自動運転技術の実用化が進む中、現実世界の複雑な環境や人間の誤操作に伴う深刻なトラブルが表面化している。
今年5月には米ウェイモの自動運転タクシーが豪雨による冠水道路で立ち往生し、約4000台のリコールにつながった。さらに翌6月には、テスラ車による死亡事故を巡り、「自動運転の暴走」とされた当初の見方が、実際にはドライバー自身の操作ミスだったことが判明した。
【前編】→76歳の女性が事故で死亡…ウェイモ、テスラの事故が物語る、自動運転車「AIの限界」
「テスラ」と「ウェイモ」の違い
このウェイモに対し、テスラの自動運転システムでは従来必須と見られてきた「ライダー」という高額・高精度の車載センサーの搭載を見送り、車載カメラとニューラルネット(AI)のみによる安価なシステムを採用している。
テスラにはその一方で、既に全世界で販売されている数多くの自社製EVから取得する大量の走行データという(ウェイモにはない)有利性がある。膨大な市販車から得られる走行データをミリ秒単位でAIに学習させており、一般的な道路での自動的な車線変更や右左折の精度などは最近飛躍的に向上している。
しかし車両製造のコスト抑制と量産化のために、(前述のように)高精度センサーの「ライダー」を省略したために、「濃霧」、「豪雨」、「風吹」、「強い逆光」や「夕暮れ時」など「車載カメラのレンズでは見え難くなる環境」ではクルマの外界認識精度が急激に落ちる。
また何もない平坦な道路や高速道で、テスラ車が突如ブレーキをかけて停止する「ファントム・ブレーキ(幻影ブレーキ)」と呼ばれる問題も報告されている。
人命よりも製造コスト優先
実際、それらが原因とみられる事故が多発したことから、米国の規制当局(NHTSA)は「視界不良時の認識エラー」などを理由に、計320万台以上のテスラ車を対象とした大規模な調査を実施している。
テスラを率いるイーロン・マスクCEOは「人間は2つの目と頭脳だけで運転できているのだから、自動運転でも高性能なカメラ(目に相当)とAI(脳に相当)だけで十分だ」という哲学を持っている。
しかし、どれだけAIが賢くなっても、そもそもカメラに光が入らない環境(濃霧、豪雨や強い逆光)では物理的な限界がある。
翻って「航空機」など別の業界では、1つのシステムが壊れたり、誤認識したりしても、別のシステムがカバーする「冗長性」が必須とされている。ところがテスラはこれを排除したため、カメラのレンズに泥や虫がへばりついたり、それが故障した瞬間にお手上げになってしまう。
以上を考え合わせると、ウェイモのように「カメラ以外にライダーなど多種類のセンサーを搭載した全方位型」の自動運転システムの方が圧倒的に安全であることは疑う余地がない。それらかつては高額だった部品の値段も最近どんどん下がってきていることから、テスラもユーザー(人間)のことを本気で心配するなら、こちらの方式を採用すべきだろう。
日本で今すぐ認可すればどうなるか
これら技術・運用面での諸課題を抱えてはいるが、自動運転化の波は日本でも徐々に広がりつつある。
ウェイモは既に2025年から東京で、日本企業と提携して実証実験を開始している。港区や新宿区をはじめ都心7区で、大手タクシー会社「日本交通」の乗務員が運転席に座った状態で試験走行を実施中だ。「狭い路地」、「自転車の多さ(昔の中国みたい)」、「日本固有の道路標識」など東京の複雑な交通環境をAIに学習させ、高精度の3次元地図データを構築するのが目的とされる。
しかし、こうした実証実験は米国では既に2010年代半ばから実施されており、日本の自動運転は「米国の10年前の周回遅れ」と言われても仕方がない。日本政府は表向きは「自動運転を推進する」と言いながら、本音では「業界の既得権や安全神話を守るためにブレーキをかけている」ようにも見える。
政府のロードマップでは、近々「(完全な自動運転である)レベル4の実装」となっているが、実際には過疎地における自動運転バス開発などかなり限定的で、しかも「失敗しても被害が少ない地域」が中心だ。
また「外資による市場独占」への危機感も足かせとなっている模様だ。仮に今すぐ完全無人の自動運転タクシー(ロボタクシー)を政府が認可すれば、東京の市街地は米国のウェイモや中国のバイドゥ(百度)など外国製のロボタクシーに埋め尽くされてしまうだろう。
トヨタやホンダをはじめ日本の自動車産業が、これら海外勢と戦える準備が整うまで、政府は実証実験や規制のハードルを高く保ち、意図的に時間を稼いでいるという印象はぬぐい切れない。
日本勢の現実的なゴールは何か?
もっともトヨタは2025年にウェイモ、2026年には(自動運転用の半導体やシステムも開発する)エヌヴィディアと提携するなど、米国勢との協業を深めている。その目的は、ウェイモなど米国勢が有する世界最高レベルの自動運転技術や膨大な走行データをゆくゆくは一般の市販車に応用することにある、とされる。
一方、日本国内の自動運転スタートアップ各社は海外勢に比べて資金・データ量が圧倒的に不足している。昨今、日本のスタートアップが数十億円規模の資金を調達すれば話題になるが、ウェイモやテスラが自動運転開発に投じる資金は数千億~数兆円に達する。
もちろん資金力やデータ量が自動運転開発の全てではないが、それでも非常に大きなウェイトを占めるのは間違いない。このため彼ら日本勢が海外勢と真っ向勝負するのはかなり厳しい状況となっている。
公式には発表ないしは強調されていないが、彼らの現実的なゴールは「自社開発した自動運転技術を、日本の一部自動車メーカーに高値で買ってもらうこと(技術買収)」ではないかと見られている。
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