トランプの「オレオレ戦争」
アメリカ人が描いた風刺画が興味深い。アメリカは3月8日から、サマータイムが始まった。そのためこの日、一斉に時計の針を1時間進めた。その時に、ある人がつぶやいた。
「いっそ2年間進められたらいいのに……」
早く「トランプの時代」が過ぎ去ってほしいということだ。
アメリカとイランの「悪夢の激突」が続いている。アメリカ軍は連日、イラン国内に空爆を続け、2月28日にイラン南部の女子小学校に行った空爆では、無辜(むこ)の少女ら175人が死亡した。制空権をほぼ失ったイラン側では、すでに数千人が犠牲となっており、その数は増える一方だ。
ドナルド・トランプ米大統領は、ウクライナ戦争のことを「バイデンの戦争」と強調しているが、イラン戦争は誰が何と言おうと「トランプの戦争」である。「国際法ではなくオレの良心に従って進める」という「オレオレ戦争」は、主権国家に対する「大義なき戦争」だ。
イラン側が徹底抗戦の構えを見せているため、長期戦の様相を呈してきた。これはトランプ大統領にとって、「誤算」と言えるだろう。
9000万人の人口を抱えるイスラム教の「老国」は、1月のベネズエラのように、「トップを排除したら終わり」という訳にはいかないのである。少し考えれば当たり前のことだが。
1バレル=150ドル突破?
2月28日にアメリカが不意討ちでイランに「開戦」して以降、周知のように世界中のオイル価格が日に日に高騰している。遠からず1バレル=150ドルという前代未聞のラインを突破するとの予測も出始めた。
イランがシーレーンの「ホルムズ海峡封鎖」という反撃手段に出始めているためだ。窮鼠(きゅうそ)猫を噛むで、イランがこうした手段に出るだろうことも、少し考えれば自明の理だ。
石油価格が上がれば、世界中のあらゆるモノの値段が上がる。モノの値段が上がれば、特に発展途上国で政情が不安定化する。
いまや80億人の全人類が、トランプというトチ狂ったアメリカ大統領の被害を受けているのである。このまま膠着(こうちゃく)状態が続けば、2026年は「トランプ恐慌の時代」と歴史に刻まれるだろう。
そんな中、こうした状況を、中国はどう見ているのか? 「中国ウォッチャー」の私は、そのことが気になって仕方ない。
イランにとって中国は、昨年まで13年連続で、最大の貿易相手国である。イランは米欧からの経済制裁を受ける中で、軍事的にはロシアを、経済的には中国を頼って生き延びてきた。
互いの国境が約1200km離れた中国とイランは、シルクロード時代から2000年以上の交流の歴史を持つ。悠久の中国史を繙(ひもと)くと、そこここにペルシャ人の逸話が登場する。
イランは「一帯一路」重要拠点
最近で言えば、2015年7月に「イラン核合意」(イラン・アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・中国・ロシアの7ヵ国による合意)が成立してからは、特に「蜜月関係」を築いてきた。翌2016年1月には、習近平主席がイランを訪問し、全面的な戦略的パートナーシップ関係を結んだ。
転機が訪れたのは、2018年5月にトランプ政権が、イラン核合意からの一方的な離脱を宣言してからだ。2021年1月にジョー・バイデン米政権が発足したが、イラン核合意に復帰する意思を見せなかった。それでイランは失望し、ますます中国を頼るようになった。
同年3月に、王毅外相がイランを訪問し、「中国・イランの25年間包括的協力プログラム」を締結した。中国はイランに、25年間で4000億ドルの投資を行うとした。ただし大半がドル建てではなく、人民元建てである。
4000億ドルのうち、約2800億ドル分をエネルギー分野に向けるとした。中国石油天然気(ペトロチャイナ)、中国石油化工(シノペック)、中国海洋石油(CNOOC)の大手国有企業3社が、北アザデガン油田を始めとするいくつもの大型油田の株式を取得。残りの1200億ドル分は、鉄道、地下鉄、港湾、5G基地の建設などを進めるとした。
要は、中国はイランに対して、25年間にわたって包括的に面倒を見ていくと保証したのだ。何と言ってもイランは、ライバルのアメリカが入ってこない「空白地帯」である。
