「渋谷の再開発」はいつ終わるのか
90年代には「渋谷系」、「渋カジ」といったワードが生まれ、ギャル文化の聖地としても知られるなど、数々のカルチャーの発信地としてその時代時代を牽引してきた東京・渋谷。
しかし、90年代後半から2000年代初頭にかけて、サイバーエージェントやGMOインターネットなど、IT企業が続々と渋谷に集積するようになり、徐々にオフィス街としての様相を帯びてくる。その後、渋谷は再開発ラッシュとなり、さまざまな商業施設、オフィスビルなどが立ち並んだ。
さらに再びIT企業などが集まるようになってきているとのことで、2024年に開業した渋谷駅直結の「渋谷サクラステージ」が、それらの企業の受け皿として機能しているという。
そんな現在も再開発が進む渋谷で、公園通り沿いに面した神南一丁目エリアに、新たな施設の建設計画が発表されて注目を集めている。近隣に「渋谷パルコ」があり、「タワーレコード渋谷店」のはす向かいとなるそのエリアに、地上24階、地下4階の商業施設、宿泊施設、事務所などが一体となった巨大複合施設が建設されるというのだ。
この神南一丁目の再開発計画に対してネットでは、以下のような声がみられる。
《渋谷らしい土地をぶち壊し、壁をつくり、流石にやりすぎ》
《あそこは「渋谷っぽさ」の入口なのに…。便利さのために空気ごと削ってる感じして、さすがにやりすぎだと思う》
昔ながらの渋谷を感じさせる数少ないエリア
この神南一丁目の地域には、カフェやアパレル店、古着屋、ヴィンテージショップなどが立ち並び、昔ながらの渋谷の風情を感じさせる数少ないエリアなのだ。
さらに渋谷の再開発全体に対しては、こんな意見も。
《さすがに渋谷は同じような施設を造りすぎ》
《またこの似たような中途半端に緑があるビル。どこもかしこも東京はこれ。中にはスタバ。なんの魅力も感じない》
《渋谷の商業施設どこもガラガラなのに、、、!?流石に懲りてくれよ》
相次ぐ渋谷の再開発だが、果たして活気に満ちた新たな街として進化していくことはできるのか。今回は、地方自治体主導の街づくりや公共施設のコンサルティングにも従事する、建築エコノミストの森山高至氏に渋谷の再開発について解説していただく。(以下「」内は森山氏の発言)
40年以上にわたって続く再開発
現在、JR渋谷駅周辺では旧東急百貨店跡地の大規模な再開発が行われているが、駅入口は以前より狭くなり、混雑する状況が続いている。渋谷の再開発については“いつ終わるのか?”といった声も多いが、改めて渋谷の再開発の歴史について森山氏に聞いた。
「厳密に言うと再開発は1980年代あたりから始まり、現在に至るまで実に40年以上にわたって続いるという状況です。しかしまだまだ再開発の流れは続くとみられ、少なくともあと10年はかかるのではないでしょうか。また、再開発の全体像として、渋谷駅を中心とした街づくりを推進していると思われますが、実は駅周辺は本来なら再開発がしにくいはずの土地なのです。
というのも、坂が多かったり、細かい道が入り組んでいたり、小さな店が点々と存在していたりと、地形的にも複雑ですし、地権者の説得にも時間がかかるハードルが高いエリアだからです。また細い道や小さなお店が多々あるといった複雑さこそが、渋谷ならではのディープな雰囲気を生み出す魅力的な個性でもありました。正直いま進んでいる渋谷の再開発事業に関しては、デベロッパーたちが強引に推し進め、渋谷の街のよさを活かしきれていないといった印象が強いです」
入り組んだエリアを更地にして巨大ビルに
そして今回発表された神南一丁目の再開発計画について、森山氏はこう予想する。
「渋谷は複雑に入り組んだ地形によって個人経営の小さな路面店が立ち並ぶようになり、新たなビジネスが生まれるという事業成長のプロセスが形成されていたわけです。神南一丁目もまさに入り組んだエリアで、隙間の細道や雑居ビルに小売店が密集しているのですが、今回の再開発ではここ一帯を更地にして統合したうえで、巨大なビルを建てるということになります。こうして大きな区画に整理していくことは、渋谷の持つ街のよさを潰すことになりかねません。
また、再開発でできる複合施設の多くは、ひとつあたりのテナントの面積が大きく、賃料が高いという特徴があります。デベロッパー側からすれば、小さな面積で賃料を下げて貸すよりも手間が省けるからです。ただ、こうしてしまうと、高い賃料を安定して払えるチェーン店ばかりが入居し、結果的にどの施設も同じような店が立ち並ぶ、個性のない施設となるのです。
神南一丁目の場合も、周辺の商業施設と同じような、特に代わり映えのしない無難な施設となるのではないかと予想しています。こうした再開発は街のよさを奪うだけでなく、新たなビジネスの成長機会も奪ってしまっているという懸念もあるため、考え直す必要があるのではないでしょうか」
さらに宿泊施設もできるとのことだが、森山氏はその需要について疑問視。
「確かに渋谷は宿泊施設が少ないですが、立地的には宿泊地としての魅力はそこまでないと思います。羽田、成田といった空港へも乗り換えが必要なのでアクセスもそこまでいいわけではないですし、神南一丁目までは駅から距離もあり、坂が多いため、大荷物を抱える観光客にとっては意外と不便なエリアともいえるでしょう」
「街の個性」が消失していく
渋谷に限らず再開発といえば、とりあえず駅近くに巨大ビルを建てるというのが定番化しているが、どうして日本各地でこういった画一的な再開発ばかりが横行しているのだろうか。
「業界の体質の問題でしょう。不動産業界では、いかに短期的に成果を出すか、いかに失敗せずに計画を最後まで完遂させるかが重要で、それが業界内での評価基準となっています。
大きなプロジェクトの責任者となると、一度の失敗で失脚してしまうというケースが少なくありません。例え斬新で素晴らしいアイデアがあったとしても、前例のない再開発計画となると、失敗してしまった場合、その担当者は積み上げたキャリアが水泡に帰すこともあります。ですから革新的な計画よりも、過去の再開発の成功事例を踏襲するような無難な計画ばかりになるという流れができあがってしまっているのです。
本来の再開発というのは街づくりを通して活気を生み出すことだと思うのですが、現在の再開発は全く異なります。デベロッパーが自分たちの仕事を作るために強引に再開発を推し進めているというのが実情です。つまり、本来なら街をよくするために再開発をするはずが、デベロッパーの都合によって再開発されてしまっているという、本末転倒な事態となっているのです」
さらに森山氏は、自治体とデベロッパーの関係についても問題視している。
「本来であれば市区町村などの自治体は、過度な再開発に対しては規制をすべき立場です。しかし、なぜか再開発の規制をしない自治体が多い。実はその背景には、デベロッパーが天下り先となっており、自分たちの社会的地位の確保といった理由が潜んでいるのです。つまり保身のためにデベロッパー側の意向を受け入れるという依存関係もまた問題なのです」
――もちろん再開発にはメリットも大きくあるだろうが、渋谷のように街の個性が消失していく再開発が数多く進行していることも確かだ。
不動産業界の体質や、自治体とデベロッパーの関係性など、根本から変えなければならない諸問題を今後どう解決していくのかが問われている。神南一丁目エリアの再開発計画は、未来の渋谷にとっての是か非か、注視していきたい。
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