総再生回数2億6000万回超えの料理人YouTuber
フランス在住の料理家・えもじょわさんの新刊『お菓子作り、もっと簡単においしくできる方法を一から考えてみました。-パリ在住料理家のスイーツレシピ-』(パイ インターナショナル)が5月20日に発売され、またたくまにアマゾンのデザート・スイーツ部門で1位になった。ネット上には
「いつも上手く切れなかったので、スポンジの切り方めちゃくちゃ助かります!」
「スプーン1本でこんな素敵に仕上がる!」
「湯せんしながら、卵、泡立てなくてもいいんだ! 簡単!!」
などと、たくさんの感想が投稿されている。
日本に店を持っているわけでもなく、料理番組に出るわけでないえもじょわさんだが、ネット界では大人気の料理家だ。オンライン料理教室「Atelierえもじょわ」を主宰し、料理動画を配信するYouTubeチャンネル「Emojoieえもじょわ」の登録者数245万人。料理動画の総再生回数は2億6000万回超えだという(2026年4月時点)。
そんなえもじょわさんが、昨年出版した『フライパンひとつで毎日、家フレンチ』に続き、1年ぶりに見せてくれたのは、常識にとらわれないお菓子作りの発想だ。
テーマは、前作同様、とても明快。「初心者から経験者まで、誰でも失敗せず、おいしく作れるレシピ」。そのために、これまで“当たり前”とされてきた工程を、一から見直しているのだが、実は、この「初心者から経験者まで」というのもミソだ。
初心者にも経験者にも伝えたい「発想」
初心者向けの、「かんたん」で「失敗しない」、でも「初めてさんなんだから、完璧を目指さなくていいんですよ~」という本は多々ある。また、お菓子作りは職人技と、分量はミリグラム単位の「中上級者向け」のレシピ本も豊富だ。
だが本書が「初心者から経験者まで」と謳う理由は、お菓子作りの「難しい工程」を抜いたり、がんばったりするのではなく、「そもそも難しくならない方法」に変えてしまう発想にある。
たとえばスポンジケーキ。一般的には粉を混ぜる時は、「泡をつぶさないように」が鉄則とされるが、これが初心者には非常に難しい。恐る恐る混ぜていると、いつまで粉っぽさが残り、いつの間にか混ぜすぎている。かといって、プロがやっているように、さくさくと「切るように」を目指すも、そもそも「切る」と「混ぜる」は同時並行できるのか。
だが、えもじょわさんは「泡をつぶさないように気をつけながら、慎重に混ぜる必要はありません」などという。
なぜなら「卵→粉→液体」の順に混ぜていくというセオリーを破り、「卵→液体→粉」という手順で、この問題を解決できたからだ。
「白っぽくなるまで」混ぜなくていい
お菓子作りをしない人からしてみたら、どちらも変わらないように感じられるかもしれないが、「卵→粉→液体」は、教科書であり、決まりであり、当たり前すぎるものだった。そもそも、泡を消さないことが鉄則なのに、その泡に液体をかけたら、消えてしまうじゃないかと。
だが、牛乳と植物油とバニラを合わせた液体を加え、ハンドミキサーで混ぜても、泡は消えなかった。さらに粉を加えたら、50~60回も混ぜていいという。これで、ふっくらきれいなスポンジが焼き上がる。まるで手品のようだ。
パウンドケーキも同様だ。
従来は、やわらかくしたバターに卵を少しずつ加え、分離しないよう丁寧に混ぜる必要があった。しかし、この「分離させない作業」こそ、多くの人が苦戦するところで、卵は事前に室温に戻しておき、バターが「白っぽくなるまで空気を含ませ」、合わせる時は分離しないよう、少しずつ注意深く加えなければならない(それでも、ちょっと油断するとバターの粒粒が生じて、「あ~あ」となる)ものだった。
なのに、本書では、「溶かしバターを使う」という。そして卵は溶かしバターの熱で上がるから、冷蔵庫から出してすぐ使っていい、とさえいう。
注意すべきポイントは省きながら、しっとりと、きめ細かな口どけのパウンドケーキが出来上がる。
これまでお菓子を作ってきた人ほど、「ここを省略していいの?」「ここで泡だて器を使っていいの?」と戸惑うかもしれない。でも、えもじょわさんは「心配しなくて大丈夫」と背中を押してくれる。