こうしてイランは、中国が進める広域経済圏構想「一帯一路」の中東における絶好の拠点となった。加えて、アメリカの影響力が落ちつつあった中東地域全体に、「人民元経済圏」を構築しようともした。実際、中国がイラン産の石油を買うたびに、イランの国庫に人民元が積まれていった。
中国とイラン「ズブズブの関係」
2023年2月には、イブラヒム・ライシ大統領が訪中。習近平主席と会談した他、北京大学で記念講演を行い、中国のエリート青年たちが熱狂的に迎えた。私もかつて北京大学に留学したので「肌感覚」があるが、中国のエリート青年たちはアメリカに、愛憎半ばする複雑な感情を抱いている。そのため、「反日国家」のリーダーは「ヒーロー視」されるのだ。
このときは、その一年前にロシアがウクライナに侵攻したことが、両国関係に大きな影を落としていた。イランにしてみれば、ウクライナ戦争の長期化に伴い、それまで軍事的に頼っていたロシアが、自国の戦争を優先するため、あまり頼りにならなくなってきたのだ。
もっとも、イランはロシアに大量の新型ドローンを提供して、莫大な利益を上げていたが。
同様の不安を抱えていた親ロ国家のシリアのバシャール・アサド政権が崩壊したのは、2024年12月のことだった。それでイランとしては、軍事的にも中国を頼ろうとしたのである。ただ中国にしてみれば、アメリカにもヨーロッパにも「いい顔」を見せたいので、攻撃的な武器は渡していない。
昨年9月2日には、北京で習近平主席とマスード・ペゼシュキアン大統領の首脳会談が行われた。ペゼシュキアン大統領は、昨年8月31日、9月1日に天津で開かれたSCO(上海協力機構)首脳会議と、9月3日に北京で開かれた中国人民抗日戦争・反ファシズム戦争勝利80周年軍事パレードに参加するために訪中した。
この時は、多くの外国首脳が訪中したので、天安門の楼台の最前列に立った金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長のように脚光を浴びることはなかった。それでも、習近平主席は満面の笑顔で応対した。
このように中国とイランは、いわば「ズブズブの関係」である。だが貿易統計を見ると、必ずしもそうとは言えない。
中国の不可思議な石油統計
中国側の統計によれば、昨年の中国とイランの貿易総額は713億ドル。前年比25・2%減である。
内訳は、中国からイランが496億ドルで、前年比22・1%減。イランから中国が217億ドルで、前年比31・3%減だ。
もう少し長いタームで見ると、最盛期の2014年には、両国の貿易額は3186億ドルに達していた。内訳は、中国からイランが1497億ドルで、イランから中国が1689億ドルである。それから11年で、実に22%に落ち込んでいるのだ。
ちなみに昨年、中国がイランに輸出したのは、機械電子類35%(金額の割合、以下同)、運輸設備類16%、紡績靴衣類11%、金属及び製品9%、セメント・ゴム製品6%など。
逆に中国がイランから輸入したのは、ポリエチレン35%、金属鉱産27%、化学品・加工品11%、農副食品10%、金属及び製品10%などだ。
ここで不思議なのは、中国がイランから輸入している最大の産品であるはずの石油が、昨今の貿易統計上には入っていないことだ。中国の統計上では、昨年の中国の石油の輸入先は、以下の通りとなっている。
ロシア18・8%、サウジアラビア15・0%、マレーシア12・7%、イラク12・2%、ブラジル9・0%、オマーン8・7%、UAE8・3%、アンゴラ6・3%、クウェート5・0%、カナダ3・9%。
中国は昨年、世界49ヵ国・地域から計5億7800万トンの石油を輸入している。換言すれば、世界中から資源を買い漁っている。
自称「マレーシア産」石油
ところがイラン側の統計によれば、2024年の1日平均の輸出量は160万バレルで、年間の石油収入は357億6000万ドルである。そのうち中国向けが90・8%(約325億ドル)を占めているのだ。昨年の中国の石油輸入の13・4%をイラン産が占めたという中国の報道もある。
ちなみにイラン産石油の中国以外の輸出先ベストテンは、シリア3・3%、UAE(アラブ首長国連邦)2・0%、ベネズエラ1・2%、イラク0・9%、トルコ0・6%、マレーシア0・4%、オマーン0・3%、レバノン0・2%、スリランカ0・2%。
