AIに尋ねれば、もっともらしい答えが瞬時に返ってくる──写真も映像も言葉も、いまや本物と区別がつかないレベルで生成できるようになった。
そんな時代に、私たちは何を信じ、どこに判断の基準を置けばよいのか。
気候変動をめぐる議論でも、対策に反対する言説や断定的な主張が溢れ、情報環境はさらに複雑化している。知識を吸収していく子どもたちにとって、「誰かが言ったことをそのまま受け取ってしまう」状況は決して小さな課題ではない。
絵本『あちちち地球とだいじなやくそく! ニコとサクの大冒険』の主人公ニコは、旅のなかで「自分は悪者なのか」「本当は何が起きているのか」と問い続ける。すぐに答えは与えられず、自分の目で見て、立ち止まり、考える──そのプロセスこそが物語の核となっている。
フェイクが容易に紛れ込む時代において、何を疑い、何を手がかりに思考すべきなのか。そして、未来を担う子どもたちにどんな視点を手渡すべきなのか。地球温暖化の現状を発信し続ける国連広報センター所長・根本かおる氏と、海の変化を現場で見つめ続けてきたさかなクンの対話から、そのヒントを探っていく。
対談前回は【“撤退”しまくった二人が語る、「白旗をあげてもいい」それでも“キャリアが壊れない人”の共通点】から。
AIは便利だけど…気を付けるべきなのは?
──気候変動対策を阻む要因のひとつに、「フェイクニュース」があります。AIでなんでも作れるようになりつつある今、私たちはなにを信じればいいのでしょうか?
根本かおる(以下、根本さん):気候変動や地球温暖化は「自然のサイクルだから大したことではない」と、対策を遅らせるような情報が流れています。これは日本だけでなく、世界的に大きな流れになっています。
だからこそ私たちは、正しい情報、信頼できる情報で自分を守らなければなりません。
もし、みんなが「対策をとらなくてもいい」と思ってしまったら、気候変動のたがが外れ、急激に進んでしまいます。そうなると、冒頭でお話ししたように、海面上昇で国がなくなったり、「食」が脅かされたりして、未来が続かなくなってしまうんです。
子どもたちには、おうちの方や先生と話しながら、「このウェブサイトは信頼できる」「この情報源は確かだ」と確認する習慣をつけてほしいと思います。
今はフェイクニュースがあまりにも多いため、環境省が信頼できる情報のリストを作っていますし、私たち国連広報センターも掲載してもらっています。(※1)
※1 [env.go.jp] 出典:環境省
──AIにたずねると、フェイクニュースが出てくることもありますよね?
根本さん:一度きいて鵜吞みにするのではなく、言葉を変えながら何度か聞いてみること。そして、答えにたどり着くための情報源まで見る習慣をつけると、ずいぶん変わると思います。
さかなクン:あとは、電話やメールなどでもいいので、信頼できる先生や専門家の先生に実際に聞いてみるのもおすすめでギョざいます。博物館や飼育員さんにたずねてみたりとか。
根本さん:博物館や水族館、動物園がワークショップを行っていることもありますから、参加してみるのもいいですよね。
──フェイクニュースで、実際に困ったことはありますか?
根本さん:私がよく知っているニュースキャスターの女性が、投資詐欺を呼びかけているかのように、画像を巧妙に利用されたことがあります。著名な女性タレントのポルノ画像なども蔓延していますよね。
合成AIが進化していくなかで、さかなクンがおっしゃるように、リアルな場所に足を運ぶことが、ますます大きな価値を持つようになっています。
さかなクン:さかなクンもお魚の写真や映像をいろいろ検索してみると、「このお魚とこのお魚は、本来同じ環境にいないはずなのに」とか、「このお魚の姿や模様、なんだか違和感が!?」とフィッシュギ(不思議)に思うことがあります。映像もよくできていることも多いので、パッと見ると、そのまま信じてしまうことも多いのではないでしょうか?
──さかなクンが持っているような基本的な知識が、あまりない状態でAIなどを使って調べる機会も増えています。子どもたち、あるいは知識の浅い人は、フェイクかどうかをどう見極めればいいのでしょうか?
