海上封鎖は侵略行為
いま、世界でもっとも注目されているのが、ホルムズ海峡の封鎖である。この問題を解説する前に、基礎知識を知っておいてほしい。それは、海上封鎖が「戦争行為」そのものだということだ。
1933年、ソ連の主導で「ロンドン宣言」が採択され、そこで「海上封鎖は侵略行為であり、戦争である」と定義された。これらの宣言は1974年に国連総会で確認され、それ以来、海上封鎖だけでなく戦争も公式にはだれも宣言していない(ロシア誌「モノクル」を参照)。つまり、海上封鎖にあたるホルムズ海峡の封鎖は、その行為自体がきわめて重大な意味合いをもっていることに留意してほしい。
そのうえで、このホルムズ海峡を通って、原油や石油製品、液化天然ガス(LNG)などが世界中に供給されているために、ここでの安全な通行が保障できるかどうかが世界経済に甚大な影響をおよぼす。それをわかりやすく示したのが下図「2025年第一四半期における、ホルムズ海峡を通過した石油・コンデンセートの国別日量」である。といっても、ロシア語で書かれたものだから、わかりにくいかもしれないが、ともかく、ホルムズ海峡がサウジアラビア、イラク、アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、クウェート、カタールなどの湾岸諸国から、中国、インド、韓国、日本、その他アジア諸国などに向けた石油・コンデンセート輸送の要衝となっていることがわかる。
(備考)左は供給国:(上から)サウジアラビア、イラク、アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、クウェート、カタール、その他
右は購入国:(上から)中国、インド、韓国、日本、その他アジア諸国、欧州諸国、米国、その他
原典はEIA
迂回路が存在する
ただし、ホルムズ海峡が全面的に閉鎖されたとしても、迂回路(うかいろ)があることだけは知っておいてほしい。3月14日付の「ニューヨークタイムズ」(NYT)は、「国際エネルギー機関(IEA)の推計によると、通常ホルムズ海峡を経由して輸出される原油やディーゼル燃料などの石油の4分の1以上は、依然として輸出が可能である」と明言している。「それは、エミレーツ(UAE)がアブダビからフジャイラまでホルムズ海峡を迂回する短いパイプライン(PL)を建設し、2012年に稼働を開始したためである」という。「もっとも、イランは両端の施設を攻撃目標としている」と指摘されている。
もう一つある。最大の代替ルートとして、1980年代にイランとイラクの間で「タンカー戦争」として知られるようになった紛争の最中に開通した、サウジアラビアの紅海へのPL(パイプライン)だ。このPLは1日あたり最大700万バレルの原油を輸送できる。しかし、そのうち200万バレルは国内の製油所向けであるため、本来なら海峡を経由して輸送されるはずだった原油に対して利用可能な輸送能力は、1日あたり約500万バレルにとどまる。
イランが機雷敷設を開始
執筆時点(3月15日)までに得た情報に基づいて、ホルムズ海峡で起きていることを推測してみよう。
3月12日付のNYTは、米国当局者の話として、「イランは3月12日、小型艇を用いた機雷敷設を開始した」と伝えた。ただし、CBSニュースは10日の段階で、米当局者がCBSニュースに対し、「イランがこの重要な航路をさらに混乱させるため、ホルムズ海峡に海軍用機雷を敷設する準備を進めている可能性がある」と語った、と報じていた。米当局者によると、イランは1隻あたり2~3個の機雷を積載できる小型船を用いて、同海峡に機雷を敷設しているとした。イランの機雷保有数は公表されていないが、これまでの推計では、主にイラン、中国、ロシアで製造された約2000個から6000個の海軍用機雷を保有しているとされている、と報道した。
CNNも、イランがホルムズ海峡での機雷敷設を開始したと伝えた。敷設はまだ大規模ではなく、ここ数日で数十個が設置されたに過ぎないという。しかし、イランが小型艇や機雷敷設艇の80%から90%以上を依然として保有しているため、同国の部隊がこの水路に数百個の機雷を敷設することは十分に可能だとの情報も報道した。アメリカ中央軍は3月10日の夜、ホルムズ海峡付近で、機雷敷設艦16隻を含む複数のイラン海軍艦艇を撃破したと発表し、その様子を撮影したビデオ(下を参照)をXに投稿した。
