日経平均株価は史上最高値圏に入り、昨年から続く「高市トレード」も、引き続き注目を集めています。しかしその前提条件として世界経済や地政学リスクの変化も無視できず、株価は乱高下を続けています。
実際、米・イスラエルによるイラン攻撃を受け、ホルムズ海峡が閉鎖されたことを各社が報じました。これを受けて、多くの海運企業や石油メジャー、商社が同海峡経由の輸送を停止し、主要船社も通航停止や予約停止などの対応を強めました。
また「安全神話」とされたドバイでも国際空港や港湾がイランから攻撃を受け、大規模な混乱が起きています。これらを受けて原油先物価格は急騰し、ゴールドマン・サックスは「原油価格には18ドルのリアルタイムのリスクプレミアムが上乗せされている」と推定しているように、株式市場の前提は大きく変わろうとしています。
ドバイ「安全神話」の崩壊
中東情勢の緊迫化により、輸送コストや保険料は急騰しています。ホルムズ海峡には世界の石油消費量の約20%に当たる日量2000万バレルが通っており、この地帯での航行停止は世界中のサプライチェーンに波及します。
こうした要因により、運賃や船体保険料に短期的な上昇圧力がかかっており、仮に混乱が長期化し、タンカーの通航が迅速に回復しない場合、データ分析企業のウッド・マッケンジーは原油価格の100ドルタッチを警告しています。
原油輸出の要衝であるホルムズ海峡は、過去にも世界情勢に左右される出来事が数々起こっています。それらのケースと今回違うのは、UAE(アラブ首長国連邦)のドバイがイランの攻撃に遭った点です。中東で戦火が拡がっても、ドバイまでは及ばないという「安全神話」がありました。オイルマネーに潤い、「ブルジュ・ハリファ」に代表される観光都市としての側面もあり、世界からヒト・モノ・マネーが流れ込んでいたわけです。
そのドバイが攻撃されたことで、中東全体が一気にリスク視されました。ドバイ国際空港が全便停止され、ジェベル・アリ港の埠頭では火災が発生、世界最大級の輸送拠点が混乱しました。これにより、これまで中東紛争の影響が限定的だと考えられていたマーケットに冷水を浴びせています。
この結果、原油や資源価格の急騰リスクだけでなく、株式市場にはドバイの安全神話という「常識」が通用しない新たなリスクプレミアムが生まれたと考えられます。
高市トレードは今から間に合うのか?
では、こうした状況下で「高市トレード」に新規参入する余地はあるのでしょうか。結論から言えば全力で飛び乗るのは得策ではなく、むしろ注意深い組み方が必要です。
まず時間軸を確認すると、イギリスの国際金融グループであるバークレイズは今回の地政学ショックについて、『すぐに押し目買いする段階ではなく、十分に調整してから』という趣旨で警告しています。また「現時点でリスクとリターンのバランスは魅力的ではない」とし、市場がさらに下振れしてから買い場を探す姿勢を示しています。
このように価格にショックが織り込まれておらず、反転リスクも高い現状では、頭から「全力投資」はリスクが大きいわけです。
こうした社会情勢が混乱した状況における投資戦略としては、コア&サテライトの考え方が有効です。定石としては、コア資産にオルカンなどのインデックスファンドを置き、サテライト枠で攻めの個別株などの投資戦略を取るものです。
例えば、中東ショックによって注目される防衛関連・資源関連・商社株はテーマ性の高いサテライトとなり得ます。とはいえ、防衛銘柄は地政学リスク上昇で中長期的受注拡大が期待され、海運株は運賃上昇の恩恵を受けやすいテーマです。ただし、いずれも物色が先行しており、市場のムードが変われば急落するリスクもあります。
