1月下旬、日米の金融当局が共闘体制を築き、円安ドル高傾向をいったんは反転させてみせた。立て役者となったのが、財務省の三村淳財務官(1989年旧大蔵省)。高市早苗政権の覚えもめでたく、大物財務官の証とされる「3年在任」も囁かれる。
しかし、これからも為替市場を適切にコントロールしきれるのか。前編記事『「3年在任」の声も…巧みな市場さばきを見せた「円安ファイター」が新たに直面する「イラン有事」という難題』より続く。
「ホクホク発言」鎮火の真相
「今円安だから悪いって言われているけれども、輸出産業にとっては大チャンス。米国の関税があった自動車産業にとって円安がバッファーになった。ものすごく助かりました。円安でもっと助かっているのが外為特会。これの運用、今ホクホク状態です」
高市氏は総選挙期間中の1月末、川崎市での応援演説で円安メリットを強調する発言を行い、波紋を広げた。
前半部分は、自動車など日本の輸出企業の業績が円安で押し上げられ、トランプ関税による打撃を緩和したとの主張だ。
後半部分は、為替介入の原資となる外為特会(政府の外国為替資金特別会計)が保有するドル建て資産について、円安で運用益や含み益が膨らんだことを「ホクホク状態」と形容したものだ。市場で「円安容認」姿勢と受け止められ、レートチェックでせっかく円高方向に押し戻した為替相場が一時、急反落した。
高市氏は一夜明けた2月1日、X(旧ツイッター)に「円高と円安のどちらが良くてどちらが悪いということはなく、為替変動にも強い経済構造を作りたいという趣旨で申し上げた」と投稿。三村財務官も米財務省に対して「市場の誤解を招かないよう情報発信に注意することを政府内で改めて確認した」などと釈明する騒ぎとなった。
直後に発表された米経済指標が弱い内容だったことも幸いし、円安は一旦収まったが、通貨の信認が揺らいでいる現状を十分理解していない首相の認識の危うさを浮き彫りにした。
日銀審議委員に「リフレ派」
みずほ銀行は2月2日に配信したレポートで、日本経済への円安メリットを強調した高市氏の姿勢を「前時代的な発想」と一刀両断。外為特会の「ホクホク発言」については外貨準備が歳出拡大に流用される懸念を念頭に、「通貨防衛の際、投機筋と戦うための有限な原資を目的外に利用するのは禁忌」とくぎを刺した。
実際、高市政権内では円安で200兆円以上に膨らんだ外為特会の資金の一部を、総選挙で公約した飲食料品の消費税率ゼロにするための財源(2年間で計10兆円)に当て込む向きがある。だが、大規模に流用すれば、みずほ銀レポートが指摘したように円安是正に逆行する動きと市場で受け止められかねない。
それどころか与党が衆院の議席の4分の3以上を占める「一強体制」に自信を得た首相は、財政拡張と金融緩和で景気を蒸かす「高圧経済」路線を推し進めようとしているようにさえ見える。
2月16日の官邸での植田和男日銀総裁との会談では、早期の利上げに難色を示したとされる。それを裏付けるかのように同25日には、3月と6月に任期が切れる日銀審議委員の後任として積極財政と金融緩和を指示するリフレ派学者2氏を指名した。いずれも円安是正と矛盾するもので、市場で円売り材料となった。
3月19日には米ワシントンで日米首脳会談が予定される。
「ただ飯はあり得ない」
イラク攻撃で国際金融市場が混乱する中、トランプ政権が日本側に何を要求してくるかが最大の焦点だが、米側の出方が読み切れない。
もともとはレートチェックで恩を売った米側が「フリーランチ(ただ飯)はあり得ない」として米国経済への貢献を改めて求めてくることが予想されていた。
このため、三村財務官を筆頭とする財務省は赤沢亮正経産相と連携し、トランプ関税を巡る交渉で日本側が約束した5500億ドル(約86兆円)の対米投資の第1弾プロジェクト(事業規模約5.6兆円)の決定を急いだ経緯がある。
だが、有事の真っただ中、そんな日本の献身もすっかり色褪せ、外務省関係者は「何らかの軍事的貢献を求められるのではないか」と戦々恐々の体だ。「日本側が円安是正への協力を再度働きかけるような余地は一切ない」(国際金融筋)のが実情だ。
強権首相の下、日銀の追加利上げは遠のき、財政悪化懸念は膨らむ。加えて、独裁的な米大統領は中東で起こした戦争でエネルギー危機を惹起し、世界的なインフレ再燃の種をまいている。いずれも円売りにつながる材料ばかりで、四面楚歌の状況に「円安ファイター」を託された三村氏の苦悩は深まっている。
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