起爆剤となり得る
「中東には石油があり、中国にはレアアースがある」。かつて鄧小平はそう言い放った。以来30年、中国はレアアースを外交の切り札として握り続けてきた。その構図を崩す一手が、日本の足元の深海に眠っている。南鳥島沖の海底6000メートルに、日本の年間消費量200年分を超えるレアアースだ。しかも中国産と異なり、精錬時に厄介な放射性元素をほぼ含まない「クリーンな資源」である。日本が長年の輸入依存から抜け出す条件が、ようやく揃いつつある。
2026年2月、内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)が主導するプロジェクトで、地球深部探査船「ちきゅう」が水深6000メートルの南鳥島沖からレアアースを含む泥の試験採掘に成功した。2027年2月には1日あたり350トン超の泥回収を目指す大規模実証試験を予定。2028年3月期に総合経済評価を公表する計画だ。
日米連携が起爆剤となりうる。日米両政府は3月19日のワシントン首脳会談で、深海資源開発に関する作業部会の立ち上げで合意を目指している。共同出資を含む協力の具体化が焦点だ。自民党海洋開発特別委員会も今夏、採掘専用船の建造を柱とする提言をまとめる方針だ。
レアアース開発が新たなステージへ向けて踏み出したことを受け、石油資源開発〈1662〉、古河機械金属〈5715〉、三井海洋開発〈6269〉、DOWAホールディングス〈5714〉などの関連銘柄の株価は大きく反応している。一方、中小型クラスの関連銘柄はやや出遅れ気味とはいえ、収益に与える恩恵の大きさでは決してヒケをとらない銘柄は多い。
東洋エンジニアリング〈6330〉
・3月13日終値2731円 時価総額1053.02億円
プラント・エンジニアリング専業の中堅企業だ。JAMSTEC(海洋研究開発機構)の委託を受け、水深6000メートルの海底に堆積したレアアース泥をスラリー(水と固体が混ざった流体)に変えて船上まで汲み上げるサブシープロダクションシステムの基本設計・詳細設計・機器製作を担当する。
2022年には採鉱・解泥・揚泥試験に成功しており、石油・ガス開発でも前例のない世界初の取り組みとして英科学誌「Nature」にも掲載された。同社が担う揚泥工程は採掘量を左右する最も技術的ハードルが高い工程であり、2027年の大規模実証試験・2028年3月期の商用化評価に向けてエンジニアリング受注が段階的に積み上がる見通しだ。
一方、直近業績には注意が必要だ。2026年3月期の連結最終損益はブラジルのガス火力発電所案件の遅延と費用増により150億円の赤字となる見通しで、期末配当も無配に転じる。ただ、レアアース国産化という国策テーマでの技術的優位性は揺るがず、業績回復局面での株価反応に注目したい。
川崎地質〈4673〉
・3月13日終値4240円 時価総額44.82億円
地質・地盤調査のコンサルタント専業企業だ。地質調査を核に、海洋・資源・エネルギー分野にも独自技術で参入してきた実績を持つ。海洋分野では三次元音波探査やAUV(自律型無人潜水機)・ROV(有索無人探査機)を活用した深海底の地質構造解析を手がける。南鳥島沖の開発においては、資源量の正確な把握と採掘設備基礎設計に先立つ詳細な地質調査が欠かせない工程だ。
自民党海洋開発特別委員会が今夏に採掘専用船の建造と港湾・空港インフラの整備を政府に求める提言をまとめる方針であり、建設・整備フェーズに向けた地盤調査・構造物基礎の調査需要が連続的に発生する見込みだ。
東証スタンダード市場の小型専業企業ゆえ、関連案件の受注は業績に直結しやすい。ただし株式流動性の低さは難点として念頭に置く必要がある。加えて、洋上風力発電の海底地盤調査といった再生可能エネルギー分野の需要も追い風となっており、複数の成長エンジンを持つ点も評価できる。採掘フェーズが進むほど調査需要が拡大する開発ステージ連動型の成長構造が魅力だ。
東亜建設工業〈1885〉
