混沌をきわめた「皇室典範改正」
「静謐な議論で皇族数の確保をはかる」という謳い文句だった「皇室典範改正」は、憲政史上に残る、混沌と喧騒の中で、国民の総意とかけ離れた結論が出ました。国民の多くが、天皇の直系・長子である愛子天皇の実現を希望しているというのは世論調査からも明らかですが、国会冒頭の「悠仁殿下への流れはゆるがせにできない」という高市総理の一言で、混沌劇の第一幕が開いたのです。
私は、高市政権が衆参正副議長による「静謐な議論」を唱えだしたころから、混沌の予感を抱いていました。なぜなら、衆院では与党が圧倒的多数。しかも高市氏をバックアップする勢力は、いまだに、男系男子を主張する日本会議などの保守勢力です。密室で有識者会議も開かず、議事録もないやりとりで「立法府の総意」として提出される議案など、あとで野党や国民がおかしいと思っても、責任が誰にあるか分からないような仕組みです。
水面下で働いていた麻生太郎氏の思惑
実際、高市政権において、今回のような結論になる議論は政府や立法府では出ていなかったのです。2021年12月に有識者会議が報告書を出し、それを政府が国会の検討に委ね、2024年5月に衆参正副議長らが全政党会派に呼びかけて「安定的な皇位継承に向けた皇族数確保策の与野党協議」についての全体会議が始まりました。
2025年に入り、議論が膠着状態に陥ったのを打開するために額賀福志郎衆院議長らの仲介で自民党と立憲民主党が一旦は「女性・女系天皇について検討し、養子案も検討対象とする」ということで合意に達し(5月27日)、それを前提に衆院法制局が「取りまとめ」案を作成したものの、官邸官僚である山崎重孝氏の越権介入によって反故にされました(5月30日)。そのことを事後に知らされた立憲民主党の野田佳彦代表が記者会見の場で、自民党の背信的な「ちゃぶ台返し」を非難した(6月6日)というのが流れでした。
実はこの時点で、麻生太郎氏の思惑が働いていたと思われます。麻生太郎内閣のとき、皇室典範第15条の改正を中心とした養子案が国会に提出される予定があったと書いた書籍があります(竹田恒泰氏ほか『なぜ女系天皇で日本が滅ぶのか』[2021年])。しかし、当時の内閣官房副長官であった漆間巌氏からの指示により、提出は見送りになりました。漆間氏は2009年3月に麻生首相が上皇陛下(当時は天皇)に内奏した際、「快く思(おぼ)し召されなかったため」見送られることになったと説明しました。上皇陛下ご自身は内奏の折に養子案についての話があったことは否定されていますが、いずれにせよこうした背景を考えると、今回の明らかなだまし討ちの経緯も納得できます。「取りまとめ案」を反故にした内閣官房参与の山崎重孝氏は、麻生氏の子飼いとまでいわれる官僚でした。2023年に退職したのに、復帰し、2024年3月15日に内閣官房参与、そして皇室制度連絡調整総括官になりました。
宮内庁長官の異例の発言
国会での意見集約が見送られる見通しを受けて、宮内庁の西村泰彦長官は2025年6月12日に定例記者会見で「宮内庁としてはコメントすべき立場にないが、皇族方の減少は大きな課題であり、それを踏まえた議論はしっかりと進めていただきたい」と述べました。
皇室を知るものなら、宮内庁長官が独断でこういう発言をすることは異例のことだと分かります。「コメントすべき立場にないが」と断りながら、あえて「議論はしっかりと進めるように」注文をつけているのは、天皇陛下ご自身のお考えのかなりストレートな表明と受け取るべきです。
「男女平等」を意識された天皇陛下のお言葉
天皇陛下はこの時期にお住まいの御所において、大阪·関西万博への参加の為に来日する各国の元首と、相次いでお会いになっています。
例えば5月27日、アイスランドのトーマスドッティル大統領とお会いになった時のやり取りが次のように報じられています。
