地球が文字どおり“あちちち”と悲鳴を上げるような暑さに見舞われるなか、生態系はすでに静かに変容を始めている。水温の上昇に合わせて魚の分布域は北へと広がり、海の中では大規模な“引っ越し”が進む。一方で、人間はそう簡単に住む場所を変えることはできない。
では、環境の急激な変化を前に、私たちはどのように向き合えばいいのか。
地球温暖化の現状を発信し続ける国連広報センター所長・根本かおる氏と、海の変化を現場で見つめ続けてきたさかなクンが、絵本『あちちち地球とだいじなやくそく! ニコとサクの大冒険』に触れながら、食卓の変化や日々の選択に目を向けながら、「個人として何ができるのか」を考えるヒントを探っていく。
対談前回は【気づかないうちに始まっている「地球の異変」とは…クマや魚が動き出した共通のワケ】から。
魚にまつわる最近の食卓事情
──魚たちが引っ越しを始めている今、私たちの“食卓”には、どんな変化が起きているのでしょうか?
さかなクン:はい! じつは、日本のお魚はとても種類が多く、5000種ほどものお魚が知られているのですが、普段、私たちがいただいているお魚は30種ほどと言われています。(※1) これは、非常にもったいないことです。
根本かおるさん(以下、根本さん):確かにそうですね。のどぐろも、少し前まではあまり食べられていなかった魚ですよね。錦織圭さんが「帰国後に食べたい」と話されたことで、知名度が一気に広がりましたね。
さかなクン:ギョギョギョ‼︎
根本さん:さかなクンは「未利用魚」(※2)に着目して、美味しく食べるレシピをテレビ番組などでも紹介されていますよね。
さかなクン:はい。ありがとうギョざいます。お魚はそれぞれ、姿も形も大きさも味も違います。それぞれのお魚に合ったお料理でいただくと、とっても美味しく感動します。「未利用魚」や「低利用魚」などとせず、どのお魚も大切に活用することが日本の食の豊かさにもつながると思います。
根本さん:そうですね。私は、食べ物はできるだけ地元のものを食べるようにしています。運搬にともなう二酸化炭素の排出を抑えられますし、新鮮なものを手ごろにいただけますから。
少し形が崩れているだけで店頭に並ばないものも、地元のスーパーではまとめ買いできることがありますよね。限られた枠のなかで活用し、つないでいくことが大切だと感じています。
さかなクン:流石! 根本さん。素晴らしいです。お魚も一匹で見ると、頭や内臓、骨を取り除くと、食べられる部分はおおよそ半分ほどになってしまいます。
でも、頭や骨のまわりは栄養が豊富ですし、あら汁にするととても美味しい。小魚の骨は骨せんべいにもできます。どうしても食べられない骨や内臓の部分などは肥料にすれば、土が元気になって、植物もよく育つ。その土で育ったお野菜は、やっぱり美味しいんです!
根本さん:食品ロスを減らすことにもつながりますし、循環型の暮らしは大切ですね。そうしたことも含めて、私たちが個人レベルでできる気候変動対策は、たくさんありますね。
※1 出典: 日本産魚類全種目録(JAF:Japan’s all fish species list)
※2 出典:(PDF・公式)水産庁『水産この1年/未利用魚の活用』
『悪者』にされたCO2がほんとうに伝えたかったこと
──この絵本を通して、子どもたちに、どんなことを感じ、どんなことを理解してほしいと考えていますか?
さかなクン:ものすギョく心温まる、すてきなお話でギョざいます。
最初は、主人公のニコちゃん(CO2)が地球先生に怒られて、しょぼくれている姿が、とても切ないですが、世界中を巡る旅を通して、今、地球でなにが起きているのかを知るきっかけになっていく。ところどころで、「ぼくたちCO2のせいなんじゃないか」と落ち込む場面もありますが、自分たちがいたからこそ、生き物が誕生したことにも気づいていく。
この本を読んだお子さまが、「ぼくもわたしもお外に出て、自分の目で見て、気づいて、肌で感じてみよう」と思われたら、最高でギョざいます♬
根本さん:このストーリーから、私は「みんな仲間だ」というフレーズが浮かびました。「誰ひとり取り残さない」というSDGsのテーマにも通じる気づきを、ニコちゃんは旅のなかで見つけていくんですよね。
北極の氷が小さくなり、シロクマの住める場所が減っているという話は、人間の世界でも起きています。小さな島国では、海面上昇で海岸が侵食され、遊べる砂浜や家が建っている場所まで失われ、避難を余儀なくされる現実があります。(※3) 旅を通して、そうした世界の現実に触れられるのも、この絵本の大きな魅力だと思います。
さかなクン:どの生き物にも役割があって、たくさんの生き物によって地球の生態系は成り立っています。この本で、そんな大切なことをあらためて学ばせてもらいました。そして、ニコちゃん、つまり二酸化炭素が増えすぎると大変なことになる。生態系は「バランス」がとっても大切なんだ、ということも、とてもわかりやすく描かれています。
根本さん:それから、「サクが芽を出すシーン」。光合成の場面が印象的でした。木を植えることは、子どもにもできる具体的な気候変動対策のひとつです。
直接、木を植える機会が作れなかったとしても、たとえば「売り上げの一部がマングローブの植林に使われます」といった商品を選ぶことも、立派なアクションです。
マングローブは二酸化炭素を吸収するだけでなく、海面上昇による台風やサイクロンから人々を守る、防波堤のような役割も果たしています。(※4) 地球の裏側で起きていることを、ニコちゃんの目を通して、一緒に冒険している感覚で知れるのは、とても素敵なことですよね。
さかなクン:はいっ♬ その大冒険のお船が、ペットボトルっていうのも乙(おつ)ですよね。ふだんは厄介者扱いされがちなので……。
※3 海面上昇の流れを変えるために、地球温暖化を食い止めよう(UN News 記事・日本語訳) | 国連広報センター 出典:国連広報センター
※4 出典:IPCC(2022)Climate Change 2022: Impacts, Adaptation and Vulnerability
絵本を通して気づく「変化」への一歩
役目を失ったはずの“ゴミ”が船となり、「いらない存在」だと思い込んでいたニコが仲間と出会い、旅に踏み出す──。
この絵本は、そうした“小さな気づき”の積み重ねが、世界の見え方を大きく変えていくことを静かに示している。ページを閉じたとき、子どもたちがふと外に出て、空や木、海に目を向けてみたくなる。その一歩こそが、未来への確かな入り口になるのだろう。
次回の第3回では、「居場所」や「遠回り」をテーマに、二人がどのように自分の道を形づくってきたのか──その人生の軌跡をたどる。
続く【“撤退”しまくった二人が語る、「白旗をあげてもいい」それでも“キャリアが壊れない人”の共通点】はこちらから。