「国会に集まってペンライトを振るって、それで政権変わらないですよね」
「厳しいことを言うようですけど『ごっこ遊び』にしか見えないんですよ」
4月14日配信のABEMA Primeで、自民党の門寛子衆院議員はこう発言し、SNSで炎上している。番組内では、4月8日に、国会議事堂前や全国各地で行われた『平和憲法を守るための緊急アクション』のデモを引き合いに出し、デモの主催者側が発表した参加人数に関しても「本当に3万人いたと思っているんですか?」と門氏は異論を唱えた。
しかし、門議員はあの国会議事堂前のデモの現場をリアルに見たのだろうか? ベトナム戦争、ベルリンの壁、#Metoo運動……などにしても、市民の声はときに社会を動かしていくことを彼女は知らないのだろうか。そして、国民の不満や不安の声に耳を傾けるのが政治家の仕事であるにも拘らず、「ごっこ遊び」という言葉で一掃してしまうことの危うさに気づいているのだろうか……。実際にデモに参加した人たちの思いはごっこ遊びではなく、一人ひとり政府に伝えたい想いを持って参加しているのだ。
96歳の森田富美子さんもそのひとりだ。Xでは9.2万ものフォロワーを持っているインフルエンサーで、毎日のように自らの手でSNSに「#戦争反対」「#核兵器廃絶」のメッセージを発信し続けている。
4月5日、富美子さんはXでこう発信した。
「4月8日、行きます。皆さんと一緒に頑張ります。おやすみなさい。グッナイ」
#世界平和
#戦争反対
#核兵器廃絶
#核兵器禁止条約
#メディアの仕事は権力の監視
【2026年4月5日 X[わたくし96歳」より】
富美子さんは、1945年8月9日長崎に投下された原爆で両親と3人の弟を失っている。自宅は、爆心地間近にあった。両親や弟たちの亡骸を当時16歳だった富美子さんは自らの手で荼毘に付した……。こういった体験を含め、自らの人生と戦争反対への思いを2025年6月『わたくし96歳#戦争反対』という著書として出版し、話題を集めた。
「二度とあんな戦争が起きないように、声を挙げなければ、デモにも参加したいとずっと思っていました」と語る富美子さんは、4月8日、国会議事堂前に着くと、静かに涙を拭った。普段は明るく楽しい富美子さん。取材でも意にそぐわなければきちんとハッキリと思いを口にするタフな姿をよく目にしていた。そんな富美子さんの涙……。意を決してデモに参加し、声を挙げた理由をいっしょにデモに参加した娘・森田京子さんが寄稿する。
無数に光るペンライトを見て涙が…
4月8日、18時半には国会議事堂前に到着しようと家を出た私とハハ(編集部注:森田富美子さん)だったが、調べておいた地下鉄のバリアフリーコースは「工事中」などあり、予想以上に時間がかかった。「私は車椅子に乗ったままだからいいけど」とハハは何度も申し訳なさそうに振り向いて私を見上げた。
溜池山王駅を出たところはさぞ混雑しているだろうと予想していたが、開始時間よりも早いこともあってそうでもなく、大きな道路を渡って国会議事堂を目指した。歩き進むと歩道に立つ警官が少しずつ増え始めた。国会議事堂は標高約30mの小高い丘に建っているため、長い上り坂が続く。
この信号を渡ったらいよいよというところ、赤信号の向こうにキラキラと光る色とりどりのペンライトが見え、「戦争反対! 9条守ろう!」の声も聞こえてきた。
「私、涙が出てきた……」ハハが言った。
身を屈めてハハに耳を傾けると「もう色々……色々込み上げてきて……」と涙声で言った。
信号が青になり渡ると私たちはキラキラの光の中に入った。進んで行くと、まだ19時前だったが集まった人々による「戦争反対! 9条守ろう!」の声は高まっていた。
ハハの心が震えた世代を超えたデモの声
2026年3月後半、ハハのXでの投稿は桜とメジャーリーグの話題になっていた。仕事中、Xを開きハハの様子を確認するたび、その何気ないポストに少しホッとする自分がいた。