「アイスランドは世界で最も男女平等が進んでいるとされ、宮内庁によると陛下は『どうして平等が実現されているのですか』と尋ねられた。大統領は『長年積み重ねてきた努力の成果』などと答えると、陛下はうなずきながら聞かれていた」(日本経済新聞5月27日配信)
6月11日にフィンランドのストゥブ大統領とお会いになった時にも、次のようにお尋ねになったといいます。
「フィンランドにおいては男女平等の分野で世界をリードされていますが、どういう工夫をされていますか」(FNNプライムオンライン6月11日配信)
さらに同13日にコソボのオスマニサドリウ大統領と会見された時にも、次のように尋ねられたという。
「国造りのためには女性の活躍が大切だと思いますが、大統領はどうお考えですか(FNNプライムオンライン6月13日配信)。
天皇陛下とお会いしたこれらの元首たちが、先頃、日本政府が女性差別撤廃条約に基づく国連女性差別撤廃委員会からの勧告に反発して、同委員会を拠出金の使途から除外するなどの“報復措置”をとった事実を知らないはずはありません。
突然提案された「養子の皇位継承案」
こうした陛下の発言の意を介さないかのように、麻生氏・高市首相、そして麻生派の事務局長で衆院議長の森英介氏による企みは進んでいました。それは「立法府の総意案」にはなかった「養子から男子の子どもが産まれれば、皇位継承権があるとみなす」という提案です。
野党が「総意案には入っていなかった」と言っても、政府側の答弁は「総意案では養子がその後どうなるか書いていなかったので、現行の皇室典範にそって、この文言を詰めただけ」という乱暴な理屈に終始しました。高市首相は、まだ立法府の総意が決まらない(審議もしない)段階で、与党である維新とこの提案について協議すると発言し、森英介議長は「総意」提出後、いきなり「当然、皇位継承権はもつものだろうと思う」などと、衣の下から鎧が見える発言が出はじめました。
本来なら皇位継承権をどうするのか、女性天皇を容認するのかどうか、本格的な議論をすべきだったのです。直系長子を優先し男女の別なしに天皇になるというのが世界の趨勢であり、日本の男女公平のためにも必要なはずです。しかし、圧倒的に人気がある愛子天皇の問題にかかわれば、男系男子の天皇論は通らないと見た政府は、女性天皇についての議論を正面からせずに、結論を急いだのです。
天皇は「国民の皆さんの理解が得られるものに」と政治的発言とは取られないぎりぎりの範囲のお言葉を述べたにもかかわらず、養子の皇位継承案は、成立してしまいました。
超保守的な改正と麻生氏の野望
最後まで反対した党もありましたが、今後100年の問題を決するテーマに、党利党略で賛成した党もいます。一番情けなかったのは、中道の公明党議員と参院の公明党議員です。全員賛成にまわりましたが、これは、男系男子に反対すると、学会本部に右翼の街頭宣伝車がきて困るという、学会幹部の自己本位な理由からでした(自公連立も、もともとは自民党が石原都知事に騒音条例の厳格化を要請し、街頭宣伝車での学会攻撃に厳しく対応してくれたためにできたという経緯からも、タカ派の恨みを買いたくなかったというのが本音です)。かくして、超保守的な皇室典範改正が拙速に行われました。
この改正を強固に進めた麻生氏の妹は三笠宮寛仁親王の妃殿下信子さまであり、信子さま自身が宮家をもっています。また姪である彬子女王は三笠宮当主として活躍し、瑶子女王も皇族として活躍しています。麻生氏の意中の人物を、この一家の養子とし、その養子に男子が産まれれば、天皇になれる可能性がでてきたのです。
私は国民に国会の実情をわかってもらうよう署名運動を行い、8万筆の署名を集めました。しかし、自民党は職員さえ受け付けないという、国民の声を聞く気持ちもない姿勢でした。この政権は、国民にとって良い政権であると、果たして言い切れるのでしょうか。
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