猛暑、豪雨、大型台風……。昨今、こうした異常気象が毎年のように報道されています。異常気象は過去と比較して、本当に増加しているのでしょうか。また、増加しているとすれば、その原因は一体何で、日本列島の気候はこの先どうなっていくのでしょうか。
ところで、近年急速な進歩を遂げたシミュレーション手法「イベント・アトリビューション」をご存知でしょうか。これは、人間活動による温室効果ガスの排出などが、異常気象の発生確率や強度にどの程度影響しているのかを科学的に分析する手法です。
このイベント・アトリビューションや、異常気象のメカニズムと将来予測を、気鋭の研究者が解説するのが『異常気象の科学 猛暑・豪雨・大雪のしくみと将来予測』(講談社・ブルーバックス)です。
本記事シリーズでは、この注目の新刊から興味深いトピックの数々をご紹介していきます。
今回は、ここ数年、毎年のようにやってくる猛暑について、その現実を客観的に見ていきたいと思います。「記録的な猛暑」と騒がれた2023年から2024年を振り返っていきます。
*本記事は、『異常気象の科学 猛暑・豪雨・大雪のしくみと将来予測』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
日本の気温上昇は世界の2倍速
2023年と2024年の2年間は、高温の記録が何ヵ月にもわたって塗り替えられ続ける異常な年となりました。
図「日本の年平均気温偏差の推移」は、日本全体で平均した年平均気温 の推移を折れ線グラフで示したものです。赤い折れ線と点は各年の気温の平年値からの差(これを偏差と呼びます)、折れ線の中間に示された斜めの直線は「線形トレンド」と呼ばれる線で、全体的な変化傾向を代表的な1本の直線で 表現したものです。
この直線を温暖化のトレンドであるとみなして分析を行う研究もありますが、正確には地球温暖化だけでなく自然界に内在する数十年規模の変動も直線の傾きに含まれているので注意が必要です。
このグラフを見ると、2023年も2024年も、過去から現在までの全体的な変化傾向 (直線で示されるトレンド)から大きくかけ離れて、データが上側に飛び出していることがわかります。つまり、2023年と2024年は、近年の気温上昇のペースだけでは到底説明できないほどの高温となっていたといえます。
このように過去の傾向から大きく外れるような状況が発生する際には、地球温暖化のようにゆっくりと単調に増加していく要素だけでは説明がつかず、自然界のさまざまな偶然の変動が重なってはじめて発生します。それぞれの年にどのような偶然の現象が発生していたかについては、改めてご説明しましょう。
ここで、もう一度直線の傾きに注目してみましょう。図中にはこの直線の傾き、つまり昇温ペ ースも明記してあり、「100年で+1.4℃」と書かれています。
一方、図「世界平均気温の年々の推移」で見られるように世界の平均気温で昇温ペースを計算すると、「100年で+0.77℃」となります。
つまり、日本の平均気温は世界に比べて約2倍のスピードで昇温していることになります。
猛暑地点数は2年連続で過去最高を更新
2023年から2024年にかけての2年間は、全国平均の値だけでなく、 日本国内の地点別に見ても異常事態が起こっていました。年間の猛暑地点数が、2023年にこれまで塗り替えられることのなかった2018年の約6000地点という記録をわずかに上回ってトップに躍り出たのです。
この年の夏は日本各地で毎日のように熱中症警戒アラートが発表され、スポーツや野外の教育活動は制限され、夜間でもエアコンをつけることが呼びかけられるなど、我々の日々の生活レベルにまで気候問題が影響を及ぼしているという危機感を感じざるを得ない夏になりました。
秋を過ぎても高温傾向は続き、12月になっても冬がなかなか訪れず、多くのスキー場が雪不足で悲鳴を上げていました。報道でも暑さのニュースが頻繁に取り上げられ世の中を賑わせた2023年でしたが、その記録は、翌年呆気なく塗り替えられることになります。2024年の秋が終わる頃には、猛暑地点数は既に2023年の記録を大きく上回り、9000地点にせまる未曽有の数字を叩き出しました。
文字通り「人体を蝕んでいる」猛暑
図「日本の熱中症死亡者数(6〜9月)の推移」は、厚生労働省の統計データをもとに、熱中症死亡者数の年々の推移を示したものです。一昔前までは、年間の熱中症死亡者数が1500名を超えると異常事態でしたが、近年はこの数字が珍しくなくなっており、近年の猛暑の脅威を改めて実感するデータとなっています。
特に2024年の驚異的な暑さは確実に人体を蝕み、これまでの記録を大きく上回り、2000名以上の貴重な人命が暑さによって奪われてしまうという悲惨な事態が起こってしまいました。日本で発生する猛暑がこれだけ多くの犠牲者を出しているという事実に、驚かれた読者も多いのではないでしょうか。
まさに、数年前に話題になった「災害級の猛暑」が今、日本の一大問題になっています。
このような深刻な事態があまり世の中で認知されていない背景に、熱中症による犠牲者の全容把握に時間がかかることが挙げられます。年間の熱中症死亡者数の概数データが統計情報として得られるようになるまでに約半年かかりますので、報道されることも少なく、一般社会に届きにくい情報であることは確かです。
一方で、国がこのような事態を放置するわけはありません。熱中症警戒アラートの導入など、日本政府はさまざまな政策を実施して対策に乗り出しています。
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