「出産についての夫婦の意見の相違が、夫婦関係に亀裂を招くことも多くあります。片方だけが妊娠・出産を望んでいる事例をなんどか調査しました」
こう語るのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さん。彼女は、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。
山村さん連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにしていったのかも含め、さまざまな事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮をしながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。
今回ご紹介するのは、中小企業を経営する50歳の義孝さん(仮名)の事例だ。5年前に結婚した25歳年下の妻が一度流産したのち、一向に妊娠せず、かつお金をどんどん使っていることで浮気を確信して調査を依頼してきた。
子どもが欲しいから若い女性と結婚
義孝さんは大学卒業後、家業に入り、祖父の代から続く会社の経営再建に身を捧げてきました。赤字続きの製造業を立て直すために、20年かけ、42歳で会社を黒字化。それから義孝さんは、家庭を築くために婚活を始めたのです。経営にも参画してくれ、かつ子どもを産んでくれる女性を探していましたが、ともに経営に参画する能力がある女性に出会えませんでした。
そこで、義孝さんは「専業主婦になる若い女性と家庭を作る」と方針を切り替えます。その時に、夜の店で出会ったのが今の妻でした。当時20歳の妻の素直さ、会話の単純さに惹かれ、25歳の年の差婚をしたのです。妊娠できるかどうかのチェックもして入籍をしました。残念ながら一度流産してしまってからは、一度も妊娠しないことにイライラする義孝さんは、会話の浅さも気になるようになってしまったのです。
イライラして「そんなこと学校で習わなかったのか!」と声を荒らげたとき、妻が小学校5年生のときからいじめに遭い、学校にほとんど行かず、勉強をしなかったと知ります。妻は親からも先生からも放置され、適切なサポートを受けることができずにいました。
このころから、義孝さんは妻との離婚を考えるようになります。妻にはお小遣いを月20万円渡していましたが、すぐに使い切ってしまっていたようです。別の男性と関係を持っている可能性もあると考えました。
妊娠・出産を切望していた義孝さんは、妻が浮気をしているから、離婚をしたいと考えていたのです。
浮気調査を依頼した理由
調査に入る前に、「確実に浮気をしていると言いきれるのなら、なぜお金をかけて調査をするのですか?」と聞きました。そこが引っかかっていたのです。
義孝さんは「自分の気持ちに決別をつけるためです」と苦しそうに言いました。
「妻と協議離婚することは難しくないと思います。でも、妻は社会保険料を滞納しまくるほど、社会性に欠けている。そんな妻を放り出すのは、心苦しいのです。不登校だった背景も、妻だけが悪いわけではない。だから、他の男との浮気の証拠を見て『これだけのことをされたのだから、別れて当然だ』と思いたい。証拠を取ることで、僕の罪悪感を消してほしいのです」
浮気がわかった後も、一度は夫婦になったのだから、死ぬまで面倒をみようと何度も思ったそうです。
「でも、いつの頃から妻は何らかの方法でこっそり避妊しているのだと思います。あの流産から授かりませんから。あと嫌なのは、浮気相手との交渉で妊娠し、子供を僕に押し付けられること。妻との関係がゴタゴタしてから、ついイライラしてしまって、会社の雰囲気も悪くなり、先日、工場の社員がちょっとしたケガをしてしまったんです。労災ってほどではないのですが、あと0.1秒早ければ、命に関わる大事故になっていました。20年以上も無事故でやってきたのに……。だから自分の気持ちに整理をつけないとと焦っている気持ちもあります」
地方出張のときに調査を開始
妻は、義孝さんが東海地方にある工場に1泊で出張に行く日に合わせて浮気をしているようだと言います。早速、その日朝から都内の一戸建の自宅前で張り込みを始めます。家は結婚を機に建てた一戸建てで、まだ新しい。
朝から全く動きはなく、妻が出てきたのは20時。義孝さんが「容姿がいい」というだけあり、モデルのような体型なのにセクシーな雰囲気をまとっています。ボディラインがわかるベージュ色のジャージにTシャツを合わせており、ロングヘアがツヤツヤです。手入れされた長いネイルは目が覚めるようなブルーでした。
都心のターミナル駅までタクシーで向かい、カジュアルなバーへ。そこで待っていたのは、筋肉質の男性でした。彫りが深くて端整な顔立ちをしています。妻は男性にしなだれかかりながら、2時間かけて5杯のお酒を飲んでいます。
妻は「ダンナの加齢臭がきつい」「すぐ怒るから怖い。ムカつく」など、悪口を言っています。男性は「そりゃひどい」などと話を合わせながらも、妻と性交渉を持ちたがっていることがこちらにも伝わってきました。
妻はまだ話したりなさそうでしたが、男性が妻の体を触り、それに反応して妻も身をよじらせている。1万円ほどの飲食代は妻が支払い、男性といちゃつきながらホテルに入って行きました。後ろに私たちがいるのに、激しくボディタッチをしています。これだけでも、心の決別要素としては十分なのではないかと感じました。
