち人間は完璧ではありませんから。何もやらないよりは、何かやってみることが重要」と、語った。
また、「今後ファッション業界を担っていく次世代に対し、どのような可能性をいただいているか」という問いには、「この業界は、競争が激しく、みんなが手を取り合って協力し合うことが難しい。私自身も毎日戦っている」と述べ、「ものをつくることができるのは特権であり、同時に責任が伴うもの。戦っているうちに、おのずと自分の考えに賛同してくれる人が現れる。理想を追い求め続けて」と、エールを送った。
そんなステラ・マッカートニー氏の言葉に対し、近藤伊勢丹新宿本店⻑は、「情報過多の時代、自分らしい選択することが自身の価値につながっていく。その結果、お客さまに長く愛されるサステナブルなブランドになっていくのでは」と、述べ、浅尾環境大臣は、「未来の人たちに喜んでもらえることを想像しながら、自身が持つ可能性を存分に発揮してほしい」と、語った。
最後に・・・イベントを終えた浅尾環境大臣からメッセージをいただいた。
「日本では、年間約50万トンの衣類が廃棄されています。私たち環境省でも、リサイクル・リユースに力を入れているのですが、中でもリユースの市場規模は約3兆円、2030年には4兆円に到達すると予測されています。そこからもう一段高めていきたいところですね。生活者のみなさんには、環境に配慮したものや古着などから、自分の好きなもの見つめる楽しみを知っていただけたら。いつの時代も、ファッションには、人をワクワクさせ、エンパワーメントする力があります。あくまでも楽しむ心を忘れないでいただきたいですね」
環境省は、2050年のカーボンニュートラルおよび2030年度削減目標の実現に向け、生活者の行動変容、ライフスタイルの変革を後押しする新しい国民運動「デコ活」に力を入れている。
つくり手である生産者は、人と地球に配慮したものづくりを追求し続けること。つかい手では、無数にある“もの”の中から、地球に負荷をかけないものを選び続けること。それぞれに課された責任を全うすることが、よりよい未来をつくる最短ルートではないだろうか。
取材・文/大森奈奈