強豪イングランド相手に完勝
6月開幕のW杯を目指すサッカー日本代表は、3月に行われた英国遠征でスコットランドとイングランドを相手に、いずれも1対0で勝利した。
とくにイングランドはFIFAランキングで4位。W杯でも優勝候補の一角に挙げられる強豪だ。しかも、会場はイングランド・サッカーの「聖地」ウェンブリー・スタジアム。8万人近くの観衆が入った完全アウェー状態での勝利だった。
さらに、スコアは1対0だったが、内容的にも日本の完勝だった。
イングランドは強豪国だけあって、日本が前からプレッシャーをかけてもパスをつなぐ技術が高く、ボール保持率ではイングランドが上回った。だが、日本が組織的に守備をしてイングランドの攻撃を完封。
逆に日本はカウンターから何度かチャンスを作り、23分には中盤で奪ったボールを三笘薫がドリブルで前進。スルーパスで左サイドの中村敬斗を走らせ、中村からのクロスをフリーになった三笘がゴールに流し込んで先制した。
個人技と組織力が合わさった美しいゴールだった。
その後、何度かあったチャンスで追加点こそ奪えなかったものの、終盤のイングランドの高さを生かした攻撃をしのぎ切って勝利に結びつけた。
欧州勢相手には無敗を継続
カタールW杯でドイツとスペインを破った日本は、その後、2023年の親善試合で再びドイツを破ると、昨年10月にはブラジル。そして今回のイングランドとW杯優勝経験国を相次いで破り、欧州勢相手には無敗のままだ。
森保一監督はじめ日本代表選手たちは「W杯で優勝を目指す」と公言している。最近の戦績を見ると、たしかにどんな相手と戦っても勝てるだけの力を付けているのが分かる。
欧州クラブで活躍するDF陣は長身選手の相手の空中戦でも互角に戦えるし、イタリアで活躍するGKの鈴木彩艶は英国遠征で何度も素晴らしいセービングで日本代表を救った。選手が交代しても、同じように戦えるのも強みの一つだ。
日本のFIFAランキングは18位だが、これは過去の戦績のポイントを積算した数字であり、現在の戦力としては日本の位置はもう少し上のはずだ。
親善試合で結果を出し続けているうえに、森保一監督以下選手たちが口をそろえて「優勝が目標」と言っているので、サッカーに詳しくない人たちは「優勝の可能性が高い」と錯覚してしまうかもしれない。
しかし、48か国が参加して行われるW杯で優勝するというのは大変に難しいことなのだ。
W杯優勝の確率
ここで、簡単な思考実験をしてみよう。
仮定は二つ。
まず、日本がグループリーグを突破する確率を80%とする。
前回大会まではグループリーグを突破するとベスト16進出で、あとはトーナメントで4つ勝てば優勝だった。だが、今回は32か国がグループリーグを突破するので、そこからラウンド32(決勝トーナメント1回戦)、ラウンド16、準々決勝、準決勝、決勝と、5試合勝たないと優勝できないのだ。
第二の仮定は、決勝トーナメントではどこが相手でも勝利の確率はすべて50%とする。
決勝トーナメント進出の可能性が80%でラウンド32からは勝敗の確率が50%だから、勝ち進む確率は80%から40%、20%……と減っていく。計算してみると、5試合を勝ち抜いて優勝する確率は2.5%となるはずだ。
「どこと戦っても勝率50%」は楽観的
「リーグ突破が80%」という仮定は妥当なものだ。2位以内でなくても今回大会では3位のうち成績上位の8チームも決勝トーナメントに進むことができる。かなり「広き門」なのだ。
しかし、「決勝トーナメントでどこと戦っても勝率が50%」というのは、ちょっと甘い数字だ。
3月にはW杯進出を決めている国同士の親善試合やW杯予選のプレーオフなどが、世界各地で行われた。
各国の試合の映像をチェックしてみると、FIFAランキングで最上位のフランス、スペイン、アルゼンチンなどは明らかに強かった。
たとえば、前回優勝のアルゼンチンはイラン情勢の影響で遠征ができず、モーリタニア、ザンビアといった格下相手だったが、パスの正確性やスピード、そしてまったく無駄のないボールタッチなどには目を見張るものがあった。
日本も、こうしたランキング上位と対戦すれば、攻め込まれる時間が長くなるのは必定。4位のイングランドに勝てたのだから勝てないことはないが、「どんな相手と戦っても勝率50%」という仮定は楽観的過ぎる。
そうなると、日本が優勝する確率は2%以下となってしまう……。
上位国だって優勝が難しいのは同じだ。たとえば、FIFAランキングトップのフランスだって、グループリーグ突破の確率は100%ではないだろうし、決勝トーナメントでは強豪との対戦の連続となるので、各試合の勝率はせいぜい70%。決勝トーナメント進出を90%と仮定して計算してみると5試合を勝ち抜いて優勝する確率は約15%となる。
W杯優勝というのはそれくらい難しいことなのだ。
ラウンド32がヤマ場
日本代表がオランダ、チュニジア、スウェーデンと戦ってF組を勝ち抜くと、1位突破だった場合はラウンド32ではC組2位と、2位通過の場合はC組1位と対戦することになる。そして、C組からはブラジル、モロッコが勝ち抜いてくる可能性が高い。
ブラジルは、言わずと知れたW杯5度優勝のサッカー王国。2002年日韓大会以来優勝から遠ざかっており、昨年は日本が勝利しているとはいえ、世界的な強豪であることに変わりない。
一方、モロッコは前回2022年大会でベスト4入りして、旋風を巻き起こした国。2030年の次期W杯の共同開催国として、その後も強化に力を入れており、昨年は20歳以下のW杯で優勝している。勢いのある国だ。
つまり、日本はラウンド32ではいずれにしても強敵と当たるわけだ。
ちなみに、3位で通過した場合はベスト32進出国がすべて決まるまで対戦相手は確定しないが、I組1位との対戦となる公算が大きい。そして、そのI組にはFIFAランキングトップのフランスがいるのだ……。
つまり、まずラウンド32がヤマ場となるのだ。「優勝」を目指すというのがいかに難しいことなのか、それは理解しておく必要がある。
4年前のカタール大会でドイツ、スペインに勝ったといっても、相手の決定力不足に助けられた勝利だったし、当時、強豪国は日本のことを見下して油断していた。
それから4年で日本の戦力は数段上がった。そして、今では強豪国も日本を警戒しているはず。
だが、それでも、どんな相手とも互角の戦いができることを証明してほしい。それができさえすれば、今大会での優勝が叶わなくても、4年後あるいは8年後につながるはずだ。