(出所)https://x.com/centcom/status/2031489675760640370?s=46
3月11日、ロイター通信は、「イランはホルムズ海峡に約12個の機雷を敷設した」と伝えた。ある情報筋によると、機雷は「ここ数日」に敷設され、その位置の大部分は把握されているという。しかし、同情報筋は、米国がこれらにどう対処する計画かについては言及を避けた。
こうした報道から判断すると、イランがホルムズ海峡に機雷を敷設しはじめたことだけは確実だろう。「事実上の閉鎖」という状況に陥っている。
イランは機雷5000発保有
これだけの説明をみても、機雷敷設の深刻さは理解できない。3月13日、「フォーリン・アフェアーズ」のサイトに公表されたマサチューセッツ工科大学(MIT)のケイトリン・タルマッジ准教授の論文「ホルムズ海峡の地雷原 同海峡ではイランが優位に立っており、米国には有効な選択肢がない」が参考になる。
まず、重要なのは、イスラム革命防衛隊(IRGC)の海軍がかねてから機雷、ミサイル、ドローン、いわゆる小型潜水艦、無人水上艇、武装高速艇を組み合わせて、ホルムズ海峡の航行を脅かす計画を立ててきた点にある。
これは、陸上で言うと、「テヘランは長年にわたり、ミサイルや無人航空機(UAV)の兵器庫を構築し、それらを領土全体に分散して、ほとんどの場合、発見が難しく、破壊がさらに困難な地下に確実に隠してきた」という記述に対応している。西側では、イラン攻撃の善戦ぶりはほとんど報道されないが、イランのミサイルとUAVは、カタールにある非常に高価な早期警戒レーダーと、ヨルダンにある約3億ドルの最新の地上配備型ミサイル防衛システム「THAAD」を破壊した(因みに、THAADは米国外に8基しか配備されていない)。別の情報では、少なくとも二つの米THAADミサイル防衛システム(ヨルダンとUAE)、三つのレーダー(クウェート)、レーダーインフラの一部(バーレーンとサウジアラビア)、そしてもっとも重要な施設であるカタールのアル・ウデイド基地にある長距離探知レーダー(イランからのミサイルの早期発射を追跡可能)が深刻な被害を受けた。
タルマッジ論文によると、「戦争前、一部の推計では、イランは約5000発の海雷を保有しているとされていた」。その一部は、1980年代後半のタンカー戦争でイランとイラクが互いの船舶を標的にした際に使用されたような、粗末な接触式海雷である可能性が高いという。だが、「その一部は発見がより困難な海底影響型機雷である可能性が高い」と指摘している。これらは音響、磁気、あるいは水圧の影響を受けて爆発し、起爆を制御するためのタイマー装置や船舶検知装置を備えている。
戦争前、イランは小型潜水艦や南部沿岸に配備された数百隻の小型船舶など、機雷を投下するための複数の手段も保有していた。米国とイスラエルによる大規模攻撃がはじまって以降、イランの機雷および機雷運搬手段のうち、どれほどが戦争を生き延びたかは不明だ。したがって、イランの機雷戦が大きな脅威とならない可能性もある。だが、「イランが戦争前に資産を分散させていたため、米軍の作戦を生き延びたものが存在する可能性もある」、とタルマッジは書いている。とくに、イランはすでに沿岸の多くの異なる場所に、小型船や潜水艇に機雷を配備している可能性があるという。
これに対して、「米海軍はこれまで機雷掃海を優先したことがない」という気になる記述がある。米軍の執拗(しつよう)な監視にもかかわらず、機雷敷設のための船舶は、その速度、小型さ、そして圧倒的な数ゆえに、海峡に到達する可能性がある。「たとえ各船が2~4個の機雷しか敷設しなかったとしても、イランにはそのようなプラットフォームが数百隻ある」から、イランが数日あるいは数週間の間に、「何百もの機雷を密かに敷設し終えることは、決して想像に難くない」とまでのべているのだ。
私のような門外漢からみると、「歴史的にみても、比較的少数の機雷でさえ、計り知れない影響を及ぼしてきた」という文以降の紹介は、刮目(かつもく)に値する。たとえば、1972年には、米国がわずか36発の機雷を投下しただけで、北ベトナムのハイフォン港への出入港をすべて停止させたという。1991年には、イラク軍がクウェート沿岸にわずか1000発の機雷を敷設しただけで、米国の水陸両用侵攻を阻止することに成功した。そのうち2発は後に米軍艦艇に命中したが、沈没には至らなかった。また1950年には、北朝鮮がわずか80平方キロメートルの海域に3000発の機雷を敷設しただけで、米軍による元山上陸を遅らせたという。
