「内輪もめ」で自滅…フランス主導の「FCAS」
2026年4月1日、世界の防衛関係者に待望のニュースが流れた。
日本、イギリス、イタリアの3ヵ国が進める次世代戦闘機開発計画「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」、通称「F3」プロジェクトにおいて、開発を管理する政府間機関「GIGO(ジャイゴ)」と、実務を担う共同企業体「エッジウィング」との間で、約1145億円規模の初めての国際契約が締結されたのだ。
かつて日本の戦闘機開発は、アメリカの厚い壁に阻まれ、常に「下請け」に甘んじてきた歴史がある。しかし今、その構図は劇的に塗り替えられようとしている。カナダがGCAPへのオブザーバー参加を検討し、ドイツやスウェーデン、さらには、シンガポールやオーストラリア、インドといったアジアの諸国までもが、フランスやアメリカの計画を差し置いて、この「日英伊連合」の門を叩こうとしているのだ。
なぜ、航空大国であるフランスでも、絶対王者であるはずのアメリカでもなく、日本の「F3」が世界の中心になりつつあるのか。そこには、ライバルたちが抱える致命的な「欠陥」と、日本主導の体制が持つ圧倒的な「合理性」が存在する。
まず、GCAPの最大のライバルと目されていた欧州のプロジェクト「将来戦闘航空システム(FCAS)」の現状を見てみよう。フランス、ドイツが2017年にぶち上げ、スペインも加わったこの計画は、今や「空中分解」の危機に瀕している。
原因は、フランスのダッソー・アビアシオンと、ドイツ・スペイン側に立つエアバスによる、醜い主導権争いだ。フランスの名機「ラファール」を通じて、独自に戦闘機を設計する高い技術を身につけてきたダッソー。トラピエCEOは、設計やサプライヤー選定における「より強い権限」を要求している。フランスがプロジェクトをリードすることで技術を流出させず、他国にも輸出できるようにして競争力を保つ狙いがある。しかし、対するエアバスは「対等なパートナーシップ」を譲らない。
「トランプ・リスク」に揺れるアメリカ
さらに、軍事的な要求のミスマッチも深刻だ。核保有国であるフランスは、新戦闘機に空母への発着艦が可能で、核兵器をも搭載できる機能を求める。一方で、ドイツは、センサーなど他の装備品を戦闘機とクラウドシステムで接続し、統合運用する「全体最適」のネットワーク戦を重視している。この「同床異夢」により、2026年に予定されていた試作機の開発・製造は、事実上の凍結状態にある。
こうした泥沼の状況を背景に、ドイツ国内では「もはやフランスとはやっていけない。GCAP(F3)に乗り換えるべきだ」という声が急速に高まっている。スウェーデンのサーブ(航空機・軍需品メーカー)も、独自の道を模索しつつ、GCAPの動向を注視している。欧州の防衛関係者が「実現可能性が高いのはGCAPの方だ」と断言するのは、日本、イギリス、イタリアの3ヵ国が、互いの技術的強みを尊重し、役割分担を明確に決めている「健全な協力体制」を構築できているからに他ならない。
一方、本来であれば「最強」であるはずのアメリカの次世代戦闘機計画も、深刻な懸念材料を抱えている。アメリカの現在のエースF22の後継機となる第6世代機、通称「F47」が、同盟国から敬遠され始めているのだ。
最大の懸念は、その名称からも透けて見える「トランプ・リスク」だ。
トランプ氏が第47代大統領に返り咲いたことを記念して、自身の名声を誇示するように「F47」と名づけられたといわれるこの機体には、あまりにも強烈な「自国第一主義(アメリカ・ファースト)」の影がちらついている。
F47の致命的な弱点とは
F47の致命的な弱点は、以下の4点に集約される。
1、一国主義による「孤立化」
かつてのF35開発では多くの同盟国が参画したが、F47は開発プロセスが完全にブラックボックス化されるものとみられ、他国との共同開発や技術移転の道筋が見えていない。トランプ政権は「アメリカの技術を盗ませない」という姿勢で、これは導入国にとって「ブラックボックスだらけの、勝手にアップデートもできない高価な玩具」を買わされるリスクを意味する。
2、開発主体の不安(ボーイングの呪縛)
F22やF35といった世界最高峰の第5世代機を成功させたのはロッキード・マーティンだ。しかし、F47の主契約企業は、民間機部門の不祥事や開発遅延で揺れるボーイングである。防衛関係者の間では「軍用機の開発実績で劣るボーイングが、ロッキードを超える機体を作れるのか」という懐疑的な見方が根強い。
