旅先で忘れられないのは、名所探索よりも「感動体験」ではないか。
もちろん景色のいい名所めぐりは心躍らせるものだ。
だが、日本一深い湖の真ん中に立ったり、秋田犬と一緒に山をのぼったり、青いアジサイが咲き乱れる参道を歩き、夜はなまはげが奏でる太鼓の音に酔いしれる……。
秋田には、ただ見るだけでは終わらない、感動の体験がたくさんあった。
エンターテインメント性抜群の絶景「あじさい寺」
男鹿の新たな見どころとして注目されているのが、北浦の雲昌寺(うんしょうじ)。
現在は「あじさい寺」とも呼ばれ、2000株以上もあるあじさいが咲き誇るが、これは20年前にたった1株を、副住職 古仲宗雲さんが挿し木によって増やしてきたもの。2017年には絶景プロデューサーの詩歩(しほ)氏の「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」第1位にも選ばれるほど注目の景色だ。ただし、あじさいの庭だけ見て帰るのでは、もったいない。
眺めがよく、通る風も気持ちのいい本殿では、ドライフラワーで作った立体天井絵が飾られ、ライトアップされている。斜め下に設置された盥の水面をそっとのぞきこむと、その絵が幻想のように浮かび上がる。心が落ち着いていないと、絵が乱れるのだそう。
筆者の心はいかに……。
ほかにも、ひとつひとつの絵柄が異なる唯一無二の「お守り」や、境内のどこかに隠れた7つのハートの石探し(全部見つけると願いが成就する《かもしれない》)など、参拝だけでは終わらせない、宗雲さんの遊び心とエンタメ性が具象化した寺なのだ。
温かく穏やか、それでいてどこかユーモラスな宗雲さんは、寺に祭られているお地蔵さんに似てはいないだろうか。
日本一深い湖の上でSUP
秋田県仙北市の田沢湖は、水深423.4mの日本一の深さを誇る、瑠璃色の水面と高い透明度が美しい湖。この場所でSUPができると聞き、やってきた。
ここ数年人気となっているマリンスポーツ「SUP」とは、Stand-Up Paddleboarding(スタンドアップパドルボーディング)の略で、サーフボードよりやや大きいボードの上に立ち、パドルと呼ぶオールを漕いで水面を進むウォータースポーツをいう。
ただ、ボードの上に立っているだけと思うなかれ。バランスを取ることで体幹が、水の抵抗を受けて漕ぐことで上半身が鍛えられ、なかなかの運動量だ。
湖畔には、美容や縁結びのパワースポットとして人気を集めている「御座石神社」や、田沢湖全体と秋田駒ケ岳を一望できる展望台などもあり、湖の真ん中から360度の景色を眺める体験は格別。
初心者でも専門スタッフが丁寧に教えてくれるので、初挑戦でも安心だ。秋田へ行く時は、水着が必須になるかも。
「まるでウユニ塩湖みたい」
そんな口コミからSNSで人気が広がったのが、男鹿半島南部にある鵜ノ崎海岸だ。
海岸といっても、ここは一般的な砂浜とはまったく違う。約1.5kmにわたって遠浅の岩礁が続き、干潮時には200メートルほど沖まで歩いて行ける全国でも珍しい海岸。夕凪のころには、浅瀬に空や雲が鏡のように映り込み、「秋田のウユニ塩湖」と呼ばれる幻想的な風景が現れる。
とはいえ、実際はボリビアの標高約3,650mに位置し、岐阜県ほどの広さのあるウユニ塩湖とは別物。それでも、日本海の青空や夕焼けを映し込む水鏡は、やはり絶景と呼べる美しさで、「日本の渚百選」にも選ばれていることにも納得だ。
何より、平日の朝夕にこの景色を独り占めできることの贅沢は、何物にも代えがたい。
秋田犬と「健康ウォーキング」
2024年に、国立環境研究所、東京都健康長寿医療センター、豪メルボルン大学(The University of Melbourne)の共同研究により発表された「犬との暮らしで、あらゆる原因による死亡リスク(全死亡率)を大幅に低減させる」という報告をご存じだろうか。
犬との触れ合いや飼育に伴う、つまり犬との散歩が、健康を増進させているのでは、というものだ。
そんな健康的な「犬の散歩」を、秋田犬と一緒に山歩きで実現させてくれるのが、「秋田犬と散歩する、健康ウォーキングプラン」。
犬との触れ合いの癒やし効果や健康維持に役立つ歩き方などをウォーキングガイドがアドバイスしながらの散歩で、県初の「ヘルスツーリズム認証」を取得したプランだそう。
穏やかで大人しい秋田犬、2020年4月生まれのマサくんが、三種町で待っている。
秋田を盛り上げる若者たちの「なまはげ太鼓」
「なまはげ太鼓」にはファンが多い。ユネスコ無形文化遺産にも登録されている、「悪い子、いねが~」で有名な「男鹿のナマハゲ」と、日本の伝統芸である和太鼓を組み合わせた、独自の郷土芸能。県内はもちろん、海外でも精力的に公演活動を行い、SNSや動画などでも人気だ。
男鹿市内の男鹿温泉交流会館「五風」は、県内唯一の常設会場で、定期公演を行っている。筆者の観覧は平日だったが、20時半の開演前には席は8割ほど埋まっていた。
太鼓の音が鳴り、明かりが落ちた客席の間をなまはげが大股で練り歩く。時折、手を挙げ、厄を祓うような荒々しいしぐさを見せると、高鳴る太鼓とともに客席の熱気も上がる。異様な盛り上がりを見せながら、なまはげが舞台に上がり、全員で太鼓の演奏が始まると、客席のざわめきは瞬時に鎮まった。
郷土の伝統を守りつつもイノベーティブなエンターテインメントとして、地元ファンも県外からの観光客の目もくぎ付けにする舞台の上の若者たち。
彼らはみな専門ではなく、昼間は他の仕事をして生計を立てながら、仕事終わりや休日に稽古に励んでいるという。
県内には複数のなまはげ太鼓団体があり、構成メンバーは若者がメインだ。高校の部活との連携や、毎年7月に開催される「男鹿ナマハゲロックフェスティバル」では、それぞれの団体からの混成チームが作られるなど、地域活性化を目標に盛り上がりを見せている。一時間弱の公演が終わるころには、「また観たい」と思っている自分に気づくはずだ。
湖に漕ぎ出し、犬と歩き、お寺で遊び、夜は太鼓の鼓動を全身で浴びる。その土地に飛び込み、人と自然に触れて初めて見えてくる景色がある。食も、文化も、自然も、人も。どれも主役であり、どれも秋田らしさそのもの。
きっと帰るころには、「また来たい理由」がいくつも増えているだろう。