つまり、ほとんどが中国向けと言っても過言ではない。それなのに中国は、イランから石油をまったく輸入していないことになっているのだ。
そのカラクリを調べていくと、さすがは「上に政策あれば、下に対策あり」(上有政策、下有対策)という諺(ことわざ)を小学生から教え込むお国柄である。中国は2022年以降、人民元建てを増やし、イラン産石油の輸入額を公表しなくなったのだ。
公表するのは、「最終積み出し先別の輸入額」である。
アメリカに目をつけられているイラン産とベネズエラ産の原油を、いったんマレーシアに運び、そこでマレーシア産と混ぜるなどして、マレーシア産として輸入しているのだ。マレーシア産として公表される石油の約7割が、イラン産及びベネズエラ産と、中国メディアは報道している。
いずれにしても中国からすれば、新年のベネズエラに続き、またもや「自分の庭」をアメリカに荒らされたようなものだ。
電話会談を重ねる王毅外相
中国は、3月5日から12日まで、年に一度の全国人民代表大会(国会)が、北京の人民代表大会で開かれていた。その会期中の3月8日、王毅外相が年に一度の記者会見を行ったことは、前回のこのコラムで詳述した通りだ。
王毅外相は、この多忙な合い間を縫って、イラン及び周辺諸国の外相と、電話会談を重ねていた。それらは以下の通りだ。
3月1日……ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相
2日……オマーンのバドル・ビン・ハマド外相
2日……イランのアッバース・アラグチ外相
2日……フランスのジャン=ノエル・バロ外相
3日……イスラエルのギデオン・サアル外相
4日……サウジアラビアのサウード・アル=ファイサル外相
4日……UAEのアブダッラー・ビン・ザーイド外相
9日……クウェートのジャッラーハ・ジャービル外相
9日……アブドゥルラティーフ・ザヤーニ外相
11日……パキスタンのムハンマド・ダール副首相兼外相
11日……カタールのムハンマド・ビン・アブドゥル首相兼外相
12日……エジプトのバドル・アブデルアーティー外相
12日……キューバのブルーノ・ロドリゲス外相
13日……オランダのトム・ベーレンドセン外相
13日……アフガニスタンのアミール・カーン・ムッタキ外相
この中で、特に注目は、「盟友」のロシア、当事者のイランとイスラエル、そして「イランの次の標的」と言われるキューバである。以下は、中国外交部の発表による。
「盟友」ロシア外相との電話
まずロシアのラブロフ外相との会談で、王外相はこう述べた。
「中国とロシアの働きかけによって、国連安全保障理事会が昨日、現在のイラン情勢に関する緊急会合を開催した。中国は一貫して国連憲章の目的と原則の遵守を主張し、国際関係における武力行使に反対している。
アメリカとイスラエルが交渉中に攻撃を仕掛けたことは容認できず、主権国家のリーダーを公然と殺害し、政権交代を煽動することも容認できない。これらの行為はいずれも国際法および国際関係の基本的規範に違反している。
現在、戦火はペルシャ湾全域に拡大しており、中東情勢は危険な深淵へと突き落とされる恐れがあり、中国側はこれに強い懸念を抱いている。
第一に、軍事行動を直ちに停止すること。戦火の拡大と波及を防ぎ、事態が手遅れになる事態を回避すること。中国側は湾岸諸国の安全を重視しており、彼らが自制の姿勢を維持することを支持する。
第二に、一日も早く対話と交渉の場に戻ること。各当事者は和平を強く促し、戦争を阻止し、当事者に対し、一日も早く対話と交渉の軌道に戻るよう促すべきである。
第三に、一方的な行動に共同で反対すること。国連安全保障理事会の承認を得ずに主権国家に対して武力を行使することは、第二次世界大戦後に築かれた平和の基盤を破壊するものである。国際社会は、世界が『ジャングルの法則』(弱肉強食)へと後退することを阻止するため、明確かつ力強い声を上げるべきである」
このように、強く正論を述べたことになっている。それは、ラブロフ外相も同様だ。
