「バレンタインは自分用のチョコを買う人が多いですが、バレンタインにドキドキした青春時代を過ごした40代以上が、チョコレートをもらい、恋が生まれ、浮気に発展することもあるのです」と語るのは、探偵の山村佳子さん。横浜のリッツ探偵事務所の代表だ。
実家への帰省など、家族に向き合うことが多いGW。そこで、山村佳子さん連載「探偵が見た家族の肖像」「探偵はカウンセラー」より、テーマに合わせてGWスペシャルとして事例を紹介していく。第1回のテーマは「家庭内格差」だ。
今回紹介しているのは、40代ではあるが「結婚記念日や誕生日、バレンタインやクリスマスといった記念日に何かをすることは好きではない」と語る44歳の裕子さん。数回の転職を経て外資系の企業に入社した頑張り屋のキャリア女性だ。結婚して10年になる夫の浮気の疑惑を抱いて相談にきた。年収は夫の4倍だという。
前編「外資勤務で夫の収入4倍、44歳妻が「立派に育てた」冴えなかった夫の反乱に気づくまで」では、裕子さんと同じ年の夫とのこれまでをご紹介したが、裕子さん夫婦は完全に裕子さんの収入で生活をしており、裕子さんは優しいけれど地味な夫を支えてきたという。しかし1年前の2月半ばから、夫の様子がおかしい。外泊や妻の海外出張時に家にいない気配があるというのだ。
夫の包容力と堅実さ、誠実さに惹かれた
外資系の会社に勤務する44歳の裕子さんが、教育関連会に3年前に転職した同じ年の夫の浮気調査依頼に至る背景を振り返ります。
夫妻は10年前に友人の飲み会で知り合い、裕子さんからアプローチをする形で結婚。裕子さんは就職氷河期に社会に出て、転職を繰り返し、キャリアを積み上げていって現在勤務する会社に採用されて高給が約束されたばかりの頃でした。
同じ年の夫はシナリオライターを夢見ながら、非正規の区役所職員として勤務。当時の手取り給料は15万円で、奨学金を返済した残額、10万円で生活していたそうです。夫の包容力と堅実さや誠実さに惹かれた裕子さんは、一生のパートナーだと思い結婚。すぐに東京23区内にマンションの購入もします。収入が低い夫は裕子さんの経済力に感謝し、そのまま生活費全額を裕子さんが負担する結婚生活が始まります。夫はその代わり、家事を引き受けて、裕子さんをマッサージしたり、夜の生活を工夫をしたりする生活を続けていました。
夫の転機は41歳の時。夫の母が死去したことを機に、シナリオライターを諦め、友人の紹介で教育関連会社に正社員として就職。職種は営業なので、裕子さんは自ら夫にコーチングしスーツまで購入します。さらにヘアサロンの育毛スパや歯のホワイトニングなどを夫に受けさせ、夫はそれなりにいい成績を残しつつ、仕事に励みます。夫の収入が増えたら「今までありがとう」とお金を出してくることを期待していました。
しかし、その気配は全くなく、それどころか昨年の2月半ばから、家事に手を抜き、夜の生活も雑になり、裕子さんが改善を要求すると「俺だって疲れている」と背中を向けるように。決定的だったのは同じ年の11月末に行われた夫の母の法事に来なかったことこれまでずっとおかしいと思いながらも、浮気疑惑を先送りしていましたが、疑惑を解明するために、調査を依頼。もし本当に浮気をしているのならお金を返してもらうと強い口調で語っていました。
真相究明をするために、張り込みを始めました。
妻が海外出張に行く5日間
狙ったのは、裕子さんが海外出張に行く木〜日曜日の5日間です。浮気をしている人は、配偶者が家にいない日に、デートをする。金曜日の朝から裕子さんのマンション前で張り込み、朝8時半に出勤する夫を待ちました。
エントランスから出てきた夫は、裕子さんの指導もあり、年齢にしては若く見える容姿をしています。ぽっちゃりしていたという体型はジム通いで引き締まり、毛量も多い。スーツにネイビーのダウンを合わせており、優しい雰囲気を漂わせています。
都心のオフィスビルに入るところを確認し、私たちは待機。交代でロビーに座ったり、カフェに行ったりしているうちに、19時に夫は出てきて、電車に乗り、ある繁華街のファーストフード店へ。そこでロングヘアの30代後半と思しき女性と待ち合わせをしていました。
女性との関係は…
この女性は、身につけているものも年季が入っており、バッグは角が擦れている。華やかな裕子さんとはだいぶタイプが異なります。ロングヘアもセットをしているというよりは伸ばしっぱなし。
2人はクーポンを使って、ポテト付きのセットをそれぞれ注文。コーラを飲みながら2時間ほど楽しそうに話しています。明るいところで見ると、女性は夫より年上のようでした。ロングヘアには白髪が混じっており、シェイプアップしている感じではありません。
会話の内容から、夫と女性はシナリオライタースクールで親しくしていた仲間らしく、女性は早々に夢を諦めていることがわかりました。女性は実家に住みながら近くのコンビニでアルバイトをしつつ、小学校の臨時採用の先生をしているようです。
女性は子供に勉強を教えることを生きがいのように感じているようで、「こんなにドラマ以上のドラマがあるとは思わなかったよ」などと笑っている。2人の話題は尽きないようで、夫は心から楽しそうに笑っており、その笑顔は魅力的でした。ここを裕子さんは好きになったんだろうなと感じます。