さかなクン:これはすギョく難しい問題の一つだと思います。先日行った授業でも、ウミガメちゃんが海の中を漂うゴミを食べてしまっている写真について、「これは合成ではないか?」と専門家の先生がギョ指摘したことがありました。専門家の先生が疑問に思われるくらい、謎めいたお写真でした。
具体的にどこの海域で、どんな状況で撮影されたのかなどの科学的なデータがあれば信ぴょう性は高まりますが、そうでない場合、見極めるのはとても難しい。特に近年は、なおさらです。
根本さん:だからこそ、「真実を探すことをやめない姿勢」が大切ですね。
さかなクン:はい。根本さんのお言葉どおり、鵜吞みにしない、ということですね。研究者の先生方は、「まず疑問に思うこと」が大切とおっしゃっています。
偉大な研究者の方から聞いた、こんな言葉があります。
「“何か怪しい”は、新たな発見の種です」
疑問を持つことは、疑うことではなく、世界をより深く知ろうとする第一歩。その姿勢こそが、きっと! フェイクが蔓延する時代を生き抜く力になりますね。
──日本では同調圧力が強く、子どもたちも他の子と違う意見を言うのに、とても勇気がいります。国際社会では、みんなと同じ意見を言えばいいというより、主張しなければならない瞬間もあるかと思います。「怪しいと思う勇気」は、どうやって持てばよいのでしょうか?
根本さん:その場のルールとして、「人を非難することは避けましょう」という姿勢はとても大切です。どんな意見でも、まずは受け止めること。
みんなそれぞれに固定観念があるので、実際には簡単なことではありませんが、言い返したくなる気持ちを、ぐっと抑えましょう、と。「そういう意見もあるのか」と受け止めることを、グラウンドルール(みんなで守るルール)にする。そうやって、先生や場をリードする方が念押ししていくことが大切だと思います。
さかなクン:「否定しない」ということは、本当に大切だと思います。否定するから、争いが起きたり、孤立してしまったりするんですよね。
さかなクンは言葉を発するときは、「自分が言われたら傷つくと思うこと」は、言わないように心がけています。
根本さん:素敵ですね。「怪しいと思うのは発見の種」ですが、怪しいと感じても、相手を否定せずに、「じゃあ、一緒に怪しんでみよう」と思えたらいい。そうすれば、仲間を持ったまま、次の発見を探しにいくことができますね。
──最後に一言ずついただきたいのですが、お魚たちにいちばん近い存在として、さかなクンから子どもたちに“お魚の声”を届けてください。
さかなクン:先人の素敵なお言葉をお借りすると……
「みんな違って、みんないい」んです。
多様性があってこそ、地球の生態系は成り立っています。だから、みんなに無理に合わせなくていいし、一人ひとりが持っている個性はとっても大切です。まわりにいる親や大人の皆さまも、それを応援してあげてほしいです。
根本さんのお言葉のように、否定せずに個性を伸ばしてあげられれば、日本の魅力や多様性、そして可能性も、きっと広がっていくと思います。
──根本さんは、読者の子どもたちが大人になるとき、地球はどんな場所になっていてほしいですか? また、そのために伝えたいことがあれば教えてください。
根本さん:美しい地球を未来につないでいけるかどうかは、読者の皆さんも含めた、私たち一人ひとりの努力にかかっています。
気候変動対策というのは、世界のたくさんの国々が力を合わせて、「約束ごとを守ろう」と誓うことです。それをみんなで守るからこそ、この地球を未来へとつないでいくことができるのだと思います。
それから海についてですが、2025年1月にとても重要な条約が発効しました。それは、どの国の管轄権も及ばない「公の海」の生物多様性を守るための条約です。(※2)
国際社会では対立や分断が深まっていますが、そんななかでも、「みんなの財産を一緒に守ろう」という決まりごとがまとまり、日本を含む国々が加盟し、批准されて、初めて効力を持ちました。これが実現したんです。
多様性は「力の源」です。そして同時に、「みんなが力を合わせる」ことができたとき、ものすごく大きな力が発揮されます。
読者の皆さんには、
「みんな違って、みんないい」
そして、
「みんながまとまったときに、大きな力になる」
この二つを、ぜひ心に留めてほしいと思っています。
※2 潮目を変える国際海洋条約が発効へ(UN News 記事・日本語訳) | 国連広報センター 出典:国連広報センター
未来のために自分たちができること
気候変動は、子どもたちが生きていく未来の基盤そのものを左右するテーマだ。世界の現状を伝える根本かおる氏と、海の最前線で生き物たちの変化を見つめてきたさかなクン──立場の異なる二人の対話だからこそ、危機感だけでなく、状況にどう向き合い、どう希望を見いだすかが丁寧に語られた。
絵本『あちちち地球とだいじなやくそく!』は、正解を押しつける本ではない。大人と子どもがページをめくりながら、「地球でいま起きていること」や「これからどう生きるのか」を対話するための入り口となる。外に出て、自分の目で見て、感じ、考える──その小さな行動を後押しする物語だ。
今回の対談と絵本が、家庭で未来について語り合うきっかけとなり、ひとりひとりが「自分にできること」を見つける時間へとつながっていくことを期待したい。
【対談をはじめから読む】気づかないうちに始まっている「地球の異変」とは…クマや魚が動き出した共通のワケ