アクティビスト保有銘柄の企業価値向上に期待
例年、6月下旬にかけての日本株市場は株高となる傾向がある。3月期決算企業の株主総会が集中する日程に向けて、「機関投資家が取引先企業への忖度から株式売却を控える」、「外資系運用会社が上半期末に向けてお化粧買いに動く」などの季節要因が、株価を押し上げるとの説が囁かれている。さらに、ここ数年で話題にのぼる機会が増えているのが「物言う株主=アクティビスト」の存在だ。
株主としての立場から経営陣に積極的に提言や要求を行い、企業の経営方針や資本政策の変更を迫るアクティビストは、かつては企業を食い物にする存在として忌避されがちだった。だが、近年はROE(自己資本利益率)やPBR(株価純資産倍率)の改善要求など、東京証券取引所が上場企業に求めるガバナンス改革と方向を同じくした提案が主流となり、一般株主の賛同を集めるケースが増えている。いまや上場企業に変革を迫り、株価を押し上げる原動力として注目されている。
2026年6月の株主総会シーズンは、アクティビストから提案を受けた企業は50社を超え、過去最多を更新する見通しだ。自民党が会社法改正を視野に「アクティビスト対策の作業部会」設置を検討するなど、過度な干渉への警戒感も広がっているが、アクティビズムを否定するものではない。
企業側に変革の緊張感を持たせつつ、日本株市場全体の価値向上を促すアクティビストの役割は、むしろ今後も高まるだろう。株主総会が接近するにつれ、アクティビストが保有する銘柄の株価動向に注目度が高まりそうだ。
商船三井<9104>
5月29日終値5476円 配当利回り(予)3.74%
「万年割安」と評される海運株の中でも、とりわけ割安感が強い商船三井には、米アクティビストのエリオット・インベストメント・マネジメントが今年3月に株式を相当額保有していると明かし、不動産子会社の再上場や自社株買いの強化を要求した。商船三井のPBRは1倍を大きく割り込み、過去10年平均を下回る推移が続いているが、水準訂正を促す起爆剤となる期待がある。
ROE(自己資本利益率)は2025年3月期まで5期連続で10%台を確保しており、稼ぐ力は欧米企業と比べても遜色ない水準にある。問題は、運賃市況(コンテナ船などの輸送料金の動向)に業績と配当が大きく左右されるため、株式市場からの評価がディスカウントされがちだった点だ。
会社側が3月に発表した中期経営計画では、不動産やエネルギー事業など安定収益型事業の基礎営業キャッシュフロー(本業で生み出す現金)を2030年度に2025年度計画比で2.8倍の1700億円に引き上げる方針を打ち出した。さらに、累進配当(業績にかかわらず配当を維持・増加させる仕組み)の導入方針も示している。エリオットは「前向きな一歩」と評価しつつも、還元水準は同業他社に対してなお不十分と指摘しており、攻防はまだまだ続きそうだ。
TOTO<5332>
・5月29日終値7678円 配当利回り(予)1.56%
温水便座(ウォシュレット)で知られるTOTOだが、実は「半導体素材メーカー」へと変貌を遂げつつある。高耐久性と解析技術を強みとする半導体製造装置向けセラミック部材の2026年3月期営業利益は、前期比42%増の289億円と過去最高を更新した。すでに国内住設事業を大きく上回り、営業利益全体の5割超を占める主力事業へ成長している。
英アクティビストのパリサー・キャピタルが今年2月にTOTOへ要請した書簡内容は、セラミック事業の情報開示強化と投資拡大だ。「見直せば株価に55%の上昇余地がある」とまで言い切った。50年来の技術蓄積から生まれたセラミック事業の売上高営業利益率は足元で40%超(5年前は9%強)と、製造業としては異例の高収益性を誇る。AIブームに伴うデータセンター投資の拡大が追い風となり、NANDフラッシュメモリー向けの静電チャックやロジック半導体向けAD部材の需要は中長期的な拡大が見込まれる。
2027年3月期までの戦略投資1750億円のうちセラミックへの配分は290億円にとどまり、パリサーが問題視した「投資不足」は課題として残されたままだ。セラミック事業への投資拡大や開示強化の具体策が示されれば、「住設会社」から「高機能素材会社」への再評価が本格化するだろう。
IIJ〈3774〉
5月29日終値3102円 配当利回り(予)1.39%