2人はそのまま別れ、女性は私鉄に乗り各駅停車しか停まらない駅で下車。そこからバスに乗り、さらに歩いて真新しい一戸建てに帰宅。家は二世帯住宅でした。表札を見ると、女性の両親が1階に住み、女性は単身で2階に住んでいるのでしょう。
夫は名残惜しそうに見送った後、自宅までの11キロを歩いて帰宅。家に着いた頃は24時近くになっていました。翌日彼女が早かったそうなので、翌朝仕事がなかったら泊まりたかったのだろうなと感じさせました。
「これはどうしたらいいんですかね」
土日にも動きがあるかもしれないと翌日の土曜日の朝から張り込みます。夫は13時に出てきて、電車に乗り、1時間ほどかけて女性が住む駅へ。きっと仕事を終えたのであろう女性が改札で待っていて、ふたりで手を繋ぎながら、スーパーに。鶏肉や野菜などを購入して、女性の家へ。そのまま一泊して、出てきたのは翌日18時。再び手を繋ぎながら駅へ行き、女性の頬を両手でぎゅっと押さえて、自宅に帰って行きました。
この日、裕子さんが海外出張から帰国します。かつては空港まで車で迎えに行っていたそうですが、そのまま手ぶらで自宅に帰っていました。
以上を報告すると「やっぱり浮気していましたか。はあそうですか」と女性の容姿を批判する言葉を機関銃のように吐きながら、報告書を読んでいました。
そして、読み終わると「これはどうしたらいいんですかね。いざ、こういうものを見てしまうと、気持ちの整理がつかない。浮気していたら叩き出してやるつもりだったのに、あの家に一人で住むのは悲しい」と泣いています。そして20分ほど泣いたあと、「夫と話してきます」と出て行きました。
その翌日、裕子さんから「カウンセリングをお願いしたい」と連絡がありました。
「夫は、ずっと離婚する可能性について考えていたと言っていました。私が価値観を押し付けたり、“あなたは年収が低いんだから”と言われるたびに悲しくなっていたと」
「バレンタイン」の影響と夫の本音
夫はもともと贅沢を好まず、節約をする生活が楽しいタイプの人でした。しかし、結婚してからそれらの行動を「ビンボーくさい」と一蹴されることも悲しかったとか。
あとは、裕子さんが夫の誕生日や結婚記念日、バレンタインデーなどを祝わなかったのも寂しかったそうです。
「夫は記念日を大切にする家庭で育っています。私は別にイベントはどうでもいい。そんな時に、彼女と再会して、学生街の定食屋でご飯を食べるうちに、恋心が芽生えてきた。そして、去年のバレンタインに彼女から手作りチョコレートをプレゼントしてもらい、一気に恋心に火がついて、のめり込んでいったとか」
彼女も質素倹約が好きで、トクするためのポイント活動や、クーポンのテクニックをたくさん持っていて、そういう情報交換も楽しかったそう。
「私、クーポンもポイントカードも大嫌い。あれを出し入れする私の時間のほうが高い。浮気がバレてスッキリした表情の夫から“価値観が合わないから、離婚するという選択肢もある”と言われたけれど、そう簡単なことでもない。とにかく、まずは金。“今まで払った金を返せ”と言ったら、“そう言われると思って明細は残していた”と、エクセルの家計簿を出されたんです。この10年間の食費、光熱費が500万円くらいでした。光熱費の項目を見ながら、“君はシャワーを10分流しっぱなしにしている。僕は残り湯だけを使っていたけれど、半額払うよ”と言われ、“あー終わった”と思いました」
モラハラ発言が続々
その後、夫婦で話し合いを重ねて、離婚することにすんなりと決まりました。夫はすでに弁護士に相談しており、裕子さんのモラハラ発言の音声証拠も押さえていた。裕子さんは「誰のおかげでここに住めているんだ」とか「あんたは稼いでいないんだから、発言権はない」などを日常的に発していたのです。
その背景もあり、慰謝料は夫から100万円、女性から50万円で決着。財産分与分については、複雑すぎるため痛み分けということで、0円にしたそうです。マンションなど、優子さんがお金を出したものは裕子さんが所有するので、夫は自分の着替え程度の荷物だけをもって家を出ていきました。言い換えれば、夫はいっさい財産を手にしなくてもいいと思ったということです。
お互いに価値観が合わない結婚生活が終わり、裕子さんの心の負担も楽に。結婚していたとき以上に仕事に邁進し、本国勤務を目指して頑張っているそうです。
「仕事に力を入れない夫がいつも歯痒かった。だから発破をかけなくてはと思っていたんです。それがモラハラになるとはね。そういう価値観の違いが、すれ違いを生んだのかもしれません」と明るい声で話していました。
夫婦は人生を伴走する存在です。価値観が合わないと悲劇になりかねない。また、仕事やお金の稼ぎ方は、夫婦であっても押し付けることは難しい。裕子さんは良かれと思ってやったことですが、確かにその口調は厳しかったし、言われる側は辛かったであろうことも想像できます。価値観の違いだけではなく、良かれと思っても相手への伝え方は大切だということでしょう。裕子さんのような気づかぬハラスメントは「収入格差」のある夫婦で多く見る事例です。お金を稼ぐことは生きていくために本当に大切なことですが、「お金を稼ぐことがなにより偉い」「偉かったら尊大な態度でいい」というわけではないということなのではないでしょうか。
裕子さんたちは結婚10年でそのことに気付き、互いに新しい道を選んだのです。そのことは2人のいい未来に繋がっていくはずです。
今回の調査料金は40万円(経費別)です。