スプーン1本でショートケーキ
その説得力は、日本のフランス料理店で10年、フランスのレストランで10年、合計20年の現場経験に加え、まだ、レストラン修業の駆け出しのころにシェフから「自分でやってみたいのがあれば、なんでも作っていいよ」と言われたことから、「お菓子の専門書を買って、片っ端からやってきた」などの蓄積からきていることは間違いない。
フランスで15年間暮らし、伝統には敬意を払いつつ、より合理的で効率的な方法があれば柔軟に取り入れる、フランス人の料理人やパティシエたちとの交流が、えもじょわさんにフランス流の自由な発想と感覚をもたらしたのだろう。
さらにその魅力は、デコレーションにも光る。
手軽に、簡単に、楽しく作れるよう、パレットナイフも絞り袋も使わず、スプーン1本で仕上げたショートケーキは、きっちりきれいに塗れなくても構わない。それでもラフな中に美しさが感じられる仕上がりだ。
お菓子作りの難しさと面倒さをよく知る経験者も、失敗を恐れる初心者も楽しみながら作れる本書より、えもじょわさんがこの記事のために解説を加えた「魔法のスポンジケーキ」と、「スプーン1本ショートケーキ」を紹介する。
失敗なし、必ずふくらむ「魔法のスポンジケーキ」
スポンジケーキは、初心者の方にとって少し難しいお菓子です。薄力粉を混ぜる工程で手間取ったり時間がかかったりすると、泡が消えてしまいスポンジがふくらまず、目の詰まった重い焼き上がりになってしまうからです。
そこで「泡をつぶさないように混ぜる」という難しい工程自体を「泡が消えにくい配合と手順」に変え、誰でも失敗せずにふわふわのスポンジが焼けるレシピを考えました。
泡の状態を気にしながら慎重に混ぜる必要がなくなる上、湯せんしなくても、ボリュームのある泡をたっぷり含んだ生地が作れます。
テクニック要らずで楽に作れる、驚きのレシピです。
材料 直径15cm×高さ6cmのケーキ型(底取れ、共底どちらでも可)1台分
全卵(Lサイズ)…2個(120g)
グラニュー糖(上白糖でも可)…70g
牛乳(水、豆乳でも可)…15g
植物油…10g(大豆、米、ヒマワリ、太白胡麻油など)
バニラペーストまたはバニラオイル(お好みで)…適量
薄力粉…65g
下準備・ポイント
・全卵は120gになるように計量します。全卵Mサイズ2個に卵白を足して120gにして使用することもできます。
・冷蔵庫から取り出した冷たい卵をそのまま使用できます。
・型の底と側面の高さ6cmまでクッキングシートを敷いておきます。
・オーブンを160℃に予熱しておきます。ガスオーブンの場合は150℃が目安です。
作り方
1 小さなボウルに牛乳15g、植物油10g、バニラを入れ、混ぜ合わせておく。グラニュー糖70g、薄力粉65gを計量しておく。
バターは冷蔵温度で固まりスポンジをかたくするので植物油をおすすめします。
2 ボウルに全卵2個(120g)を入れ、ハンドミキサーの高速で2〜3分泡立てる。ボウルを傾けながら、より多くの空気を含ませるように泡立てる。
3 グラニュー糖70gを一度に加え、たらした生地の跡がすぐに消えずに残る状態まで、さらに5分程度しっかりと泡立てる。
4 1で混ぜておいた液体を加え、ハンドミキサーの低速で約30秒混ぜてなじませる。
5 薄力粉65gをふるい入れ、ゴムベラを大きく動かして混ぜ合わせる。粉っぽさがなくなりツヤが出るまで50〜60回しっかり混ぜる。混ぜ終わったらゴムベラに付いている生地をボウルの縁でこそげ落として全体になじませる。
6 準備しておいた型に生地を細くたらしながら流し入れ、平らにならす。
細く流し入れると生地が伸びて、大きな気泡を自然に消すことができます。竹串で混ぜる作業も必要なくなります。
7 160℃のオーブンで約38分焼く。
8 オーブンから取り出し、型ごと作業台に1〜2回落としてショックを与えて焼き縮みを防止し、すぐに型から外す。
9 クッキングシートはつけたまま、乾燥しないように布巾をかけてケーキクーラーの上で20分冷ます。
底取れ型ではない共底型の場合は、ケーキクーラーの上に逆さまにして取り出し、すぐに表に返して冷まします。
