「人生は自分で作るものだと知った」
これは、有村さんが主演する映画『マジカル・シークレット・ツアー』の冒頭で、有村さん演じる専業主婦の和歌子が独白するセリフだ。
本作は2017年に起きた金の密輸事件に着想を得て天野千尋監督が書き下ろしたオリジナル脚本の作品だ。有村さんが演じる和歌子、黒木華さんが演じる清恵、南沙良さんが演じる麻由は、それなりに一生懸命生きてきたけれど、お金のことで追い詰められて軽い気持ちで「金の密輸」という犯罪に手を伸ばしてしまう。
有村さんインタビュー前編では、本作に出演をした理由や、「人生詰んだ」と思うような状況になったエピソードを聞いた。後編では、和歌子が言ったように「人生を自分で決断する」ことに対して有村さんの姿勢を聞いていく。
「誰かのために」生きてきた人生
和歌子は乳飲み子と幼児を育てる専業主婦。塩野瑛久さんが演じる夫・高志が突然倒れたのを機に、実は夫が会社のお金を横領して解雇されており、借金まみれだとわかる。夫の入院費や日々の生活のためにお金が必要なのに、夫の実家も自分の実家も頼れず、子連れでは就職もできず、絶体絶命となる。そこで「ちょっと金を運ぶだけのアルバイト」と称する闇バイトに手を出してしまう。そんな和歌子のことを「分析した」という。
有村「和歌子を分析するにあたって、ああ、きっとこの人は自分に納得しないまま、『イエス』と言い続けて、過ごしてきたんだなと思ったんです。これまでの環境の中で、多分楽しみや幸せは見つけられてきてはいたんでしょうけれど、でもふとした時にどこか寂しさや孤独感があって……。人は誰しも裏表があったりもするでしょうし、 100%の一つの感情だけでもないですよね。自分もいろんな感情を持って生きているので、和歌子に共感しましたね」
和歌子は実家でも「あなたはこうだから」と言われ、「あなたはどうしたいのか」を尊重されることなく生きてきた。主婦として夫にも尽くしてきたのだろう。なにより、乳飲み子含めた子ども二人を育てていかなければならない。会社のお金を横領して借金を重ねた夫に対する怒りをぶつけるよりもまず、必死に「できること」を探していく。そして、金の密輸という犯罪に手を染めていく中で、生き生きとしていくように見える。
有村:「和歌子の性格的に、多分今まで自分が納得いく人生を送れていなかった。“誰かのため”に生き、“親のため”に生き、“誰かをがっかりさせないため”に自分を保ちながら生きてきた和歌子が、『こうでなければいけない』というルールから外れたきっかけが金の密輸だったんですよね。悪いことに足を踏み入れてしまったという驚きだったり、不安もあったんでしょうけれど、それ以上に多分、和歌子は“そういう自分から解放された”ということの方が大きかったんじゃないかなと思います。だから、後悔してないというところにつながるんですけど、そこをどう表現すれば、より魅力的に見えるかなと感じました」
夫婦になる前のことも話し合いました
切羽詰まった状況に追いやられるが、子どもたちを不安にさせないようにするためだろうか、和歌子はひどい状況でも泣きわめいたりせず、淡々と「できること」「なんとかするすべ」を探していく。そしてことごとくその可能性がつぶれていったとき、意識の戻らぬ夫に対し、思わず感情を出すシーンがある。
有村「和歌子がどれぐらいの塩梅で感情を出すのか出さないのかというところが難しいので、それは常々監督と“ここまでは出すかな”とか、“出さないかな”と話し合いながら撮影をしていました」
夫の高志を演じる塩野さんとは、クランクインの前に「夫婦の時間」を設けたのだという。
有村「描かれていない夫婦の時間について、別々に思っていると噛み合わない部分がたくさん出てくるので、出会ってから夫婦になっていった時間を一緒に共有して、きっとこうだったよな、ああだったよねと監督も含めてお話しする時間がありました。共通認識を持てるのはとてもありがたかったです。撮影が始まる前にお会いできるというところも結構大きいと思います」
子どもたちからもいろんな感情をもらいました
ドラマはフィクションだけれど、私たちは事実のように感情を揺さぶられることがある。それは、有村さんが結婚する前のことから考え、監督や塩野さんと話し合ったように、その役の人生をとことんリアルにつきつめるからなのだろう。そういう意味では、現実世界では母親ではない有村さんが、完全に「乳幼児の母」になっていた。
有村「子どもたち2人が頑張ってくれたおかげで、私もいろんな感情をもらいました。やっぱり涙って、“もらうもの”がないとなかなか出なかったりもするんですけど、そういった意味ではいろんなものをもらいました。一緒にゲームしたりもしましたよ。大変だったと思いますけど、本当に頑張っていましたし、0歳児の才真くんも本当に泣かない子で、ドシッとしてくれていて。めちゃめちゃ頼りがいがあって助けられました」
実体験があるからこそ、演じられる。考えるだけではなく、体験し、話し、そうして役の背景をリアルにしていくのだろう。
有村「そうですね。作品のこともそうだし、役の背景を常に疑問視するというところは、このお仕事においてはすごく大事なことだったりするのかなと思います。ただ、真面目に向き合いすぎて、ちょっと疲れちゃう時があるから、『まあいっか』と思える気持ちも持ってないとなと、自分ではもう何年も思っているんですけど……、なかなかやっぱり難しいですよね」