3、高額が予想されるコスト
「アメリカ単独」での開発は、スケールメリットを失わせる。F47の1機あたりの価格は、F35を遥かに凌ぐ「数億ドル」単位になると予想する向きもあり、財政難に喘ぐ欧州やアジアの諸国にとって、到底、手が出る代物ではなくなる可能性が高い。
4、カナダの離反
特に象徴的なのがカナダの動きだ。トランプ政権による関税圧力や外交的な恫喝を受け、カーニー首相は「対米依存からの脱却」を鮮明に打ち出した。トランプ政権に不信を抱くカナダが、より信頼できるパートナーとなり得る、日英伊のGCAPに視線を向けるのは、極めて合理的な判断といえる。
「F3」が世界のスタンダードになる3つの理由
こうしたライバルたちの失策を横目に、日本の「F3」はなぜこれほどまでに輝いて見えるのか。それは、三菱重工業、BAEシステムズ、レオナルドという日英伊の「ドリームチーム」が、次世代戦闘機の定義を再定義したからだ。
1、「制空権の確保」に特化したストイックな設計
F35は、対地攻撃から偵察まで何でもこなす「器用貧乏」な面があった。しかし「F3」は、すべての地上作戦、海上作戦の生命線となる「航空優勢(空対空戦闘)」の確保に特化している。三菱重工が「X2」を通して培ったステルス形状と、IHIが開発する世界最高水準の耐熱素材を用いた大推力エンジン。これらが組み合わさることで、F35を凌駕する高速巡航と高高度での格闘能力を実現する。この「空の王者」としての純粋な強さが、各国の軍事関係者を惹きつけている。
2、「AI」と「無人機」の完璧な融合
「F3」は、もはや単なる「飛行機」ではない。自機を核として、周囲に展開する複数の無人機をAIで統制する「チーミング能力」のハブだ。三菱電機が主導するミッションアビオニクスは、膨大な敵情報をAIが瞬時に解析し、パイロットを「操縦士」から「戦術指揮官」へとアップグレードさせる。この技術において、日本のデジタル・センサー技術は世界をリードしている。
3、「対等なパートナーシップ」という磁力
GCAPが各国を引き寄せる最大の理由は、その「オープンな設計思想」にある。アメリカのように技術を囲い込まず、フランスのように露骨に主導権を奪おうとしない。日英伊の3ヵ国は、将来的な輸出や他国の参画を見越した柔軟なスキームを構築している。これが、カナダやドイツ、スウェーデン、さらには、シンガポールやオーストラリアといった国々にとって、「GCAPなら自国の安全保障を主体的に担える」という強力なインセンティブになっている。
日本の産業界が背負う「5兆円」の重み
もちろん課題もある。日本が掲げる「2035年の実戦配備開始」という目標は、新戦闘機の開発計画にとって、時間的な猶予が十分あるとはいえない。
F2戦闘機の退役が始まるこの年までに、妥協が許されないスケジュール管理が求められる。ユーロファイター(イギリス、ドイツ、イタリア、スペインのヨーロッパ4ヵ国が共同開発した戦闘機)の退役まで時間的に余裕のあるイギリスやイタリアとの間では、配備時期やコスト分担を巡る調整が続くだろう。
ただ、総額5兆円ともいわれるこのプロジェクトは、単なる兵器の開発ではない。三菱重工、IHI、三菱電機、そして、その下に連なる数千の中小企業にとって、この開発は「失われた30年」を取り戻し、日本の航空宇宙産業を世界のトップへと押し上げるラストチャンスなのだ。
2035年、日本の空、そして世界の空を舞うのは、ダッソーの戦闘機でも、トランプ氏のエゴが投影されたF47でもない。日本の技術の粋を集め、国際協力の理想形として完成した「F3」であるはずだ。
我々は今、日本の防衛産業が「世界のハブ」へと変貌する歴史的な瞬間を目撃している。この巨大なプロジェクトの成否は、日本の、そして世界の安全保障の勢力図を決定づけることになるだろう。
筆者紹介: 筆者は、日本の戦闘機開発の変遷を鋭く分析した『次期戦闘機の政治史』(千倉書房)を2025年5月に上梓。同書は、2025年度の日本防衛学会猪木正道基金特別賞を受賞し、安全保障の専門家から高い評価を得ている。GCAPを巡る政治的動向に興味のある読者には、ぜひ手に取っていただきたい。
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