「別れたくない」
妻たちは翌朝4時に出てきて、タクシーで自宅へ。驚くことに、男性は自宅に入り、チワワ2匹の散歩を15分ほどして、妻に届けてから帰宅。男性は、近所のファミリータイプのマンションに入って行きました。これは後で分かったことですが、男性は妻がチワワのために通うトリミングサロンのトリマーさんの夫でした。Webディレクターの仕事をしており、3歳と5歳の娘がいます。
あっさり証拠が取れてしまったので、早速、義孝さんに報告します。報告書を見ながら、「気持ちの整理がつきました。離婚します。それにつけても、男を家に入れるなよ!」と怒っていました。
それから2週間後、義孝さんから連絡があり、「せっかく証拠を撮っていただいたのですが、離婚はかなり難航しています」と話しており、改めて夫婦カウンセラーとしてお会いすることに。
かなり憔悴しており、「妻は別れたくないの一点張り。金目当てだと分かっているんですが、ここまで泣かれると気持ちが揺らぐ。正直、もう別れたいんですよ。でも見捨てられない。明らかな金目当ても辛いんですよ」とため息をついています。
義孝さんは、25歳年下の女性と結婚するというのは、「お金目当て」要素があることは受け入れています。
「でも、一緒に住んで、夫婦なのだから、僕の健康を気にしたり、話を聞いたり、気を使ったりしてもいいじゃないですか。夫婦の交渉を始めようとすると、ため息をついて、服を脱ぎ、無反応なまま横たわっている。それなのに結婚を続けたいなんてありえないですよね。避妊しているのではと問い詰めてもかたくなに認めませんでしたが、そもそも妊娠できるような関係性ではもうなかったので、避妊していたかどうかもう関係ないと思いました。それに、そういう僕たちのもとに子どもが生まれても可哀想ではないかとも感じたんです。」
そう言いながらも本人を目の前にすると、強く離婚を言い出せない。「子どもは諦め、このまま結婚を継続するのが一番楽な道ではないか」と思うこともあったそうですが、その度に証拠を見て気持ちを奮い立たせているとのことでした。
妻の浮気の証拠があっても慰謝料を払う理由
このときの義孝さんは、気持ちの揺らぎによる、慢性的な不安感や焦燥感に囚われている。妻の人生に対する責任感が強いほど、自責の念が強くなり、自己肯定感も下がっている。私が「眠れていますか?」と聞くと、「すぐに起きてしまう」と話していました。
義孝さんは心療内科で睡眠導入剤を処方されたそうです。ただ、仕事もあり交渉の体力はありません。そうなると、第三者が間に入るしかありません。結局、義孝さんは弁護士に依頼して、妻と離婚しました。義孝さんに非がないとはいえ、責任感の強さから、あと20年間、毎月5万円の援助を行うことになったそうです。
「総額1200万円で、慰謝料として払ってもいいのですが、きっと妻はすぐに使ってしまう。それで分割にしたのです。それにつけても、焦って結婚しなければよかった。妻は、『ふざけんな!』と怒りながら、実家に帰りました。行政の支援に繋げたいと思ったのですが、聞く耳を持ちません。チワワも要らないというので、仕方がないから、僕が面倒を見ています」
義孝さんはすぐに自宅を賃貸に出し、実家に戻りました。
「両親からは、『お疲れ様』と言われ、弟夫婦からは『結婚を決めた時のお兄ちゃんは異常だった。怖くて何も言えなかった』と言われました。おそらく、何が何でも結婚しなくてはと精神的に追い詰められて、憑きものがついたようになっていたんでしょうね」
妊娠・出産への大きな不安
妻は妻で、生きづらさと闘っているのだろうとも想像します。子どもを産むということはとても責任が必要なこと。「出産しなければならない」というプレッシャーが最初からありました。しかし20歳で結婚してすぐに流産も経験したとき、とても痛みを伴い、トイレで自分の目で流産したことを確認したことが大きなショックだったようです。自然流産は妊娠の25%にあることで、母親の責任ではありません。育たなかった卵が、産婦人科の治療によってではなく、自然に流れ出ることもあるのです。しかし20歳の妻がそれを一人で目の当たりにして、とても怖くなってしまったのも想像に難くありません。それで妊娠・出産が不安になってしまったのです。そのあと妊娠したかどうか義孝さんが何度も確認することで、性行為を避けるようになってしまったようです。
また、不登校になってから「親に見放された」と語っていたということは、もはや義孝さんのことは夫というより父親的な「何をしても守ってくれる存在」となっていたのでしょう。しかし義孝さんにとっては妻は妻。娘ではないのです。
それから1年後、義孝さんは高校の同級生の離婚歴がある女性と再婚しました。
「結局、今がとても落ち着いています。彼女には20歳の娘がおり、僕のことを認めてくれています。遠回りしましたが、今が幸せ。誰かに大切に思われ、愛されるって、ここまで力が湧いてくるんですね」
義孝さんは社員のために、そして家族のために頑張ることが幸せだと話していました。遠回りしましたが、幸せを手に入れることができて、私はとても嬉しく思いました。
今回の調査料金は15万円(経費別)です。