3月29日、私はメイクアップアーティストとしての撮影のロケバスの中で東京新聞の記者さんがXに投稿した新宿東南口のデモの動画を発見した。
「凄い人数!! 6時間ぶっ通しのプロテストレイヴ」「戦争に巻き込むな!! 戦争反対!!」と書いてあった。若者たちによる新しいタイプのデモが始まっていることを知って驚いた。
翌3月30日、私はハハにこの投稿を知らせた。驚いたハハは、他にも出ているはずとXを探した。そして、ハハはある動画の投稿を引用リポストした。その投稿には「若い人から高齢の方までいろんな年代の人がいるし、その場の雰囲気が伝わってくる」と書かれていた。ハハはそのポストを読んだ思いをこう綴った。
【3月30日①】
私は、ちょっとやそっとのことでは泣いたりしませんが、この動画を見ていたら涙が出てきて、繰り返し繰り返し何度も見ながら泣きました。
#戦争反対
【2026年3月30日 X[わたくし96歳」より】
この日のハハのポストには、こういうのもあった。
【3月30日②】
私のポストに「バイトお疲れ」と返信を入れた方がいます。
【2026年3月30日 X[わたくし96歳」より】
こういう返信には無視を決めているハハだが、一言伝えておきたいと思ったのだろう。政府に意見する発言をすると、「バイト」と組織だって働きかけていると思う人たちが一定即いるが、そういう発想があることのほうが、どこぞの政党から報酬を得た経験があるとしか思えない。
そして、ハハは何度となくこう言うようになった。
「新宿だろうが、渋谷だろうが、行けるもんなら私も行ってみんなと一緒に訴えたい」ハハの「立ち向かう」心づもりを感じた。
桜とメジャーリーグののほほんとしたポストが少しずつ変わり始めた。
シェルターって、横穴防空壕よね!?
3月31日、 市町村単位で外国からの武力攻撃を想定した避難施設(シェルター)の確保に向けた基本方針が閣議決定したというニュースが上がった。
ハハが言った。
「シェルターって、昔で言えば横穴防空壕よね?」
母はこうXにポストした。
【3月31日①】
いよいよ戦争する気でしょうか? 狂っている。この政府は何をすべきか、全くわかっていない。支持する人達、わかっているのか?
#戦争反対
#メディアの仕事は権力の監視
【2026年3月31日 X[わたくし96歳」より】
この日もうひとつのハハは投稿をした。
【3月31日②】
国旗? ミサイル? シェルター? どこかの国の狂ったリーダーのように、この国にも狂った人がいる。
#戦争反対
#メディアの仕事は権力の監視
【2026年3月31日 X[わたくし96歳」より】
仕事中もハハのポストが気になる。ロケバスで、ロケ現場で、スマホを出しては、ハハのポストを見た。これまでにもイライラが膨らみ、ハハは眠れなくなることがあった。大丈夫かな、そう思いながら、夜中に帰ると、スヤスヤと眠っていた。よかったひと安心。
翌日、ハハは起きるなりXに投稿した。
【4月1日】
トランプさんの発言も日本の内閣がやっていることも、私にとっては毎日がエイプリルフール
【2026年4月1日 X[わたくし96歳」より】
そして、熊本市・建軍駐屯地への長距離ミサイル配置についての小泉防衛相「現時点で住民説明会、実施予定ない」のニュースを引用したリポストには、一言だけ、
「ナニ様でしょうか?」とハハはコメントした。
そんなハハにとってうれしいニュースもあった。石破茂氏、伊勢崎賢治氏、小池晃氏、辻元清美氏、斉藤鉄夫氏らによる超党派人道外交議連総会の報道だ。ハハはその報道に関してこうリポストした。
「うれしいニュース!! 集まってくれてありがとう!!」
しかし、残念ながらこの報道は、テレビなどで大きく取り上げられることはなかった。
96歳のハハがデモで「戦争反対!!」と叫んだ
【平和憲法を守る緊急アクション】4月8日、国会前に集まろう!!
