本はファッションアイテム
韓国の若い世代の間で「テキストヒップ(Text Hip)」という言葉が流行している。文字を意味する「テキスト」と、格好いいを意味する「ヒップ」を合わせた造語だ。映像コンテンツがあふれるこの時代において、逆説的に本を読むという行為自体が一つの趣向であり、「感性」となった。書店で本を選び、カフェで読書をする場面を写真に残すことは、今やSNSにアップしたくなるような洗練された日常となっているのだ。
韓国のインスタグラムで「#ブック(BOOK)スタグラム」あるいは「#テキストヒップ」を検索すると、約1200万件にのぼる投稿が表示されるという。感覚的な構図で撮られた本の写真、気に入った一節を書き写した手書きのノート、雰囲気の良い独立系書店でのスナップ、読書に関連する可愛らしい小物まで、本は自分を表現するための「ファッションアイテム」となったのだ。
若年層の「テキストヒップ」ブームは、数字でも証明されている。2025年のソウル国際ブックフェアでは、予約の段階で入場券15万枚が完売したが、来場者の7〜8割が20代と30代の女性だった。
成人の全体読書率が過去最低を記録する一方で、20代の読書率は75.3%に達し、全年代の中で唯一、前年より上昇した。25年の韓国の大手書店の統計によれば、直近1年間の2030世代の図書購入額は前年比で約15〜20%増加しており、特に詩集や短いエッセイの売上は前年比30%と急増した。テキストヒップとは「文章」を消費することであり、魅力的な文章が収められた文学作品が特に人気を集めているためだ。
韓国の若年層におけるテキストヒップの流行に火をつけた事件は、24年の韓江(ハン・ガン)によるノーベル文学賞受賞だった。韓国人作家が世界最高の文学賞を受賞したという事実は、若者たちに一種の自負心とともに、文学への関心を呼び起こした。
K-POPスターたちもテキストヒップ・ブームに一役買っている。韓国の少女たちの憧れである人気ガールズグループIVEのウォニョンは、インタビューで移動中にショーペンハウアーなどの哲学書を読んでいると明かし、LE SSERAFIMやBLACKPINKのメンバーたちが本を手にしている姿もしばしばカメラに捉えられ、ファンの間で購買運動が起きることもある。欠かせない存在はBTSのRMだ。彼が推薦した『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著)や『アーモンド』(ソン・ウォンピョン著)は、韓国のみならず日本でもベストセラーとなり、その波及力をいかんなく発揮した。
世界的な文学作品と
こうしたテキストヒップのブームの中で人気を集める作品を覗いてみると、二つの特徴が目につく。
一つは、世界的な権威を持つ文学賞との繋がりだ。ノーベル賞のハン・ガンをはじめ、ブッカー賞候補に挙がったチョン・ボラの『呪いのうさぎ』、チョン・ミョングァンの『鯨』なども若者が好んで手に取る作品だ。「世界が認めた」という墨付きが、テキストヒップ世代にとって「センス(趣向)」の根拠となるのである。
もう一つは、洗練された感覚的な文章で若者の情緒を的確に捉えた作品が多い点だ。1998年に初版が刊行されたヤン・グィジャの『矛盾』が、30年近く経った今、再び話題作となったのは、生の本質を突く文章の力によるものだ。「人生は探求しながら生きるものではなく、生きながら探求するものだ」といった哲学的なフレーズが、生に疲れた若者たちに慰めを与えている。
『ショウコの微笑』 『明るい夜』などで韓国の若年層に特に人気のあるチェ・ウニョンの文学作品も、若者の感情を正確に捉え、淡々と書き綴った文体で大きな人気を博している。「時間が経ってようやく私は悟った。誰かを理解するということは、その人の苦痛を理解することではなく、その人が苦痛を受けているという事実を忘れないことなのだということを」という作中の文章は、SNS上で最も人気のある書き写しフレーズの一つに数えられている。
日本文学も欠かせない
韓国のテキストヒップのブームにおいて、日本文学も欠かせない存在だ。韓国最大のオンライン書店「イエス24」の今年の最初のベストセラーは、鈴木結生の『ゲーテはすべてを語った』であった。2001年生まれ、25歳という若さで日本最高権威の芥川賞を受賞した話題性に加え、韓国のテキストヒップ世代から絶大な信頼を得ている映画評論家イ・ドンジンの推薦という二つのお墨付きが重なった形だ。内容自体の興味深さはもちろん、小説の至る所にゲーテ、プラトン、ミルトン、マラルメといった膨大な引用文が散りばめられており、「書き写したい、SNSに載せたい文章にあふれている」というのが読者たちの反応だ。
太宰治の『人間失格』もまた、テキストヒップ世代の愛読書である。1948年に執筆されたこの作品は、韓国語の翻訳版だけで10種類を超え、2023年の教保文庫(キョボムンゴ)で最も売れた古典となった。深刻な就職難や競争社会の中で、自らを「失格者」のように感じる韓国の青年たちに、主人公・葉蔵の独白が深く響いていることが人気の秘訣だろう。
東野圭吾も外せないが、ここで興味深い点がある。日本で彼の最高傑作に挙げられるのは『白夜行』や『容疑者Xの献身』であるのに対し、韓国では『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が圧倒的な人気を誇る。殺人事件も犯人も登場せず、時を超えて手紙で温もりを分かち合うこの物語は、10年以上も韓国のベストセラーリストに名を連ねている。韓国の読者は東野圭吾を「ミステリー作家」ではなく、「慰めの作家」として読んでいるのかもしれない。
結局、韓国の若者が日本文学に求めているのは、刺激ではなく「慰め(ヒーリング)」なのだろう。考えてみれば、この世代ほど刺激に囲まれた世代もいない。スマートフォンを開けば溢れ出すショート動画、絶えず比較を煽るSNS、就職と競争のプレッシャー。この世の中は24時間、彼らに、より速く、より刺激的に、より多くを要求している。
本を読む自分を見せたくて始めたが、実際に本を開くとその中で慰めを見つける「テキストヒップ」のブームは、速く刺激的な世界の中で、もしかしたらただ少し休みたいという韓国の若者たちの切実な信号なのかもしれない。
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