香港のアクティビスト、オアシス・マネジメントが今年5月にIIJ(インターネットイニシアティブ)株の7.48%を取得し、KDDI(11.5%)、日本マスタートラスト信託銀行(10.8%)に次ぐ第3位の株主に浮上した。保有目的に「重要提案行為」を掲げ、8.04%まで買い増しを進めたことで、株主総会に向けた動向が注目される。
IIJは日本のインターネットの黎明期から事業を牽引してきたネットワークサービス企業だ。回線とITインフラを一体的に提供できる強みを武器にシステムインテグレーションの大型案件を豊富に獲得しており、2027年3月期通期の営業利益は前期比10.5%増の385億円で連続二桁増益を計画している。今期中に設備投資が一巡(白井データセンター第3期棟が竣工)することもあり、2028年3月期以降は増配を含む資金配分にも余裕が出てくると見込まれる。
KDDI(11.5%保有)という大株主の存在もあり、独立経営と資本効率のバランスをめぐる議論が今後顕在化する可能性はあろう。一方、オアシスはこれまでにも花王やカルビーなど複数の日本企業に対してガバナンス改善や資本政策の見直しを求めてきた実績を持つ。来春発表予定の次期中期経営計画の方向性も注目材料となりそうだ。
ロート製薬<4527>
5月29日終値2381円 配当利回り(予)2.10%
目薬、スキンケアなどの一般用医薬品で強いブランド力を誇る。その同社がイメージを覆す再生医療事業で仕掛けた大型投資が、英アクティビストの標的となった。アセット・バリュー・インベスターズ(AVI)は今年5月、ロート製薬が6月に開く定時株主総会に山田邦雄会長の取締役解任を求める株主提案を提出。「ノウハウのない新規事業領域で過去13年間、150億から300億円の投資を断行したが、いまだ収益化の道筋は示されていない」と指摘し、企業価値の毀損を問題視している。
AVIはロート株の2%を保有する少数株主だが、「資本コスト(投資家が期待するリターンの水準)を意識した経営への転換」を提案内容としている。東証が全上場企業に求める方向性と合致しており、他の株主からの賛同も集まりやすいとみられる。経営陣が再生医療事業の収益化ロードマップを具体的に示せるかが本質的な焦点となりそうだ。
会社側は、人が長く健やかに、そして若々しく生きる「ロンジェビティ」への注力姿勢を示している。関連市場は年平均成長率5.6%で拡大し、2030年には7.7兆ドル(約1100兆円)規模に達すると見込み、事業・研究開発の中核に据えると宣言した。安定収益と再生医療の成長性が有機的に結びつく説明が投資家に届けば、株価が見直される余地が高まるだろう。
ダイキン工業<6367>
5月29日終値23285円 配当利回り(予)1.55%
米エリオットが約3%の株式を取得し、数年間で1兆円規模の自社株買いに加え、営業利益率の改善(現状8%から14%へ)と非中核事業の見直しを求めていることが今年4月に明らかになった。ダイキンでは、エリオットの要求に応える形で3500億円の自社株買い(10年ぶり)と1株あたり360円への増配(前期比20円増)を発表。また2031年3月期を最終年度とする中期経営計画ではROE15%、営業利益率12%を目標に掲げ、現状(ROE9.1%、営業利益率8.3%)からの改善余地を示している。
ダイキンの強みは、空冷と液冷を組み合わせた多様な冷却方式を提案できる技術力だ。生成AIの普及でデータセンター(DC)向け空調需要が世界的に急拡大している恩恵を最も効率的に取り込めるポジショニングにある。2027年3月期の純利益は6期連続最高益となる2780億円を見通す背景だ。
業績が最高潮にある一方、株価は2023年7月の上場来高値(3万1330円)から2割強低い水準で推移している。エリオットが指摘する「企業価値の過小評価」は一定の説得力を持つ。5年間で3兆円を投じる設備投資計画の進捗と、DCビジネスの受注状況が確認できれば、株価の水準訂正が本格化する動きが期待できそうだ。
アクティビストが狙いを定めるものは、「企業が本来持っている価値」と、「現在の株価評価」の隙間に空く「ギャップ」だ。企業がギャップを埋める努力を実行に移せば、株式市場は変化と期待を織り込む動きを見せる。6月の株主総会シーズンを経て、日本企業の変革がどこまで加速するか。日本株市場の長期的な底力を占う試金石となりそうだ。
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