一滴の雫に満たされている、数千年にわたる叡智……。
もはや国民的な飲み物の一つとなったワイン。近年、日本産ワインも急成長していることはご存知の方も多いと思いますが、さらに注目を集め始めているビオワイン、オレンジワインはご存知でしょうか。
ワインは、単なる嗜好品にとどまらず、人類が長い時間をかけて磨き上げてきた文化の産物として多くの人々を魅了し続けています。しかし、グラス一杯の背後には、ブドウ樹の生理、発酵微生物の働き、 果汁やワインに含まれる化合物の化学反応、といった、さまざまな科学的要素が複雑に絡み合っています。
ワインの原料となるブドウの最新の栽培技術、醸造技術から、おいしさ、香り、健康効果はもちろん、温暖化によるブドウ栽培の変化など、ワインの魅力を科学の言葉で説明した『最新 ワイン科学』(講談社・ブルーバックス)。本記事シリーズでは、この書から、興味深いトピックを選りすぐってご紹介していきます。
今回は、「フォクシーフレーバー=キツネ風味」と言われ、日本とヨーロッパで評価が分かれる「アメリカ系品種」のワインについて、解説をお届けします。
*本記事は、『最新 ワインの科学 芳醇な香りと味わいはどのように生まれるのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
「キツネ臭」と評されるワインとは?
日本でもおなじみのコンコード、ナイアガラ、デラウェアなどのアメリカ系品種で造られるワインは、「フォクシーフレーバー(Foxy Flavor)」という特徴的な香りがします。日本語では「キツネの風味」と直訳されますが、どこか甘くフルーティーで、ブドウジュースやキャンディのような香りに例えられます。
ただし、人によっては人工的、あるいは動物的な香りとして感じられることもあります。この香りの主成分はアントラニル酸メチルという化合物です(図「フォクシーフレーバーの原因物質アントラニル酸メチルの構造式」)。
なんで、キツネ? 不思議な名がつけられた由来
フォクシーフレーバーという名の由来には諸説あります。
ひとつは、この特徴香に最初に言及した人物の名前が「フォックス(Fox)」であったという説。もうひとつは、アメリカ先住民がアメリカで自生するブドウのことを「フォックス・グレープ(Fox grape)」と呼んでいたことに由来するという説です。
いずれにしても、「キツネの風味」という直訳以上に、アメリカ系品種特有の香りを象徴する言葉として定着しています。
再評価される「キツネ臭」…きっかけとなったのは「日本のマスカット・ベーリーA
日本では気候条件の影響から、明治以降アメリカ系品種が多く栽培されてきました。また、マスカット・ベーリーAをはじめとするアメリカ系品種を用いた交配品種も数多く作出され、各地で栽培が広がりました。これらの品種は日本の気象条件下でも栽培しやすく、全国的に普及していきました。
一方で、ヴィティス・ヴィニフェラはアントラニル酸メチルをほとんど生成せず、そもそもEU諸国ではアメリカ系品種から造られたものはワインと認められません。そのため、EU諸国の人々はフォクシーフレーバーをオフフレーバーと見なします。
しかし、近年、マスカット・ベーリーAが日本の固有品種としてOIVに登録されたことを契機に、海外でもこの香りを「郷愁の香り」や「土着的個性」として再評価する動きが広がりつつあります。
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次回は、欧州ワインが壊滅寸前に追い込まれた衝撃の大事件と、その「意外な理由」に迫ります。