史上最高額となる時価総額2兆1000億ドル(340兆円)で、スペースXの新規上場を成功させたイーロン・マスク氏。同氏は米政府による「国家機能の民営化」に政治力を駆使して取り入り、見事に成功させた。世界中で軍事利用されるスペースX社の「スターリンク」はその一例にすぎない。
前編記事『もはや軍事企業…時価総額340兆円(!)の「スペースX」に託したイーロン・マスクの野望』より続く。
米CIAも出資
本コラムで何回も取り上げている著名投資家ピーター・ティール氏(58歳)は、創業した個人間送金のためのウェブサービス「PayPal(ペイパル)」時代の同僚であるマスク氏に1年遅れで03年にデータ分析企業パランティアを設立した。同社の隆盛は改めて指摘するまでもない。
マスク、ティール両氏は奇妙な縁で結ばれている。パランティアはそもそもPayPalの不正検知技術に触発されたデータ・マイニングを使ってテロリストの居場所を発見するのに役立ち、それが今日の大飛躍の礎となった。
そして同社の主要投資家リストに、米中央情報局(CIA)が設立したベンチャーキャピタル「In-Q-Tel(インキュテル)」がある(このIn-Q-Telも当コラムの異なるテーマで言及した)。さらに、さらにだ。スペースXの元顧問のマイケル・グリフィン氏は、後にIn-Q-Tel社長に就いている。
国家の中枢に入り込む
上述の『MUSKISM』(第8章「Xという名の国家」258頁)に次のように書かれている。
〈ティールの「ペイパル・マフィア」で、ネットスケープ・ナビゲーターの開発者でもあった投資家マーク・アンドリーセンは政権移行においてトランプに助言し、彼のベンチャーキャピタルファームからは2人のパートナーが政権入りした。
そのうちのひとり、スリラム・クリシュナンはAI担当上級顧問となり、もうひとりのスコット・クーパーは人事管理局(OPM)の局長となった。ティールの元側近であるマイケル・クラツィオスは、ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)の局長となった〉。国家の中枢に入り込んだのだ。
次に、米中間の宇宙覇権争いに目を向ける。米NASAが進める有人月探査「アルテミス計画」により、今年4月に飛行士4人を乗せた宇宙船「オリオン」が月上空を周回して地球へ無事帰還したが、28年に月面着陸を目指すという。
同計画に強い関心を示すドナルド・トランプ大統領は自らのレガシー(政治遺産)になると思いを致すようになったのか、今春以降、話が宇宙覇権に及ぶと熱量が高くなるという。
マスク氏の「火星を開拓する」野望
一方、習近平国家主席率いる中国の「宇宙科学強国」構想は、着実に加速・進展している。昨年10月に乗組員3人を乗せた宇宙船「神舟21号」が打ち上げられ、宇宙ステーション「天宮」とのドッキングに成功。
それから7カ月間の各種実験や船外活動などのミッションを終えて、3人は5月29日に後発の「神舟22号」に乗り換えて内モンゴル自治区の東風着陸場に無事帰還したばかりだ。
単純比較であるが、月面着陸探査競争はどうも米国が中国の後塵を拝するのを余儀なくされているというのが、ド素人の筆者の印象論である。それ故に再びマスク氏の登場となる。
ウォルター・アイザックソンの『イーロン・マスク(上)』(文藝春秋。23年9月刊行)でも詳述されているようだが、マスク氏の「火星を開拓する」という野望とスペースX設立は決して無関係ではない。
『MUSKISM』(第3章73頁)に〈…この願望は終末論的なヴィジョンに取り憑かれたものだった。火星を開拓する理由のひとつは、地球が壊滅するような惨事が起きたときに、人類を存続させる手段になると信じていたからだ〉と記されている。
飛躍した見方を承知している。自由至上主義者(リバタリアン)のティール氏が政府請負業者になったのも、「国家と共生」を強く志向するマスク氏の影響を受けたのではないか。
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