最悪の入り方としては、株価が上昇トレンドにあるタイミングで焦ってフルインベストメントすることです。これを避けるため、先に投資割合(コア・サテライトの比率)を決め、段階的に入ることを意識しましょう。加えて、今後のテーマとして「防衛・資源・商社」セクターへの少量投資を検討する価値はありますが、あくまでポートフォリオの補完にとどめ、過度な集中は避けることが無難です。
「高市トレード」の投資戦略と日本株の注目候補
高市トレードは「個別株当て」ではなく、政策×地政学×インフレが重なる“地殻変動”をテーマから逆算して捉えるという前提で投資戦略を考えれば、サテライト比率の上限を決めて、複数回に分けて購入するのが基本です。注目したい日本株を、テーマ別にピックアップしてみましょう。
①安全保障(防衛・サイバー・宇宙)
ーー「リスクプレミアムの常態化」に強い
三菱重工業(7011):ミサイル関連を含む防衛領域や宇宙(ロケットなど)を含む幅広いポートフォリオで、国策テーマの“中核”になりやすいです。象徴銘柄ゆえ、ムード反転時のボラティリティが大きいのには注意です。
IHI(7013):航空エンジン、防衛・宇宙関連に強みを持つとされ、重工の中でも“空の安全保障”側からテーマに乗りやすいです。
川崎重工業(7012):潜水艦・航空機・ヘリ、ミサイル用エンジン、無人機など幅広い装備領域を手掛けています。
三菱電機(6503):レーダー・ミサイル・指揮システムなど防衛電子分野で実績があります。 センサー・電子の中核で、重工3社と値動きの相関を分散する目的にも。
安全保障(防衛・サイバー・宇宙)関連銘柄
ーー見えない国防=サイバー・基幹IT
NEC(6701):防衛×指揮通信×官公庁ITの接点。重工と違う角度で国策に乗せやすいです。また、トレンドマイクロ(4704)はサイバー銘柄の象徴とも言えます。地政学リスク=サイバーの連想買いにも期待したいところです。
②エネルギー安全保障(資源・供給網)
——原油高の「保険」として機能しやすい
INPEX(1605):国内最大級の資源開発(原油・ガス)企業として位置づけられ、資源高局面のヘッジ的役割を担いやすいです。 資源価格そのものの変動が大きいのには注意。
ENEOSホールディングス(5020):精製・販売の国内基盤が大きく、エネルギー供給の中核プレイヤーです。 INPEXと性質が少し異なるため、同じセクターでも分散投資に使いやすい。
総合商社(三菱商事 8058/三井物産 8031/伊藤忠商事 8001):エネルギー・資源と事業投資の両輪で、テーマを“会社のポートフォリオ”で受け止められるのが強みです。特に三井物産はエネルギー(LNG権益等)を中核としています。 またバフェット銘柄としての投資家からの評価が高いことも安心材料です。
③輸送/保険コスト上昇(海運・保険)
——「運賃×保険料」の再評価が起きやすい
日本郵船(9101)/商船三井(9104)/川崎汽船(9107):エネルギー輸送(油送船・LNG船など)や物流のプレイヤーで、運賃や需給の変化が業績材料になりやすいです。 ただ、ニュースで急騰しやすい反面、需給が落ち着くと一気に株価が下落するリスクもあり、短期テーマ色が強いことは留意しておきましょう。
損保/東京海上HD(8766):地政学リスクが常態化すると保険の価格が見直されやすい、という視点です。損保を中核に国内外で展開しているキープレイヤーです。
また、上組(9364)は港湾荷役・物流。運賃だけでなく「港の処理能力」という視点で注目です。三菱倉庫(9301)や三井倉庫HD(9302)などの倉庫関連銘柄は、混乱長期化で物色される可能性もあります。ロジスティクスの混乱に伴う迂回・代替運送の局面では、NIPPON EXPRESS HD(9147)にも期待したいところです。
後編記事『上昇中の「金融銘柄」、人気の「オルカン」は買うだけでOK?中東ショックで迎える「危険なシナリオ」』へ続く。