マイホームを購入するなら、当然、ある程度の自己資金が必要だと思うだろう。ところが、印紙代すら用意できない客に「優秀な営業マン」はニッコリ対応するという……。元住宅営業マンで、著書に『住宅業界ぶっちゃけ話』がある屋敷康蔵氏が、誰も書けなかった住宅業界の闇を暴露する。
自己資金はどのくらい用意すべきか?
住宅を購入する際、みなさんは一般的に、どの程度の自己資金を準備しておくべきか考えたことがあるだろうか? 当然、銀行からお金を借りるということは「金利」がかかるので、自己資金投入が多ければ多いほど、借入額が少なければ少ないに越したことがない。
お客さまの多くは、もちろんそんなことはわかっているが、「住宅」という高額商品だから、現実、なかなかそういうわけにもいかず、多かれ少なかれ、大多数の方が「住宅ローン」を利用するのが現実である。
理想としては、住宅購入の際の自己資金は住宅以外にかかる諸費用分も含めて、総費用の30%程度は自己資金を投入することが望ましいといわれている。
ちなみに住宅購入時にかかる諸経費とは、住宅メーカーに支払うお金以外にあたるもの……銀行に払う手数料や保証料、登記の際に司法書士に支払う登記費用や火災保険料、印紙代等、住宅そのものにかかるお金以外にも、かなりの費用が必要となる。
実際、金融機関にもよるが、基本的に諸費用分程度は自己資金でまかなうことを基本的な考え方としている。
たとえば、その30%にあたる金額が預金残高として持ち合わせているか等の確認や、住宅ローンの融資対象は建築費のみで、諸費用は組み込めない場合もある。
お金がなくても家は建てられる?
もちろん自己資金投入ということに対して明確に定義されているものではないが、住宅という高額なものを購入するにあたっては、最低限の資金的余裕を持ってもらいたいというのが、住宅メーカーや銀行の共通認識であり、常識ともいえる。
しかし、そんな常識を打ち破る強者のお客さまが集まるのが、ローコスト住宅メーカーである。実際、ローコスト住宅メーカー側も、そんなお客さまに対して撒き餌のように「20代で建てる家」だの「20代で家を持とう」といったキャッチフレーズで集客する。
聞こえはいいが、言い方を変えれば、「お金がなくても家を建てちゃいましょう」といっているようなものだ。
ただ本当にお金のないお客さまを相手にすることで、住宅営業マンはさまざまな困難に直面することがある。
たとえば……契約時の契約金(契約時に住宅メーカーに支払う内金のようなもので、住宅メーカーにもよるが、通常、契約金額の数%、私の在籍していた住宅メーカーでは基本100万円だが、稟議申請で最低10万円も可能)がない、契約金どころか印紙代(現在は電子契約になっているところもあり、その場合、印紙代は不要)の1万円がない、市町村に支払う水道加入金がない(更地の場合、着工前に仮設水道を設置しなくてはならないので、市町村により異なるが、7万~10万円ほどかかる)という緊急事態が発生する。
「お金がないお客さま」が陥るワナ
ただ、これも契約前の見積もり提示の段階でキッチリ説明はしているはずなのだが、お金のないお客さまは、本当にこういったお金を持ち合わせていない。「ないものはない」のである。
ちなみに、こういうお客さまは打ち合わせの段階から危険な匂いはプンプンしている。風船に囲まれた打ち合わせテーブルでゆったりコーヒーをすすりながら、頭のなかは「夢」と「希望」でいっぱいで、危険を予測する脳内スペースは残っていない。
住宅営業マンが諸費用やローン返済シミュレーションを説明しても、「心ここにあらず」といった感じで、頭のなかでは間取りや住宅の外観、そこに住む自分たちの妄想等、別のことを考えていることが多い。
ただ、これも人間の脳の特性上、しかたないことでもあるのかもしれない。「確証バイアス」というやつである。
要は人間というのは、自分が欲している情報、願望を強化するものばかりに目が行ってしまい、それに反する情報は軽視したり無視したりし、目に入ってこなくなるというものだ。
いい例がインターネットの世界である。興味を持って検索すると本人のパソコンには以降もその関連の情報ばかりが次々と表示されてくるのは、いまや誰もがご存じのことだろう。
「優秀な営業マン」はそれでも…
これはもう、世の中自体がそうなっているのだから、しかたのないこともあるのかもしれない。住宅業界もお客さまの不安要素を徹底的に「見せない、聞かせない」ようにして契約まで持っていく。ある意味、住宅業界も、この「確証バイアス」を悪用しているともいえよう。
ただ、ただしかしである……契約時の印紙代がないなんて話になると「確証バイアス」の次元の話ではない。もうこのクラスになると、「35年ローン、35年金欠」確定である。
たしかに新築住宅の場合、無理して購入しても、新しいうちは目の前にあるきれいなキッチン、最新式のユニットバス、きれいで広いリビング等が家計の圧迫ラインや現実をなんとなくぼかしてくれることだろう。たとえ住宅ローンが厳しくても、庭でバーベキューする子どもたちの笑顔は本物であることに間違いないのだから。
堅実なお客さまからすれば信じられない話に聞こえるかもしれないが、実際に契約時に住宅メーカーに支払う最低10万円のお金を、「親戚に借りるので待ってほしい」「給料出たらじゃダメですか?」なんてお客さまは、そうめずらしくないのだ。
本当にそのお客さまたちのことを考えている営業マンなら、「おいおい、やめとけよ」というべきなのだろうが、優秀な住宅営業マンは、決してそんなことはいわない。「はい、そうですか。相談に乗りますよ」とそこはニッコリするだけである。
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