・3月13日終値3335円 時価総額2934.07億円
マリコン(海洋土木)の大手企業で、2014年の東大レアアース泥開発推進コンソーシアム設立当初からの参加メンバーでもある。固く締まった海底の泥を細かくして回収しやすくする「解泥技術」の開発を担い、2020年にはJAMSTECの委託で大型実証試験を実施した。遠心力で泥の粒子を分離するハイドロサイクロン技術を応用し、分級前比でレアアース濃度を最大2.6倍に高めることが確認されている。
採掘した残泥の処理技術開発にも取り組んでおり、採泥と残泥処理の両工程で中核的役割を担う。2027年の大規模実証試験・2028年3月期の商用化評価に向けて受注が積み上がる見通しに加え、本土から約2000キロ離れた南鳥島の島内に建設が想定される現地処理施設の建設・運用でも本命視される存在だ。
強みを持つ港湾土木工事では、国土強靭化政策を背景に高水準の政府予算が継続しており、海上工事の特殊性・専門性から安定的な案件獲得が期待される。高市政権が進める防衛力強化の方針も追い風で、旧耐震基準施設の建替工事が新たな収益源となる期待は大きい。レアアースと防衛の二軸で成長が見込める点が魅力だ。
いであ〈9768〉
・3月13日終値3975円 時価総額298.09億円
建設環境分野のコンサルタント専業企業だ。環境調査・環境評価・自然環境保全・化学分析リスク評価など幅広い環境関連サービスを提供する。南鳥島沖のレアアース開発では、採掘に先立つ環境モニタリングと環境影響評価が不可欠なプロセスだ。
環境保全に対して信頼性の高い評価を実施することは、海洋資源開発を持続的に進めるための国内外へのアピールとなる。海洋生態系への影響調査や残泥の海洋環境への影響評価は、開発が進むほど継続・拡大が見込まれる。海洋資源開発に係る環境調査への参入実績を持つ同社は、国家プロジェクトとして推進される南鳥島開発の長期受注が視野に入る。
時価総額が相対的に小さいため、関連受注が本格化した局面での業績・株価への感応度は高い。レアアース開発は環境規制対応が厳しくなるほど同社のポジションが強まる構造も魅力だ。2027年12月期を最終年度とする中期経営計画では、DX(デジタル化による効率化)推進を柱に営業利益率12%程度の維持を目標に掲げている。
アルコニックス〈3036〉
・3月13日終値2831円 時価総額880.64億円
非鉄金属の商社機能と製造業を融合した総合企業だ。レアアースをはじめとするレアメタルの取り扱いに注力する電子機能材事業が事業の中核を担う。米国の大規模レアアース鉱山運営会社・MPマテリアルズ製レアアースの日本向け独占販売代理店を傘下に持つことは、脱中国依存サプライチェーンの受益企業として評価されやすい。
中国の輸出規制が強まるほど同社の商社機能の希少価値は高まる。南鳥島産レアアースが商用化された際には、国産レアアースの国内流通・販売仲介ルートとして参入する余地もある。グループ会社を通じた金属加工・製造事業との連携により、商社機能だけでなく川下の加工段階でもレアアース需要を取り込める点が強みだ。
時価総額が小さいため商流が具体化する局面での業績・株価への感応度は高い。株価は8年ぶりの高値を突破したとはいえ、PBR(株価純資産倍率)に過熱感は乏しい。レアアース調達多角化という国策の追い風を直接享受できる、希少な非鉄金属専門商社として注目度が高まりやすい銘柄だ。
レアアース開発における課題は山積している。南鳥島沖は本土から約2000キロ、水深6000メートル級という二重のハードルが輸送コストを押し上げる。商用化の経済評価が出るのは2028年3月期であり、投資判断の答え合わせに時間がかかることは否定できない。それでも政治的な後押しが従来にない勢いで加わったことは確かだ。開発の歯車が止まる可能性は低い。「深海の泥」が日本の産業安全保障を支える日は、絵空事ではなくなってきた。
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