高校生のときに事務所にアプローチ
さて、和歌子が冒頭で語る「人生を自分で作る」という言葉は、本作の大きなテーマのひとつといえる。有村さんは高校生のときに俳優になりたいと思い、自分で事務所を調べ、いまの事務所にアプローチをし、さらに1年待って再度応募をしたという。まさに「自分で作ってきた人生」だ。
有村「高校生の頃までは、まだ学生でしたし、自分自身と向き合う生き方をしてこなかったので、自分の弱さ、強さって何だろうって思わなくても生きていけたんです。ただこのお仕事をするにあたって、『自分の弱さを知らないとお芝居できないよ』と口酸っぱく言われてきたので。自分と向き合うってなんだろうとか、その弱さをごまかさないとか自分自身が隠してしまわないようにしなきゃいけないとか、事務所の教えでそうなれましたね」
有村さんが所属する事務所は、戸田恵梨香さんや吉岡里帆さん、吉瀬美智子さんなどが所属している。まさに「演じる」というものづくりを大切にするところだ。しかし高校生の時点でそういうことを考えてアプローチをするのは簡単なことではないのではないだろうか。
有村「その時は、どの事務所にどんな優れた人がいて、なんてことももちろんわからないんですけど……。自分はお芝居したい、そして人数が多いところじゃないなと、多分感覚的に思ったんですよね。今の事務所は俳優という人を育てていると思って応募しました。私もなんでそこに気づけたんだろうっていうのはちょっと不思議なんですけど、どこか私は自分の感覚を信じている部分もあって」
小学5年生のときの映画出演体験
俳優になりたいと思い、そのためにはどうしたらいいかを考え、行動する。高校生のこの思慮深さと行動力だけでもすごいことだ。では俳優になりたかったのはなぜなのかを聞いてみると、小学生のときの体験を教えてくれた。
有村「学校ではむしろ、表に立って発表するようなことは嫌だと思っていたんです。ただ、小学5年生の時に先生が脚本を書いて、先生がカメラを持って、自分の組で映画を作ったんですよ。全員登場する役をもらって、私はアキコという役でした。主役じゃなかったからセリフはちょっとしかなくて、でもそれをやるにも精一杯みたいな感じでした。恥ずかしかったけど楽しかったですし、すごくちゃんとした映画ができて、どこに披露するわけでもないんですけど。
俳優になりたいと思ってから出たかったものは……、学園ものもいっぱいありましたし、漠然と月9に出てみたいなとは思っていました」
「月9」といえば、Netflixオリジナルドラマ『さよならのつづき』のインタビューをしたときはちょうど「月9」の「海のはじまり」に出演しているときだった。本作で弥生という役を演じていた有村さんがインタビュー中に「あ、いま弥生がでてきちゃった」と言ったことがあった。そのことを伝えると有村さんは笑いながらこう言った。
有村「今は誰も生きていないです。作品中は完全にオフにできなかったりすることもあるんですけど、終わったらもう終わりです。“クランクアップ”という事実でスイッチが切り替わりますよ」
クランクアップするまではその役を生きている。真面目になりすぎて疲れるくらいその人の人生を考える。だからこそ「今は生きていない」と言えるのだろう。
有村さんは高校生のときから俳優になりたいと思い、そのために必要なことをずっと考えてきた。そうして「生きた」和歌子という人が、どのように人生を作っていくのか、見届けていただきたい。
有村架純(ありむら・かすみ)
1993年2月13日生まれ。兵庫県出身。2015年『映画 ビリギャル』で第39回日本アカデミー賞新人賞と優秀主演女優賞をW受賞。同年同作と『ストロボ・エッジ』でブルーリボン賞主演女優賞を受賞。2022年の映画『花束みたいな恋をした』で第45回日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞を受賞。ほか『ナラタージュ』(2017)『月の満ち欠け』(2022)『花まんま』(2025)など出演作も受賞作も多数。
ドラマはNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」(2013)「ひよっこ」(2017、2019)、大河ドラマ「どうする家康」(2023)、月9ドラマ「海のはじまり」(2024)、日曜劇場「GIFT」(2026)、Netflixドラマ「さよならのつづき」(2024)など多数。
『マジカル・シークレット・ツアー』
平穏な日常を送る二児の母・和歌子が、夫が倒れたのを機に知らされたのは夫の横領と解雇、そして借金。返済のため、今を生きるために行きついたのは、シンガポールでの闇バイト【金の密輸】だった。そこで偶然出会った、非正規雇用の研究員と、未婚で妊婦のキャバ嬢。密輸の成功に味をしめた3人は、自分たちで密輸を始めることに。人生思いっきり生きる!このラスト、痛快!実話に着想を得た【金密輸事件】を描く、違法だけど痛快なエンタテインメント。監督 天野千尋 2026年6月19日より全国公開。
インタビュー・文/新町真弓(FRaUweb)撮影/森清
ヘアメイク/新山いずみ スタイリスト/瀬川結美子