クルージング文化は日本でもどんどん浸透しつつある。そう実感できたイベントもありました。“終わってみれば大きく黒字だった”と、プラスイメージで昨年10月に閉幕した関西・大阪万博。
そこで大盛況だったのが、脚本家であり放送作家の小山薫堂(こやま・くんどう)さんがプロデュースする“食を通して、いのちを考える”シグネチャーパビリオン「EARTH MART(アースマート)」でした。そのクロージングイベント「EARTH MART FORUM(アースマート・フォーラム)」(以下、EMF)が、なんと1泊2日で全長241m、客室数436(全室海側)の豪華クルーズ船「飛鳥Ⅱ」を借り切って行われたのです!
海から見る大屋根リングに感動
プロデューサーの小山さんいわく、EMFの主旨は、「料理人、生産者、研究者、経営者、投資家……食という同じ世界に関わりながら、これまであまり交わることのなかった多様な皆さまを、客船・飛鳥Ⅱにお招きし、食の未来について語り明かしていただきます」というもの。大阪港・天保山客船ターミナルから乗船した約250名の招待客らを乗せ、昼の12時に飛鳥Ⅱは出航した。
甲板に立つと、進行方向右手に夢洲(ゆめしま)の万博会場が見えてきた(上写真)。海から木製の大屋根リングを眺めるなんて、クルージングならではの体験だ。早くも気分が高まる。
船内は上写真のようにすっかりEMF仕様になっていて、これも気分をアゲてくれる。部屋に入ると、なんと専用のバルコニーつきで感激(下写真)!
ベッド上にはうれしいサプライズ。EMFオリジナルのノートとペン、エコバッグにエプロン。ここでいろんな人と交流して名前などをメモし、家に帰ったら、ここでの経験を活かして料理でもしてほしい、ということのようだ。
“食の未来を輝かせる25人”が結集
そして、11デッキにある「リドカフェ&リドガーデン」に向かい、EMF内で表彰される料理人や生産者、研究者たち「食の未来を輝かせる25人」が提供する食材や、全国から集められた“ご当地食材”による、この日だけの特別ランチビュッフェをいただいた。
群馬の養殖ニジマス「ギンヒカリ」、愛媛県の「みかん鯛」、最先端ゲノム編集技術による「22世紀のふぐ刺し」、岡山県の陸上養殖魚「おかやま理大タマカイ」や、「見守る海 牡蠣水寒天ゼリー」などなど、どれも初めて口にするものばかり。野菜スティックにつけた100%植物性の「酒粕発酵スパイシーマヨネーズ」も、パンに塗った「UNI&岩手産バターSPREAD」も、そのまま食べても主役級の味わいだった。
オープニングイベント&表彰式の後には、この日のメインコンテンツのひとつ、上写真の25人によるトークセッション「食の未来会議」が、4つの会場に分かれて各第1部〜第3部まで、計12本開催された(下写真)。つまり同じ時間帯に4つのセッションがあるわけで、どれを選ぶのか、ゲストたちはプログラムとにらめっこしながら、会場を行き来していた。
中田英寿が選んだ日本酒の大盤振る舞い。
そして日が沈みかけるころ、11デッキのプールサイドで「未来を輝かせる5つの酒蔵による日本酒アペリティフ」が始まった。元サッカー日本代表の中田英寿さんが全国500以上の酒蔵をめぐって厳選した5つの蔵の、銘酒各3種を乗船客全員にふるまうという、なんとも豪気なイベントだ。
有名な秋田「新政(あらまさ)」の新政酒造、三重県で「而今(じこん)」を醸(かも)す木屋正酒造、栃木県の銘酒「仙禽(せんきん)」の仙禽、熊本県「産土(うぶすな)」の花の香酒造、そして京都府「日日(にちにち)」の日々醸造と、いずれ劣らぬ超人気の蔵が、ポップアップテントを並べる姿は、まさに壮観!
こんな機会は二度とないと、各蔵自慢の銘柄を全種いただいた。どれも旨みにあふれながらも口当たりがよく……ほんの少しずつとはいっても、計15杯。すっかりいい気分になってしまった。
なんて言ってるうちに、ディナー開始の19時。「ああ、日本酒っていいなあ」なんてつぶやきながら、会場の5デッキ「フォーシーズン・ダイニングルーム」に向かう。席は“くじ引き”で決まるという趣向。これまで会ったことのなかった人たちとテーブルを囲み、大いに話し、つながりを持って! ということらしい。
グランプリ受賞料理人6人が競演したディナー。
この夜のメニューは、“若き才能を発掘する日本最大級の料理人コンペティション”「RED U-35」で過去にグランプリを受賞した6人が集結、落合シェフ監修のもとで構成されたスペシャルディナー。くじ引きの結果、私が座った窓際のテーブルには、上記の而今・大西社長や銀行の頭取、イタリアンのオーナーシェフ、食品会社社長など、これまたスペシャルな面々が6名も。最初は少し緊張しつつ、いつの間にか大声で語り、笑いながら以下の珠玉の料理をいただいた。
平原綾香の「ジュピター」が瀬戸内海に響く!
夢のようなディナーが終わると、21時からはまたプールサイドに皆が集まっての「観月会」=アフターパーティが始まった。少し雲が多かったこの夜、船首方向に浮かぶ、先ほどのデザートのような薄月を眺めながら、また5つの酒蔵の日本酒をいただく。そしてサプライズで、2つのスペシャルライブが! なんとも盛りだくさんの夜は、こうして更けてゆくのだった。
翌朝。あれだけ飲んで、いろんな初対面の人びと、久々に再会した人たちと話しまくったのに、日の出前にスッキリ目覚めた。よい食べ物と酒は、やっぱり心身によいのだ。
7時過ぎ、「白飯のための朝ご飯」をいただくため、またフォーシーズンズ・ダイニングルームに向かう。今朝は、案内された窓際の4人掛けテーブルを、ひとりでぜいたくにつかう。優雅だ。
ダイニングの中央には、東京ソラマチにある「立ち喰い梅干し屋」のポップアップ・ビュッフェが(上写真)。三年梅、はちみつ梅、こんぶ梅、すっぱい梅、焼き梅など、日本各地のさまざまな味を楽しめる梅干し10種が並べられている。そのなかから、オススメの3種をテーブルに持ち帰った。
朝食セット(上写真)のメインは、静岡・焼津市「サスエ前田魚店」五代目店主・前田尚毅さんが、丁寧に天日干しした自家製イワシの干物と、新潟・南魚沼市「里山十帖」料理長・桑木野恵子さんが、春に保存した山菜と秋の根菜を合わせて朝食用に仕立てた「山菜汁」。しみじみ旨い。これに、創業85年の京都「西利」の京つけもの──しば漬、すぐき、千枚漬の京都三大伝統漬物や、ゆず味噌ゴボウ、胡瓜(きゅうり)のぬか漬(浅漬&古漬)などが加わり、そしてさっきの梅干しがあるのだから、白飯のおかわりも仕方のないところだ。満腹、満腹! さすがは“食”のEMFだ。
そしてクロージングセレモニーを経て、飛鳥Ⅱは神戸港・中央突堤旅客ターミナルに入港した。さっきまでときにアツく、ときに笑顔で語り合っていた、さまざまな世界で活躍する人たちが次々と下船していく。
きっと近い将来、このEMFでの出会いが、あらたな“サステナブルな食”への取り組み、パートナーシップを生み出すに違いない。
Text&Photo:舩川輝樹(FRaU編集長)