米海兵隊が中東へ
さらに、タルマッジは米国の掃海能力にも疑問を呈している。つい先秋、米国はペルシャ湾から最後の機雷掃海専用艦を撤収させた。現在、米国の保有艦艇の中でそのような艦はわずか4隻しか残っておらず、それらは日本に配備されている。米国の新たな掃海構想は、沿岸戦闘艦がヘリコプターや無人潜水機と連携して活動するというものだが、「この構想は実戦での検証を経たことがない」と指摘されている。
「歴史的にみて、掃海作業は時間がかかり、砲火の下ではほぼ不可能だ」、という気になる記述もある。1991年、米国とその同盟国がクウェート沿岸の907個の機雷を除去するのに51日を要した。しかもそれは湾岸戦争終結後であり、敗北したイラク側から提供された機雷原の地図という有利な条件があった上での話だ、と説明されている。
もしイランが海峡に機雷を敷設し、大規模な戦争がつづけば、米国は高価な軍艦やヘリコプターをイラン沿岸近くまで派遣して機雷を除去すべきか否かという難しい決断を迫られることになる。米国とイスラエルはイランの戦力を弱体化させたが、イランが対艦巡航ミサイル、ドローン、小型艇による攻撃で米国の機雷掃海プラットフォームを脅かすことは依然として十分あり得るから、一度敷設された機雷を除去するのは一筋縄ではゆかないのだ。
こうした事態に陥らないためには、米国は海兵隊や特殊作戦部隊を投入してイラン沿岸を制圧する必要があると判断するかもしれない。しかし、その場合、地上部隊の投入は死傷者のリスクを高め、泥沼化を招く恐れがある。
3月13日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)は、3人の米政府当局者によると、イランがホルムズ海峡への攻撃を強めるなか、米国防総省は中東へ海兵隊員と軍艦を追加派遣していると報じた。当局者によると、ピート・ヘグセス国防長官は、中東の米軍を統括する米中央軍からの要請を承認した。その要請内容は、通常、数隻の軍艦と5000人の海兵隊員および水兵で構成される水陸両用即応群の一部および所属する海兵遠征部隊の派遣であるという。さらに、日本を拠点とする米海軍艦艇「トリポリ」とその所属海兵隊は現在、中東へ向かっている、と当局者のうち2人が述べた、とも伝えている。
同記事を後追いするかたちで報道されたNYTは、2人の当局者の話として、「最大3隻の軍艦に約2500人の海兵隊員を乗せ、インド太平洋地域から中東へ向かっている」と報じている。海兵隊員は、同地域に展開する5万人以上の米軍部隊に合流するが、「新たな部隊がどのように活用されるかは不明だ」という。
14日付のNYTは、数日中にインド太平洋地域から第31海兵遠征部隊が到着すれば、国防総省は後方支援と航空支援を受けた海兵隊の歩兵部隊を率いて、島々への急襲を迅速に展開できるようになる、との元国防総省高官の見方を紹介している。島々に隠されている機雷を搭載した高速艇を殲滅するのがねらいだ。
自衛隊派遣を迫るトランプ
3月14日になって、トランプはTruthSocialに、「多くの国々、とりわけイランによるホルムズ海峡封鎖の試行の影響を受ける国々は、同海峡の通行を確保し安全を守るため、アメリカ合衆国と連携して軍艦を派遣するだろう」と書いたうえで、「この人為的な制約の影響を受ける中国、フランス、日本、韓国、英国、その他の国々が、同海域に艦船を派遣し、完全に首脳部を排除された国家によるホルムズ海峡への脅威を根絶してくれることを期待する」とのべた。
この訴えは、「言うは易く行うは難し」の典型だ。過去の事例からわかるように、機雷の除去はそう簡単にはできない。多数の犠牲者を伴う。
執筆時点で言えるのは、現実は厳しさを増しているということだろう。トランプは、この重要な石油供給ルートを航行する商船の護衛を海軍艦艇に命じる可能性があるとのべているが、現実は米国軍の犠牲なしに護衛など、そもそも困難きわまりないのだ。先にトランプの要請に応じる国々からも多数の犠牲者が出るだろう。
高市早苗首相がトランプ大統領に会って、何を言うかはわからない。もし、機雷掃海協力と言い出したら、それは自衛隊員の死を意味する、と私には思われる。
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