日本のアパレル界に絶対王者として君臨するユニクロと、それを猛追する中国発のECプラットフォーム、SHEIN(シーイン)とTemu(テム)。
前編記事『ユニクロが逆立ちしても真似できない…中国EC「SHEIN・Temu」が欧州の小包シェアを40%に急増させた《ヤバすぎる戦略》』では、中国系ECが、移民ネットワークという「アナログな力」を武器に、既存の市場をどう切り崩しているのかを見てきた。
中国系ECが、各国のルールのすき間を縫うように動く「アリ」だとすれば、それを迎え撃つファーストリテイリング、つまりユニクロは、盤石な収益構造を持つ「巨象」といえる。
実際、その存在感は数字にも表れている。
ユニクロを展開するファーストリテイリング(9983)は、2026年8月期上期決算で、売上収益2兆552億円、事業利益3869億円、親会社の所有者に帰属する中間利益2792億円を計上した。
上期としては過去最高の業績であり、ユニクロ事業は国内外すべての地域で増収増益となった。円安や地政学リスク、中国系ECの台頭など、アパレル業界を取り巻く環境は決して穏やかではない。それでも、同社の勢いはなお衰えていない。
日経平均株価を支える代表的な大型株としても存在感を放つファーストリテイリングは、なぜここまで「負けにくい」のか。
今回は、トレーダーであり投資家でもある窪田剛氏の視点から、ユニクロ株が日本を代表する“最強格の銘柄”と見られる理由、そして不透明な世界情勢のなかで、同社がどのように生き残ろうとしているのかを読み解いていく。
32年で約200倍、ユニクロ株の異常な強さ
ファーストリテイリングが広島証券取引所に上場したのは、1994年7月のことだ。その後、1997年に東京証券取引所市場第二部へ上場し、1999年には東証一部銘柄に指定替え。現在は東証プライム市場に上場している。
「失われた30年」と言われた日本経済のなかで、ファーストリテイリングの歩みは、数少ない成功例として語られてきた。
「1994年の上場以来、ITバブル期の上昇と調整、リーマン・ショック、コロナ禍などを経ながらも、長い目で見れば株価は大きく上昇してきました。公募価格ベースで見れば、現在の株価は200倍を超える水準にあります。長期で持ち続けていた投資家にとっては、大きな資産形成につながった銘柄だと言えます」(窪田氏、以下「」も)
もちろん、株価は一直線に上がってきたわけではない。フリースブーム後の調整局面もあれば、海外展開への不安が意識された時期もあった。それでも同社は、国内アパレル企業の枠を超え、世界で稼ぐ小売企業へと変化してきた。
「かつてユニクロ株については、日銀によるETF買い入れの恩恵を受けすぎている、いわゆる『官製相場』ではないかという見方もありました。ですが、日銀は2024年3月にETFおよびJ-REITの新規買い入れを終了し、2025年9月には保有ETFを年間3300億円程度のペースで売却する方針も決めています」
つまり、いまのユニクロ株は、日銀という外部の支えだけで語れる銘柄ではない。むしろ、世界で稼ぎ続ける企業としての実力そのものが、市場から評価されている段階に入っている。
最低でも700万円必要。買いにくいからこそ強い
一方で、個人投資家にとってユニクロ株は、簡単に手を出せる銘柄ではない。
株価が7万円前後で推移する現在の局面では、最低単元である100株を買うだけでも、700万円前後の資金が必要になる。東証上場銘柄のなかでも、かなり高い投資資金が必要な値がさ株の代表格だ。
「最大のハードルは、一度の取引に700万円前後の資金が必要になることです。これだけの金額になると、一般的な個人投資家が気軽に買える銘柄ではありません。ただ、見方を変えれば、それが短期的なニュースに振り回される投機マネーを入りにくくする役割も果たしています」
最低投資額が高いことは、個人投資家にとっては大きなハードルになる。しかし同時に、短期売買を目的とした資金が入りにくくなるという側面もある。
「その結果、腰を据えた機関投資家や富裕層が中心となり、比較的安定した株価形成につながっていると言えます。ユニクロ株は、派手な材料で短期的に買われる銘柄というより、世界で稼ぎ続ける力を評価した投資家が、長期保有する銘柄になっているのでしょう」