10 粗熱がとれたら、クッキングシートを外し、全体をラップでぴったりと包んで保存する。
「魔法のスポンジケーキ」が「しっかり混ぜても必ずふくらむ」理由
【なぜ湯せんなし、砂糖なしで泡立てるの?】
湯せんで卵液を人肌まで温めると、たしかに泡立ちは早くなりますが、準備だけで5分はかかります。その5分があれば、冷たい卵をハンドミキサーで泡立てるには十分。家庭で作る1台分のスポンジなら、湯せんなしの方が早く仕上がります。
砂糖は気泡を安定させますが、泡立ちを遅くする性質もあります。最初から砂糖を入れると空気を含ませるのに時間がかかってしまいます(メレンゲを作るときに砂糖を3回に分けて加えるのも、同じ理由です)。砂糖を入れる前にたくさんの粗い泡を作っておき、そのあとに砂糖を一度に加えると、短時間で一気にきめ細かな泡に変わります。この粗い泡が、最短で泡立てる近道なのです。
【常識を覆す「粉の前に液体」】
「薄力粉を加える前に液体を入れる」。従来の作り方とは逆のこの手順こそが、最大のポイントです。全卵の泡は乳化物なので、油分を加えても壊れず安定します。むしろ先に液体を加えることで、そのあとに加える薄力粉がスムーズになじみます。粉合わせが短時間ででき、手順も減るので、多くの気泡を残したまま焼き上げることができます。
スプーン1本ショートケーキ
回転台やパレットナイフなどの専用の道具を使わなくても作れるショートケーキです。まっすぐ切るのが難しいスポンジのスライスは、クッキングシートを定規代わりに。パレットナイフでのナッペ(クリームを塗る作業)は一切なし、スプーンの背でペタペタと塗ってラフに仕上げます。
材料(直径15cmのケーキ型 1台分)
スポンジケーキ…1台
ホイップクリーム 生クリーム(乳脂肪分40〜42%・植物性でも可)…350g
グラニュー糖(上白糖でも可)…30g
飾り・サンド用 いちご…15〜20粒(約300g)
〇いちごは洗って水気をふき取り、飾り用に形がいいものを取り分け、一部を切っておき、サンド用は5〜10mmの厚さに切っておきます。ナッペなしケーキの場合は、縦半分に切っておきます。
〇ナッペなしケーキの場合は、生クリーム200g、グラニュー糖17gに置き換えます。
〇塗りやすさとおいしさを両立させるなら、植物性ホイップクリームと純生クリーム(乳脂肪分40〜42%)を半量ずつ混ぜて使いましょう。
作り方
1 スポンジケーキを3枚にスライスする。焼き色がついた面(スポンジ上部)は切り取っても、そのまま残しても構わない。
2 ボウルに生クリームとグラニュー糖を入れ、ボウルの底を氷水に当てながら泡立てる。すくうとツノがピンと立つくらいの8分立てにする。
3 1枚目のスポンジにスプーンでクリームを塗り、スライスしたいちごを並べ、その上にさらにクリームをのせて平らにならし、隙間を埋める。
4 2枚目のスポンジを重ねて軽く押し、同様にクリームを塗り、いちごを並べ、さらにクリームを塗る。
5 3枚目のスポンジを重ねて軽く押し、クリームを上面にのせ、スプーンの背で平らに塗り広げる。
6 側面にスプーンの背でクリームを1cmの厚さに塗る。
7 クリームを全体に塗ったら、スプーンの背を側面に軽く当てて、下から上に向かってスッと動かし、縦の筋模様をつける。同じように上面に、外側から中心に向かって模様をつける。
8 いちごをのせ、残りのクリームをスプーンで大きくすくい、ケーキの上にそっと置くように盛りつける。クリームがかたすぎて盛りつけにくい場合は、生クリーム小さじ1(分量外)を加えて混ぜ、やわらかく整えてから盛りつける。
9 冷蔵庫で2時間以上冷やし、クリームが冷えて固まってからお湯で温めた包丁でカットする。
【ナッペなしの場合】
3’ 1枚目のスポンジに、縦半分に切ったいちごを並べ、上にクリームをのせる。2枚目のスポンジを重ねて、同じようにいちごを並べ、クリームを塗る。
4’ 3枚目のスポンジを重ね、スプーンでクリームを広げる。
5’ 飾り用のいちごを盛りつける。冷蔵庫で2時間以上冷やし、クリームが冷えて固まってからお湯で温めた包丁でカットする。