「アメリカとイスラエルによるイランへの軍事攻撃が、中東地域の情勢の安定を著しく損なっている。ロシアは中国と立場を同じくしており、中国側との連携と意思疎通を強化し、国連や上海協力機構(SCO)などの枠組みを通じて明確なメッセージを発信し、戦争の即時停止と外交交渉プロセスへの復帰を呼びかけていく」
実際にはもっと突っ込んだ話をしたに違いないが、そこは公表されていない。
イランとの友誼を重視
続いて、翌日のイランである。王外相はこう述べた。
「中国はイランとの伝統的な友好関係を大切にし、イラン側が主権・安全、領土保全、民族の尊厳を守ること、および正当かつ合法的な権益を擁護することを支持する。
中国はすでにアメリカとイスラエルに対し、軍事行動を直ちに停止し、緊張のさらなるエスカレーションを回避し、紛争が中東地域全体に拡大・波及することを防ぐよう促した。
また、現在の厳しく複雑な状況下でも、イランが国家と社会の安定を維持し、近隣諸国の合理的な懸念を重視し、イラン国内の中国国民および機関の安全を守ることができると確信している」
イランには、4000人とも言われる中国人が居住していたが、テヘランの中国大使館のHPを見ると、何度も出国できるルートを更新して、一刻も早い出国を促している。
一方のアラグチ外相の発言は、以下の通りだ。
「アメリカは交渉期間中に、2度目の対イラン戦争を開始した(1度目は昨年6月の空爆)。今回の交渉では、双方が前向きな進展を遂げたものの、その後のアメリカの行動は、あらゆる国際法に違反しており、イラン側の『一線』を踏み越えたものだ。イラン側には選択の余地がなく、全力で自衛せざるを得ない。イラン在住の中国人と機関の安全については、全力で保障する」
こちらも本当はもっと多くの話があっただろうが、それらは省略されている。
イスラエルの攻撃に反対
さらに翌日のイスラエルとの電話会談で、王毅外相はこう述べた。
「中国は一貫して、対話と協議を通じて国際的・地域的な懸案を解決すべきと主張しており、すべての当事者は国連憲章の目的と原則を遵守しなければならず、国際関係において武力を行使したり、その行使を威嚇したりしてはならない。これはイスラエルを含むすべての当事者の根本的な利益にも合致するものだ。
中国は長年にわたって、イランの核問題の政治的解決の推進に尽力しており、最近のイランとアメリカの交渉では、著しい進展を見せていた。その中には、イスラエル側の安全保障上の懸念も含まれていたが、残念ながら、このプロセスは砲火によって中断されてしまった。
中国は、イスラエルとアメリカによるイランへの軍事攻撃に反対する。武力では問題を真に解決することはできず、かえって新たな問題や深刻な後遺症をもたらすことになる。軍事力の真の価値は戦場にあるのではなく、戦争を予防することにあるのだ。
中国は、軍事行動を直ちに停止し、戦火がさらに拡大して制御不能になるのを防ぐよう呼びかける。中国は中東問題において一貫して公正な立場を堅持しており、今後も情勢の緩和に向けて建設的な役割を果たしていく。
イスラエル在住の中国人及び機関の安全を確保するための実効的な措置を講じてほしい」
再度、正論を述べた。イスラエルのサアル外相は、自国の立場を説明した後、イスラエル国内における中国人と機関の保護を約束したという。
「次の標的」はキューバ
おしまいに、12日に行われたキューバのロドリゲス外相との電話会談だが、こちらは実にそっけない。
<ロドリゲスが昨今の情勢を紹介し、中国に対してキューバへの支持を感謝した。双方は引き続き、双方の関係を発展させていくことで同意した>
これだけである。キューバからは、「ベネズエラがやられたばかりか、ベネズエラからの石油が止められ、イランもやられ、次はわが国に違いないから助けてくれ!!」と悲鳴が上がったに違いないのだが、すべて省略されている。
ともあれ、「世界一忙しい外相」と言われる王毅外相は、「やってる感満載」だ。その一方で、国際法などまるで無視の凶暴化したトランプを前に、右往左往、立ち往生しているとも言える。
3月31日から4月2日のトランプ大統領の訪中は、世界中の視線を集めることになる。トランプがドタキャンしなければの話だが。
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