また、窪田氏によれば、ユニクロは競合他社と比較して、円安を利益の押し上げ要因に変えられる構造を持っているという。
実際、2026年8月期上期の海外ユニクロ事業は、売上収益1兆2413億円、事業利益2330億円と大きく伸びている。国内ユニクロ事業の売上収益5817億円と比べても、海外事業の存在感はすでにかなり大きい。
「ユニクロは、ZARAやH&Mといった世界的な企業と戦うなかで、『トレンドを追いかけすぎない』という独自のLifeWear戦略を築いてきました。欧米やアジアの主要都市で売上を伸ばし、外貨を稼ぐ仕組みができているからこそ、国内の物価上昇や為替変動に振り回されにくいのです」
円安は、多くの国内企業にとって仕入れコストの上昇要因になる。輸入品の価格が上がれば、その分だけ利益は圧迫されやすい。
ところが、海外で稼ぐ力を持つ企業にとっては、必ずしも逆風とは限らない。海外で得た利益を円に換算した際、円安によって金額が押し上げられるためだ。
もちろん、ユニクロも円安のマイナスを完全に免れているわけではない。国内事業では調達コストの上昇という逆風もある。それでも、海外で大きく稼ぐ構造があるからこそ、円安を一方的な逆風ではなく、利益を押し上げる要素にも変えられるのだ。
ここに、国内小売企業でありながら、実態としてはグローバル企業であるユニクロの強さがある。
なぜ有事にユニクロ株が買われるのか
ただ、海外売上の比率が高いユニクロにとって、地政学リスクは投資家の不安材料になりやすい。中国、欧州、米国、中東などで政治的な緊張が高まれば、「ユニクロの業績にも悪影響が出るのではないか」と市場は反応する。
ただし窪田氏は、こうしたニュースの見出しだけに振り回されることには注意が必要だと話す。
「リスクが発生した直後、市場はどうしても過剰に反応します。ただ、過去を振り返ると、1〜2ヶ月ほど経てば、株価は実態に近い水準へ戻っていくことが多い。むしろ、こうした局面で重要になるのが、海外の大きなファンドによる機械的な買いです」
円安が進むと、外貨建てで資産を管理している海外ファンドは、日本株の保有比率を調整する必要が出てくる。その際、日本を代表する大型株であるユニクロ株が、機械的に買い増されることがある。
つまり、業績そのものとは別に、資金の流れによって株価が下支えされる面もあるのだ。
「円という通貨で現金を持っているよりも、ユニクロの株を持っているほうが、自分の資産を守れるのではないか。今、そう考える投資家が増えているように思います」と分析する窪田氏。
日本企業がユニクロに学ぶべきこと
窪田氏のこの言葉は、現在の日本市場におけるユニクロの立ち位置をよく表している。日本経済の縮小が懸念されるなかで、世界で稼ぎ、円安を追い風にしながら成長できる企業は限られている。そのなかでユニクロは、投資家から“選ばれる資産”になりつつあるとか。
象徴的なのが、ソフトバンクグループ(9984)との関係だ。ファーストリテイリングの証券コードは9983、ソフトバンクグループは9984——。
柳井正氏は、かつてソフトバンクの株主総会で「ファーストリテイリングの証券コードが9983で、ソフトバンクは9984。唯一、ソフトバンクよりもファーストリテイリングの優れているところ」と冗談めかして語っている。
冗談めいた一言ではあるが、そこには両社が日本市場で築いてきた存在感の大きさも表れている。柳井氏と孫正義氏は、ともに日本を代表する創業経営者でありながら、異なる道筋で日本最高峰の企業価値にまで押し上げてきた存在でもある。
不安定な為替、地政学リスク、国内市場の縮小。逆風は少なくない。それでもユニクロは、世界で稼ぐ力とブランドへの信頼を武器に、投資家から選ばれ続けているのだ。
この日本を代表する銘柄が、これからどのような軌跡を描くのか。
その株価チャートは、日本企業が世界で生き残るための「一つの答え」を映し出しているのかもしれない。
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