#平和憲法をも守る0408
Xではこの投稿が広がり、多くの人に拡散されていた。ハハも目にしていたが、何も言わなかった。私も言わなかった。私のメイクアップアーティストの仕事は、撮影の進行次第なので、ロケスケジュールはギリギリまで出ないことが多い。
しかし、4月5日、4月8日はオフになることが決定した。行ける、国会前に行ける!「行く?」そう聞くと、「行く!」ハハは即答した。
そうと決まれば、ペンライトも仕入れてあげないと。ハハには内緒、ネットで探し注文した。間に合うかなと少々心配だったが、何とか前日に届いた。ペンライトの中に「#戦争反対」と「#NO WAR」を入れた。
「ほら、見て!」スイッチを入れると、「#戦争反対」が美しく光った。色は15色に変えられると教えると、ハハが手に持って色を切り替え始めた。
「キレイ! キレイ!」
喜びながら、やる気満々だ。よかった。
4月8日、多くの人で混み合う中、私たちは国会議事堂の正門付近に設置されたステージの近くに陣取った。ハハの前に大きな太鼓とスピーカー……。この音、大丈夫かなと心配になったが、ハハは「大丈夫! オッケー!」いつもの調子。ただ、無数のペンライトが照らし出されたころから、ハハの涙は止まらない。
19時半、いよいよシュプレヒコールが始まった。
「戦争反対!」
「9条守ろう!」
「平和憲法、日本の宝!」
ハハがペンライトを振っている。車椅子の後ろに立つ私には周りの声と太鼓の音で、ハハの声が聞こえない。満員電車さながらのギューギューに混み合った中で、車椅子に座ったハハの顔を見ることは難しい。やっとのことで横顔が見えたとき、私の胸もいっぱいになった。大きな声で一生懸命に「戦争反対!」と叫ぶ、96歳のハハがそこにいた。
「ごっこ遊び」に対するハハの返答
21時ごろまで行われていたデモだったが、ハハが車椅子であることもあり私たちは、少し早めに国会議事堂前を後にした。
溜池山王駅に方向に歩いていると、国会議事堂側に向いて並んだたくさんの人たちから「お疲れ様!」「フォローしています!」の声も聞こえた。並んでいる列をかき分けて、飛び出してきたご夫婦と握手をするといったうれしい出会いもあった。ハハは、すれ違う無数のペンライトの列に向かって、何度も何度もお辞儀をしていた。車椅子を押す私にもハハの「ありがとう、ありがとう」の想いが伝わった。
4月18日、ハハのフォロワーさんが、ある記事をXに投稿していた。記事のタイトルは「国会前デモを『ごっこ遊び』と嘲笑 “激ヤバ“高市チルドレン 大炎上」(日刊ゲンダイ 4月17日付)。
ハハは、すぐにそれを引用してこうXに投稿した。
【4月18日】
「国会に集まってペンライトを振るって、それで政権変わらないですよね」ですって? 相当怖がっていますね。自民党の皆さん、だから言ったのですね、門寛子さん。変わるんですよ、それがわかっているから私も行ったのです。サー、明日も全国津々浦々で開催されますよ。川崎では#改憲反対パレード」
【2026年4月18日 X[わたくし96歳」より】
投稿した後もハハは、日刊ゲンダイの記事を読み返している。
「声をあげきれなかった私たち世代がよくわかっている」
ハハは表情を変えずにそう言った。
数年前、ハハは、X(当時はTwitter)に投稿する思いについて「昔なら私は憲兵に連れて行かれて拷問。だから今、その覚悟で書いている」と書いたことがあった。
スパイ防止法などという危険な法律が現実化しそうな今、ハハはどう思っているのだろう。笑って、ハハはこう答えた。
「ふざけるな、私は闘いますよ、平和のために」